【虎に翼】「攻めた脚本」の声もあった脚本家の熱意「私はどう言われてもいい…何かにつながれば」

NHK連続テレビ小説『虎に翼』(月~土曜午前8時)の脚本を手掛ける吉田恵里香さんが、NHKで行われた同作の取材会に出席し、作品に込めた思いや主演・伊藤沙莉の魅力などを語った。8月の放送では結婚したら名字が変わることに悩む主人公・寅子の姿や轟(戸塚純貴)の同性への思いが描かれ、セクシュアルマイノリティーの登場人物もいた。SNSでは「攻めた脚本」という声もあった。

脚本家の吉田恵里香さん【写真:(C)NHK】
脚本家の吉田恵里香さん【写真:(C)NHK】

吉田恵里香さんが描いた夫婦別姓の問題やセクシュアルマイノリティー

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』(月~土曜午前8時)の脚本を手掛ける吉田恵里香さんが、NHKで行われた同作の取材会に出席し、作品に込めた思いや主演・伊藤沙莉の魅力などを語った。8月の放送では結婚したら名字が変わることに悩む主人公・寅子の姿や轟(戸塚純貴)の同性への思いが描かれ、セクシュアルマイノリティーの登場人物もいた。SNSでは「攻めた脚本」という声もあった。

 まずは『虎に翼』の脚本を書き終えた感想から尋ねた。

「最後までストレスなく楽しく書けました。ただ、やり切ってすごく満足しましたし、出し切ったのですが、あの人のことをもう少し深掘りできたな、という気持ちもすごくあるので、あと3か月分ぐらい物語が続いても良かったなと思いました(笑)」

 8月には昭和30年代を舞台に夫婦別姓の問題やセクシュアルマイノリティーに関する展開も。どんな思いを脚本に込めたのだろう。

「憲法14条で『すべての国民は法の下に平等……差別されない』と書かれている国ですが、周知されていないことによって、あまり平等ではない人がまだ大勢いるということは事実です。それは令和の世に始まったのではなく昔からあったこと。調べると寅子が生まれる前から存在したことが大半でした。大半の方々が意図的か無意識かはさておき、見ないようにしてきたことをちゃんと見せることに意味があると思いました。やってやろうとか挑戦という気持ちではなく、当時からいた人をきちんと書きたい気持ちが強くあって結果的にこういう形になりました」

 視聴者にどう受け取ってほしいのだろう。

「朝ドラにセクシュアルマイノリティーの方が出演したことで何かを思う方もいるかと思いますが、浮かんだ気持ちに正直でいいと思っています。セクシュアルマイノリティーの方は当時からいましたし現代も変わりません。この問題が70年以上たった今も基本的にあまり変わっていないということを、なぜなのかなと思いをはせていただけたらうれしいです」

 SNSでは「攻めた脚本」という声もあった。反響をどう感じているのか。

「SNSはあまり見ておらず発信中心になってしまっています。まず昔からそういう方がいたということと、その時から苦しみ、心が折れて世の流れに身を任せた人もたくさんいたことを知ってもらうことが大事。令和とかここ数年でぽっと出た問題と思っている人が結構多いんです。今、解決できないから未来に投げようみたいなマインドになりがちですが、70年、100年近くも前から置いておかれた問題だと分かってもらえるだけで本望。私はどう言われてもいい。問題提起というか何かにつながればと思ったので、やる意味はあったと思います。当事者の方が矢面に立たずにエンターテインメントでやれることが少なくともあるはずだと思っています」

 セクシュアルマイノリティーを学びたいとか表現したいと思っても人を傷つけてしまう怖さを感じる人もいる。

「描く上で間違うことや反省することがたくさんあります。クリエーターには怒られるからやらないというマインドの人が多分、多く、だからエンタメで使わないと言って終わる人が多いです。私は元気なうちは怒られてもいいので勉強し、エンタメで描くことをやっていきたいと思います。未来に託し過ぎて今は怒られない範囲にとか敵を作らないようにしていると、本当に歩みが遅くなります。知ろうと思うことを恐れないでほしい」

寅子を演じる伊藤沙莉【写真:(C)NHK】
寅子を演じる伊藤沙莉【写真:(C)NHK】

寅子の口ぐせ「はて」誕生の背景

 ここで話題を寅子の口ぐせ「はて」に。疑問を感じた際に言う印象的なセリフ誕生の背景を聞いた。

「寅子が疑問に思ったんだなという時、分かりやすく提示できる言葉が欲しくて考えました。あまり強くない言葉というか寅子も誰かを攻撃したくて使っている言葉ではないので。『それ違うんじゃないの』と言ってしまうと対話が終わります。この作品は思ったことを口にすることがテーマ。その導入になればと思いました。他に『うーん』とか考え込むような言葉も浮かびましたが寅子っぽくないなと。『はて』は悩まず、私の中でしっくりきました」

 以前から自身も「はて」を?

「使わないです(笑)」

 伊藤の演技をどう見ているのかも気になる

「お芝居がすばらしい。立っているだけでも感情が見えますし、喜怒哀楽の表情は芸に達するぐらい表情筋が発達していると思います。伊藤さんならやってくれる、伊藤さんならここは嫌われずにいけるという気持ちで書いていました。最近の大人になった寅子の演技がすごくいいと思っていて、やり過ぎない演技……所作、まなざしで年齢を演じ分けていますのですばらしいと思います」

 印象に残る姿も紹介してくれた。

「現場にいつ行っても伊藤さんはニコニコしていて、いつも笑い声がしていて元気だなと思っていました。1回もピリピリとか、ムスっとしていたことがありません。長丁場の撮影でそういられることはすごいことです。お話していると私が元気になります。周りを笑顔にする才能のある人」

 甘味処「竹もと」の店主とおかみに役名がないことも尋ねてみた。

「竹もとがこんなに最後まで登場する想定ではなかったんです。最初は店主と寅子が会話をする想定もしていませんでした。そこからずっときてしまいました。いい誤算というか名前をあえて付けなかったというより、ここまで出演してもらう予定じゃなかったんです」

 最後に朝ドラの脚本執筆が夢だった吉田さんに今後の夢を聞いた。

「また朝ドラの脚本をやることですかね。オファーが早いうちに来るといいですね(笑)」

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください