大学生で映画デビュー、ドラマ出演60本以上…大西礼芳の転機「真面目に考えすぎていた」

8月29日より東京・浅草九劇にて、演劇ユニット「ピンク・リバティ」の新作公演『みわこまとめ』が上演されている。本作の主演を務める俳優の大西礼芳(あやか)と、作・演出を務める演出家・脚本家の山西竜矢氏にインタビューし、本作への意気込みや見どころとともに、大西の転機について話を聞いた。

初の主演舞台『みわこまとめ』に挑む大西礼芳【写真:ENCOUNT編集部】
初の主演舞台『みわこまとめ』に挑む大西礼芳【写真:ENCOUNT編集部】

初の主演舞台『みわこまとめ』が公演中

 8月29日より東京・浅草九劇にて、演劇ユニット「ピンク・リバティ」の新作公演『みわこまとめ』が上演されている。本作の主演を務める俳優の大西礼芳(あやか)と、作・演出を務める演出家・脚本家の山西竜矢氏にインタビューし、本作への意気込みや見どころとともに、大西の転機について話を聞いた。(取材・文=猪俣創平)

 山西氏が2016年に旗揚げした演劇ユニット「ピンク・リバティ」。リアリティある日常生活の風景や言葉が奇妙な世界と混ざり合っていく、不穏かつ幻視的な作風が特徴的な舞台。今作『みわこまとめ』は、大西演じる主人公・実和子の半生といびつな恋愛遍歴を通して、現代を生きる人々のさみしさや欲求、狂気を描く悲喜劇となる。

 大西にとって「ピンク・リバティ」への参加は、21年『とりわけ眺めの悪い部屋』以来。「前回とはお芝居の印象がかなり違う」と今作の特徴を説明する。

「とりわけ眺めの悪い部屋はワンシチュエーションの群像劇で、今回は一人の人間の物語なので、作りが全く違うんですけど、セリフの色みたいなものは、どちらも山西さんが書かれているとはっきり分かりますし、読んでいても面白いです。ワードだとか、言葉の組み合わせも独特で、それがすごく私は好きなんですけど、覚えるのは大変です(笑)」

 そんな大西の魅力について、山西氏は「めちゃくちゃありますけど、見ていてずっと面白い俳優さんですね」と演出家の目線から解説する。

「大西さんは何かの役を演じていても、良い意味で、ずっと大西さんがやっている“強さ”があります。今回であれば、実和子を演じているんですけど、大西さんを見てるようにも思える。僕はそういうお芝居をされる方が好きで、役の感情が動いている様子がすごく立体的に感じるんです。舞台ってものすごく虚構なんですけど、大西さんを見ていると現実と錯覚する瞬間があります。やっぱり“見ていて面白い”に尽きますね」

 さらに「不思議な魅力があります」として、稽古中の様子も明かした。

「演出や脚本をやっていると『こんな感じになるかな?』とパターンが想像できてしまうことがあるんですけど、大西さんが演じると全部ちょっと違うんですよね。思っていたものと音や言い方が少しずつずれていて、絶妙に生っぽさというか、現実感が出るんです」

 大西は今作が初の主演舞台。「今回ありがたいことにずっと舞台上に立たせていただいていて、体力的にも精神的にも乗り越えなければいけない部分があるのですが、踏ん張って楽しくみわこを演じたいです」と座長としての心境を吐露しつつ、「皆さんの明るさに助けられていて、ちょっと甘えさせてもらってるところが多いと思いますね」と共演者やスタッフへの感謝の言葉を口にする。

インタビューに応じた大西(左)と山西竜矢氏【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた大西(左)と山西竜矢氏【写真:ENCOUNT編集部】

映画『嵐電』への出演が転機に

 そんな大西だが、俳優デビューのきっかけは、京都造形芸術大在学中に参加した映画『MADE IN JAPAN ~こらッ!~』への出演だった。もっとも、大学入学前から俳優を志していたわけではなく、「絵を描くことや音楽、写真も好きで、好きなアート方面をすべて学べるのが映画だと思いついたんです。よくメイキングなど舞台裏の映像がありますよね。それを見ていたら、私のやりたいことを生かせるのは映画の世界かなって思いました」。

 また、芝居の経験もなかったが、幼少期から好きだった名作アニメに影響を受けて俳優にも興味が湧いたという。

「『ルパン三世』が好きで、山田康雄さんや納谷悟朗さん、小林清志さんも皆さん舞台出身で、その掛け合いがすごく楽しかったんです。アニメの絵と声の表現が少しずれていて、ルパン以外に『山田康雄もおる!』みたいな、そういう芝居が面白くて、やってみたいなという思いもありました」

 隣で話を聞いていた山西氏が「そんな話してたよね」とうなずき、大西の言葉を敷設した。

「表情に合いそうな声って想像できるんですよね。たとえば『愛してる』というセリフがあったときに、おおよそ想像できる言い方だと、あまり感動できない。それは実写でもアニメでも同じで、画やセリフと芝居のズレがあることで、よりリアリティを感じることがあります」

 自由な掛け合いから生まれる芝居の魅力に惹かれ、始めた俳優業。大西は大学卒業後も数々の映画、ドラマ、舞台、CMに出演し、ドラマは60本以上と膨大だ。自身もその本数は「全く認識してないです」と笑うが、転機となったのは19年公開の映画『嵐電』だったと明かす。

 映画に出演した当時は、「テレビドラマに出ることが多かったんですけど、求められた型にハマった芝居をずっとしてしまっていないかと悩んでいた時期でした」と振り返る。俳優に興味を持ったきっかけの“自由な芝居”の面白さとは「反対のことをやっちゃっていたのかもしれません。真面目に考えすぎて、しっかりやらなきゃと」。

 そんなタイミングで、母校の学生がスタッフや出演者に多く参加する撮影に入ると、「求められるものも何も考えずに、リラックスしてカメラの前に立てたんです。時間通りに来る電車に私たちが芝居を合わせに行くような撮り方をしていて、それも楽しかったですし、それが私の体を逆に自由にさせてくれたのかなと思います」と変化があったという。

 今作でも「自由にやらせてくださるので、リラックスして芝居している感覚があります」と手応えをつかんでいる。山西氏も「大西さんの芝居、もちろん周りのキャストの方もみんな素晴らしくて本当に面白いので、そこは見てほしいですね」と胸を張る。

 初主演舞台で稽古も重ねる大西は「最初から最後まで走りきれるかどうか分からないっていうギリギリのところでやっています。でも走りきりますんで、どうか見届けに来てください」と呼びかけた。予想を上回る自由な演技で、見る者を魅了していく。

□大西礼芳(おおにし・あやか)1990年6月29日、三重県出身。京都造形芸術大映画学科在学中に、高橋伴明監督の映画『MADE IN JAPAN ~こらッ!~』(2010年)で主演を務める。以降、映画、ドラマ、舞台、CMなどで幅広く活躍。主な出演作品は、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、BS時代劇『あきない世傳 金と銀』(23/NHK)、『夜明けまでバス停で』(22)、映画『鯨の骨』(23)。2024年には『めぐる未来』(読売テレビ)、映画『見知らぬ人の痛み』、映画『初級演技レッスン』に出演した。

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