坂東玉三郎、41年ぶりの芸者・お蔦役に「できるかしら」 片岡仁左衛門と泉鏡花の名作『婦系図』で初共演

歌舞伎俳優の片岡仁左衛門、坂東玉三郎が8月29日、東京・中央区の歌舞伎座で行われた「歌舞伎座『錦秋十月大歌舞伎』夜の部『婦系図』」の取材会に出席した。明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家・泉鏡花の名作『婦系図』を、10月2日から歌舞伎座で上演する。

取材会に出席した坂東玉三郎
取材会に出席した坂東玉三郎

新派の代表作『婦系図』を錦秋十月大歌舞伎で上演

 歌舞伎俳優の片岡仁左衛門、坂東玉三郎が8月29日、東京・中央区の歌舞伎座で行われた「歌舞伎座『錦秋十月大歌舞伎』夜の部『婦系図』」の取材会に出席した。明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家・泉鏡花の名作『婦系図』を、10月2日から歌舞伎座で上演する。

 同作は、明治41年(1908年)に新富座で初演されて以降、新派の代表的演目として名優たちによって上演されてきた人気作。言語学者・早瀬主税(はやせちから)と、元柳橋の芸者・お蔦(おつた)の悲恋を軸に、2人を取り巻く人々を描く。新派は明治時代に始まった日本の演劇の一派で、歌舞伎とは異なる当時の新たな現代劇として発展。「旧派」の歌舞伎に対して「新派」と呼ばれている。

 名うてのスリだった主税は、過去に言語学者・酒井俊蔵の財布をすろうとしたものの、酒井の恩情によって養育され、自身も立派な言語学者に成長。酒井の娘からも好意を寄せられていた。しかし主税は、元柳橋の芸者・お蔦と内密に世帯を持つ仲。主税とお蔦の関係を知った酒井は、主税の将来を考え「俺を棄てるか、娼を棄てるか」と迫る。学者に育てあげてもらった師匠である酒井に恩義を感じた主税は、「婦を棄てます」と答える。

 主税とお蔦の別れを描く名場面『湯島境内』はもともと原作にはなく、新派草創期の名優・初代喜多村緑郎の依頼で鏡花が戯曲を書き下ろした。今回は仁左衛門が過去5回演じてきた主税を、玉三郎が昭和58年(1983年)以来41年ぶりにお蔦を演じる。これまで数々の作品で共演している2人だが、『婦系図』での共演は今回が初となる。

 仁左衛門は、「2人でお仕事をするのは楽しいものですから、『次は何をしようかね』とよくお話しているんです。今年2月に大和屋(玉三郎)さんから『これどう?』って聞かれまして。主税は好きなお役ですが、またするとは思っていなかったので、『大丈夫かな』って言ったら、『大丈夫よ』って」と、『婦系図』を上演することになった経緯を説明。「大和屋さんとは新派でもご一緒しましたし、私も新派は好きなので、(新派演目も)たまにはいいかなと。初めて大和屋さんのお蔦で、私自身は5回やっていますけども、勉強し直してやります」と意気込んだ。

 玉三郎も、「松嶋屋(仁左衛門)さんとはここ数年ご一緒させていただいて、そんな中で、今回は歌舞伎ではないですけど、『湯島の境内どう?』と。松嶋屋さんとは数々の新派作品をやらせていただきましたし、お互い新派とも親しくさせていただいた2人ですので、企画にあがりました」と語った。

 仁左衛門は恋人に別れを告げる主税の役について、「非常にしんどい役なんですよ」と告白。「私はしんどい役はあんまり好きじゃないですけど、でも主税は好きでね。(師と恋人の間で悩み、別れをどう切り出すかで)苦しんでいる間は一番難しくて、この役の一番大事なところでしょうね」と説明。「当時の師弟関係をしっかり貫いてやらせていただいている。今の時代の別れと、当時の時代の別れは全然違いますからね。その切なさも伝わればと思います」と語った。

 別れを切り出されるお蔦を演じる玉三郎は、「今の恋愛感情とは違うかもしれないですが、わたくしたちの時代はそういう時代だったので、そのままやればいいのかなと。あんまり幸せでは、物語にならないんでしょうね」と報道陣を笑わせた。「でも2人が思い合う気持ちというのは、師匠がいて条件に挟まれていましたが、『思う気持ち』自体は幸せだったと思うんです」と語り、「『結ばれてうまくいくから幸せ』というのではなく、そういうものだから(結ばれないから)美しかったのかもしれない」と思いをはせた。

 また41年ぶりに演じるお蔦について、「(歌舞伎座の)広い舞台で、若々しく動き出さないといけない。それができるかしら。年齢を重ねてきて、どうやって“お蔦の線”が出せるかしら。いくら稽古しても、やってみないと本番にならないと分からない」と緊張も明かした。「若い時はそんなこと考えないの。『大役でお蔦をやらないといけない』と、どんどん進んでいった。名優たちのビデオを見ながら、自分だったらどうするか考えました」と41年前を振り返り、「今回お蔦ができたら、次もできるかも」と語った。

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