テレビ超える“新時代メディア戦略” フジテレビ×読売テレビの異色対談で見えた仕事への向き合い方
フジテレビの清水俊宏氏と読売テレビの西田二郎氏による異色の対談が実現した。この対談で明らかになったのは、両者に共通したテレビ局が従来の枠を大きく超えた新ビジネスを生み出そうとしている姿だ。
報道からYouTube、商品開発まで…枠にとらわれない多彩な活動
フジテレビの清水俊宏氏と読売テレビの西田二郎氏による異色の対談が実現した。この対談で明らかになったのは、両者に共通したテレビ局が従来の枠を大きく超えた新ビジネスを生み出そうとしている姿だ。
清水氏の肩書は、一般的なテレビマンの概念を覆す「ニュース総局報道局取材センター経済部担当部長」であり、同時に編成総局ビジネス推進局プラットフォーム事業部も兼任している。つまり、ニュースのプロデューサーとビジネス開発のプロデューサーという、一見相反する2つの役割を担っているのだ。
「アイデアの総量は移動距離に比例する」という信念を持つ清水氏。この言葉通り、彼の活動範囲は従来のテレビ局員の枠を大きく超えている。
清水氏のキャリアは報道畑から始まった。2015年から19年まで運営されたニュースサイト『ホウドウキョク』の立ち上げに携わり、24時間ニュースチャンネルの配信に挑戦した。この経験を通じて、デジタル配信の可能性と同時に、その課題も痛感することになる。
『ホウドウキョク』は、当時としては画期的な試みだった。清水氏は「24時間ニュースチャンネルをずっと配信し続けるというのをやろうと。今で言うと、テレビ朝日系列さんのAbemaTVなどがやってますけど、あれの先駆けみたいなことをやってましたね」と振り返る。
しかし、この挑戦は同時に大きな課題も浮き彫りにした。「やっぱり24時間ニュースチャンネルをずっとやり続けるのは、コストの面がなかなか見合わないという点があります」と清水氏は指摘する。
この経験を経て、清水氏は報道局からビジネス推進局へと異動。ニュース配信をビジネスにする方法を本格的に模索し始めた。ここで取った行動が、まさに「アイデアの総量は移動距離に比例する」という信念を体現するものだった。
清水氏はアメリカのメディア企業を精力的に視察した。「ニューヨークでABCニュースなどテレビ局系と、当時人気だったハフポスト、BuzzFeedに行って、そこから西海岸へ飛んでサンフランシスコでFacebookとツイッターとGoogleへ行って。さらにロスへ行って、ディズニーなど配信プラットフォームも見てきました」と、その行程を語る。
この視察で得た知見は、清水氏の“future活動”に大きな影響を与えた。「そこで分かったのが、24時間ずっとやり続けてるチャンネルはアメリカでも閉じたり苦戦してたりしていて、『これは将来の日本の姿だなぁ』と思いましたね」。
この気づきを元に、清水氏は短尺動画やライブ配信など、多様な形態のコンテンツ配信を試すようになった。そして現在、その集大成とも言えるのが、フジテレビ公認YouTuberとしての活動だ。
清水氏が運営するYouTubeチャンネル『#シゴトズキ』は、企業幹部やスタートアップCEO、タレントなど多彩なゲストに「仕事に役立つ思考法」をインタビューしている。このチャンネルは、清水氏の「仕事好きを増やして世界を豊かにしたい」というミッションを体現するものだ。
参加型コンテンツとプロダクトアウトの商品開発、新しいビジネスモデルの模索
清水氏が考えるテレビの未来像は、従来のものとは大きく異なる。重視するのは「参加する」という要素だ。「今までは機能性でとにかくたくさんの人に見てもらおうとやってきましたが、だんだんアナタのための番組になってきて、好きな人に向けて送るような感覚に変わってきてると思うんです」と清水氏は語る。
さらに、「これからは参加するという部分も大事になってくる」と指摘。一方通行の情報発信ではなく、視聴者が主体的に関わることのできるコンテンツやイベントを作り出すことが重要だと述べた。
この考えを具現化したのが、『#シゴトズキ』の活動だ。このチャンネルは単なる動画配信にとどまらず、視聴者同士が交流できるイベントも開催している。「この間は3周年記念イベントということで出演者を中心に集まっていただいた」と清水氏は語る。
「動画再生数だけで考えると、ネガティブワードをいっぱい入れて『仕事嫌いの何とか』だとか『仕事場のアイツはバカだ』とか、そんなふうにやった方が多分、再生数は稼げるんだと思うんですよ」と清水氏。しかし、そうではなく「ミッションは『仕事好きを増やして世界を豊かにしたい』ってことですから」と、自身のビジョンを貫いている。
清水氏の挑戦は、動画配信にとどまらない。テレビ局の枠を大きく超えた取り組みの一例として、株式会社ポーラとの共同開発による冷凍宅食惣菜『わたしのための、BIDISH。』がある。
この商品開発では、マーケットインではなくプロダクトアウトの発想を採用した。「元々『BIDISH』はマーケットインというよりプロダクトアウトで、自分たちが食べたいものをつくろうという考えなんです」と清水氏は説明する。
開発には、フジテレビの女性社員たちが携わった。「アナウンサー、『めざましテレビ』のディレクター、『ぽかぽか』のAD、国際ビジネスのディレクター。彼女たちが美の食材にこだわって考案したオリジナルメニューを冷凍食品として出した」という。
このアプローチについて清水氏は「共感してもらえるんだったら買ってもらえませんかっていうタイプのもの」と表現。大量生産・大量消費を前提とした従来のビジネスモデルとは一線を画す考え方だ。
清水氏の仕事に対する姿勢も、非常にユニーク。彼は仕事を「為事(ためごと)」と捉えている。「自分で何を為すかを仕事にしていくと、こんな楽しいものはないでしょう。楽しそうに仕事をする人がいたら、自分もやってみたくなる。そんな文化をつくりたい」。
最後に清水氏は、未来への展望として興味深いアイデアを披露した。「先日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)さんとしゃべってた時に『これから月旅行へみんなが行くようになったら、宇宙船の中って暇じゃないですか。宇宙船の中でどんなコンテンツが必要ですかね?』みたいなことが話題になって」と、常に新しい可能性を探求する姿勢を示した。
この対談を通じて、清水氏の活動が従来のテレビ局の枠にとらわれない多様性と創造性に満ちていることが明らかになった。報道、YouTube、商品開発など、さまざまな分野で新しい取り組みを行い、テレビ局の可能性を大きく広げている。
清水氏の姿勢は、変化の激しい現代のメディア環境において、テレビ局が生き残り、発展していくための一つのモデルを示しているといえるだろう。既存の枠組みにとらわれず、外部との連携を積極的に行い、新しいビジネスモデルを模索する姿勢は、他のメディア企業にとっても大いに参考になるはずだ。
このような柔軟な発想と行動力が、テレビ局の、そしてメディア全体の未来を切り開いていくのかもしれない。清水氏の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
□清水俊宏(しみず・としひろ)2002年フジテレビ入社。報道局に配属され、記者、ディレクター、プロデューサーなどに従事。16年にコンテンツ事業局(現・ビジネス推進局)へ異動すると、テレビニュースのデジタル化や新規事業開発などを担当。『FNNプライムオンライン』などネットメディアの立ち上げや、テレビ番組との連動コンテンツなど幅広く手掛けた。2023年、再び報道局へ異動。ビジネス推進局も兼務。「ニュース番組プロデューサー」と「ビジネスプロデューサー」の二刀流を務める。また、フジテレビ公認YouTuberの顔も持ち、経済番組『#シゴトズキ』で企業幹部やスタートアップCEO、タレントなど多彩なゲストから「仕事に役立つ思考法」を聞き出している。
記事提供:読みテレ(https://www.yomitv.jp/)