38歳・大東駿介の信念 英語で書かれた原書も読み「与えられたものを漫然と演じるのは無責任」

俳優・大東駿介が、2年ぶりに海外で生まれた戯曲に挑む。今月10日から東京・世田谷パブリックシアターで上演の舞台『What If If Only―もしも もしせめて』に出演する。英国で上演された戯曲の日本初上演となり、大東の役は愛する人を失った“某氏”。死別という普遍的なテーマを海外の文化と専門家の視点も学んで演じていく。

インタビューに応じた大東駿介【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた大東駿介【写真:ENCOUNT編集部】

海外で生まれた戯曲に2年ぶり挑戦

 俳優・大東駿介が、2年ぶりに海外で生まれた戯曲に挑む。今月10日から東京・世田谷パブリックシアターで上演の舞台『What If If Only―もしも もしせめて』に出演する。英国で上演された戯曲の日本初上演となり、大東の役は愛する人を失った“某氏”。死別という普遍的なテーマを海外の文化と専門家の視点も学んで演じていく。(取材・文=大宮高史)

 同作は、英国人劇作家のキャリル・チャーチル氏による最新作で、2021年に英国で初演された。今回は、チャーチル氏のもう1本の戯曲『A Number―数』との2本立てで上演される。物語は愛する人を失った“某氏”(大東)に、浅野和之扮する“未来”や“現在”が語りかけ、未来へのたくさんの“if”を提示していく。大東は脚本を手にして以降、この役に入り込んでいるようだ。

「『人間とは何か、命や愛とは』を大いに考えさせられました。脚本をいただいてから稽古が始まるまで、半年ほどありました。その間にもどっぷりとこの物語の魅力に取りつかれていたので、『いったん、距離を置かなければ』と興奮を抑えました。僕だけの作品でもありませんし、俳優、演出家、翻訳者やカウンセラーまで交えて、人間の“情”を丁寧に分析して再構築した戯曲です」

 大東は「このタイミングで出会えて本当によかった」とも言った。

「キャリル・チャーチルが、コロナ禍を経て書いた物語です。僕も近年、大切な友達を亡くして立ち直れなかった時期がありました。それだけでなく、この夏の異常な暑さや世界情勢を見ていると『世の中もっとこうしておけばよかったんじゃないか』と思わされます。後悔や悲しみを経験した上で『どう乗り越えていくか』のヒントを伝えていくべく、皆で向き合っています」

「悲しみ」「離別」といった普遍的な感情を描いた舞台だが、他に例がないほど、演者とスタッフで討議を重ねたという。

「“某氏”ってはっきりとした名前がなくて、抽象的な存在でそのまま表現するだけではあいまいに映ります。だから彼の人生を具体的に想像していきました。彼の名前を考えて、どこで誰と暮らしてどんな人生を歩んで、いつ頃に結婚して別れを味わったのか、短い脚本の中から人生を作っていきました」

 特筆すべきは、親しい人を失った悲しみを癒す「グリーフケア」を大東ら俳優も体験したことだった。

「グリーフケアの専門家の方にお話を聞いたり、劇中には登場しない某氏の彼女との日常をまず体験するワークショップから始まりました。僕と彼女役の方と2人で買い物に行ったり散歩をしたりと……そして、彼女との生活に慣れてきたところで、彼女なしで同じ日常の動作を体験してみるんです。やってみると大変な喪失感があり、悲しみの感情を客観的に捉えることができました」

出演作ごとに、好奇心を発揮していく【写真:ENCOUNT編集部】
出演作ごとに、好奇心を発揮していく【写真:ENCOUNT編集部】

稽古場で演出家、翻訳家と議論

 人間の悲しみにはいくつもの段階がある。その視点も専門家から学んでいた。

「人が悲しい現実に直面して、怒ったり、悲しんだりと直情的な反応を経て折り合いをつけていく過程があるそうです」

 英語で書かれた原書の脚本やプロダクトノートも読み、大東なりの解釈を稽古場で演出のジョナサン・マンビィ氏に問うたという。

「AIの力を借りながら読んでいましたが(笑)、外国の作品とはいっても与えられたものを漫然と演じるのは無責任だなと思いました。もともと僕は演じる上で自分の意見を言うタイプなので、翻訳の広田敦郎さんも稽古場に来てくれて、台詞の1行に至るまで、一緒に言葉の壁に向き合える環境だったことがありがたかったです。分かりやすさを優先して、簡単にニュアンスを変えることだけはしませんでした。例えば、英語の原典では主語がないセリフを勝手に『彼』としてよいのか、まで議論していました。さらに僕は脚本を読んだ時に『深夜2時に一人ベッドに入る時に感じる孤独感に近いな』と思っていましたが、ジョナサンは(某氏は)彼女を亡くして数か月なので休日の朝、目が覚めると悲しみが襲ってきている時だと分析していて。それを聞いて『朝なのに悲しくなるんや』と。休日、何もしない時にふと感じる喪失感をお客さまにも感じてもらえればと思います」

 海外で生まれた戯曲を日本で上演するがゆえの使命感も負っている。

「一昨年出演したアーサー・ミラーの戯曲『みんな我が子』は、戦後のアメリカが舞台でした。ところが戦勝国のアメリカと敗れた日本では戦争への感覚も違うんですね。日本人が、戦争に勝ったはずのアメリカで苦しむ若者を演じることで、我々は違う価値観を知ることができる。今作でも『離別の悲しみ』という普遍的なテーマを扱っていますが、国ごとの死生観の違いまで理解して演じるからこそ、いい加減な表現にはならないで我々の記憶に残っていくのだと思います」

 原典を読み、作品のバックグランドを知ることは「俳優のやるべき当たり前のことです」と習慣づけてきた。

「自分の人生の足しにもなり、未知のお芝居に挑むためのお守りでもありますね。今回は死にまつわる哲学から、クローンに関することまで学びました。例えば、クローン人間というのは『遺伝子が同じで年の離れた双子』のようなものだそうです。では、肉体も遺伝子も同じなら魂って何なんやろうか……。もう哲学の次元ですね。学者はそんな領域まで考えていると知りました」

『A Number』と『What If If Only』の二本立ては、同じ劇作家の作品であるが、二本立て上演は、日本版が世界で初めての試みになる。

「どちらも人間の本質を問いつつ、苦しみに耐えるのではなくて自分を納得させ、前に進んでいけるメッセージをくれる作品です。初めて脚本を読み終えた時の興奮は覚えていますが、表に出しすぎるのは自己満足でしかないので、難解な戯曲の最後の一押しとして役に乗せていく感覚でいます」
 
 一人の人間として、愛や人生について学び、考え抜いてきた答。大東は舞台の上でそれを見せていく。

□大東駿介(だいとう・しゅんすけ) 1986年3月13日、大阪府生まれ。モデルを経て2005年、日本テレビ系連続ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で俳優デビュー。以後、テレビ、映画、舞台など幅広く活動。今年は映画『劇場版 アナウンサーたちの戦争』、テレビ朝日系『JKと六法全書』、東海テレビ・フジテレビ系『嗤う淑女』などに出演。182センチ。

<公演情報>
Bunkamura Production 2024/DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number―数』『What If If Only―もしも もしせめて』
出演:堤真一 瀬戸康史/大東駿介 浅野和之 ほか
◆東京公演:9月10日~29日 世田谷パブリックシアター
◆大阪公演:10月4日~7日 森ノ宮ピロティホール
◆福岡公演:10月12日~14日 キャナルシティ劇場

スタイリスト/服部昌孝
ヘアメイク/SHUTARO(vitamins)

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