父と交わした約束…“二世レスラー”田中きずなが目指す「一人のプロレスラー」としての姿

田中きずなの心の中には、常に「親の名に傷をつけたくない」という思いがあった。両親の存在を隠してデビューしたいと伝えたこともあるという。しかし「女子プロレス界のプリンセス」と呼ばれることも多くなった。今、田中は前向きな気持ちでこの思いと向き合っている。そのきっかけとなったのは、同じ境遇の二世レスラーたちのファイトだった。

今考えていることを語ってくれた田中きずな【写真:橋場了吾】
今考えていることを語ってくれた田中きずな【写真:橋場了吾】

『田中きずなのお父さんって田中稔なんだ、と言われるようになってくれ』

 田中きずなの心の中には、常に「親の名に傷をつけたくない」という思いがあった。両親の存在を隠してデビューしたいと伝えたこともあるという。しかし「女子プロレス界のプリンセス」と呼ばれることも多くなった。今、田中は前向きな気持ちでこの思いと向き合っている。そのきっかけとなったのは、同じ境遇の二世レスラーたちのファイトだった。(取材・文=橋場了吾)

 田中きずなは、2023年4月にデビューし、今年4月から休業。そして7月12日にマリーゴールドへ入団し、翌13日の両国国技館大会で復帰を果たした。実は、ある団体を見てから田中稔・府川由美という両親への思いが変化したという。

「今年に入ってから、DRAGONGATEさんを見る機会があったんです。そのときに、ISHINさん(維新力・穂積詩子夫妻の息子)と望月ジュニアさん(望月成晃の息子)を初めて生で見て。お二人の試合を見たときに、いい意味で親を意識していないという感じがしたんです。私はなんで両親のことをこんなに重く捉えてしまっているのか、周りはそれほど重く思っていないのに、私が勝手に背負ってしまっているのではないかって。お二人も背負っているものや同じ悩みがあるのかもしれないんですが、親の存在を意識させない『一人のプロレスラー』だなって。お二人の試合を見るまでは、(両親の得意技である)関節技を出すのも躊躇するくらいでした。でも今は、親の技を使っても自分の技なんだと胸を張っていえるようにしたいと思いますし、『一人のプロレスラー』として見られたいという気持ちを思い出しました。お父さんとした『田中きずなのお父さんって田中稔なんだ、と言われるようになってくれ』という約束も果たさなきゃいけないですしね」

 この話をしているときに、田中が思い出したことを涙ながらに話してくれた。

「両親がプロレスラーって、凄くありがたいことじゃないですか。私はプロレスラーになりたいと思って、その環境は凄く恵まれていると思いますし、それを自分から捨てる必要はないと思うようになりました。この二人の元に生まれたのだから、二人のいいところを全部取ってやるというくらいの気持ちで。そういえば、私が小さい頃、お母さんと二人でプロレスを見ていると泣いていることがあったんです。どうしたの?と聞くと『プロレスラーとしてやり残したことがある』って。

 お母さんは怪我でプロレスラーを引退しなくてはならなかった……私が大きくなるにつれてその重みがわかってきて、娘がプロレスラーになりたいなんて言い出したら心配になりますよね。でも、プロレスのことが本当に大好きなんだなって。『ARSION THE FINAL』(2024.1.12新宿FACE大会)でお母さんが一日限定復帰したときは、同じリングに立てたこともあり夢のような感じでした。そこでお母さんの試合を見て、お母さんが今まで見たことないぐらい楽しそうで。でもその一日限定復帰で、やり残したことが精算できたわけではないと思うので、両親の存在を重圧に感じるのではなく、私は私なりのスタイルでお母さんのやり残したことをやると決意しました」

シングルリーグ戦もスタートし期待がかかる【写真:(C)マリーゴールド】
シングルリーグ戦もスタートし期待がかかる【写真:(C)マリーゴールド】

ビクトリア弓月とはいつかトップで張り合いたい

 マリーゴールドでは、復帰戦でタッグを組んだビクトリア弓月とともにツインスター王座を狙っている。絶賛タッグ名募集中の二人は、生まれ年こそ違うが学年は一緒だ。

「弓月は、私が『NEW BLOOD』(スターダムのブランドのひとつ)に参戦させていただいたときに練習生で、当時は挨拶しただけの関係でした。でも、マリーゴールドに入る前の3カ月はリングで練習ができていなかったので不安だらけだったのですが、弓月がずっと支えてくれました。いつもポジティブで、笑わせてくれたり励ましてくれたり。弓月がずっと隣にいてくれて救われている分、弓月とのタッグではない試合のときはめちゃくちゃ不安になっちゃって(笑)。いつの間にか、弓月は凄く特別な存在になっていましたね」

 タッグ王座を狙う前に、田中はマリーゴールドのシングルリーグ戦『DREAM STAR*GP2024』に出場。8.31大阪大会を皮切りに、9.28名古屋大会まで1カ月近い過酷なシングルロードが開幕した。2リーグ制で行われる今大会だが、田中と弓月は別リーグに分かれたため、戦う舞台は決勝戦以外にない。

「私は本当にプロレスが大好きで、弓月もプロレスが大好きなんですよ。二人とも、空き時間はずっとプロレスの試合を見ていて、ずっとプロレスのことを考えています。本当に弓月のプロレスに対する情熱は、近くで見ていて凄くリスペクトしていますし、私はその弓月が隣にいてくれて心強いと思っているのですが、弓月にもそう思ってもらえるように頑張りたいと思います。でも、いずれは私と弓月がトップで張り合えるようになりたいなと思いますし、このリーグ戦の決勝で実現すれば最高ですね」

 そして、このリーグ戦ではマリーゴールド・ワールド王者のSareeeともシングルで戦う(9.21盛岡大会)。Sareeeとはマリーゴールド移籍以前にタッグを結成(Sareee&田中きずなvs高橋奈七永&優宇/2024.2.15新宿FACE大会)したことはあるが、対戦は初となる。

「私はマリーゴールドに来て、エースを目指しますと宣言しました。その言葉を言ったからには、自分の言葉に責任持っていきたいです。Sareeeさんは栗原さん(あゆみ…詳しくは前編参照)から技も継承していますし憧れの気持ちがありますけど、その気持ちを置いておいて、一選手としてSareeeさんを倒しに行かなきゃいけないなと。そして、試合後にはSareeeさんの頭の中が私のことでいっぱいになる試合をしたいです」

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