「なぜ、後輩が提訴」「馬乗り写真スルー」…もう一つの松本人志裁判「渡邊センス対FRIDAY」訴訟記録で浮上の謎

お笑いコンビ・クロスバー直撃の渡邊センスが今年5月、写真週刊誌・FRIDAYの「ダウンタウン 松本人志は『裸の王様』だった 破廉恥すぎる『馬乗り写真』」などと題した記事で名誉を毀損されたとして発行元の講談社らを訴えていた裁判は、26日が第2回の裁判期日だった。ウェブ会議による弁論準備手続きだったが、この場で講談社側が訴状への反論書面を提出。対して渡邊は「何の証拠もなかったです」と自身のXで被告側を批判した。同裁判で一体何が起きているのか。全訴訟記録を東京地裁で閲覧した元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が解説する。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘

 お笑いコンビ・クロスバー直撃の渡邊センスが今年5月、写真週刊誌・FRIDAYの「ダウンタウン 松本人志は『裸の王様』だった 破廉恥すぎる『馬乗り写真』」などと題した記事で名誉を毀損されたとして発行元の講談社らを訴えていた裁判は、26日が第2回の裁判期日だった。ウェブ会議による弁論準備手続きだったが、この場で講談社側が訴状への反論書面を提出。対して渡邊は「何の証拠もなかったです」と自身のXで被告側を批判した。同裁判で一体何が起きているのか。全訴訟記録を東京地裁で閲覧した元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が解説する。

 渡邊センス氏は講談社側の反論を受けて、強気の感想をXに投稿した。

「嘘でしょ。?そんなんで行けると思ってる、の?」

 それを見た私は「一体、どんな反論書面が出されたのか」と思い、東京地裁で訴訟資料を閲覧した。そして、悟った。

「この裁判は、振り出しに戻っている」

 問題となっているFRIDAYの記事は 2018年10月中旬に大阪のホテルで開かれた松本氏参加の飲み会について、女性A子の次のような証言を報じたものだった。

(1)渡邊氏がA子に「明日めっちゃVIPが来るから、女の子を用意できる?もしヤるってなったら必ずできる子を呼んで欲しい」等と頼んだ。そこでA子が友人B子の写真を送ると、渡邊氏は「可愛いし、この子で大丈夫」と答えた。

(2)飲み会当日、渡邊氏がB子に「(VIPと)そういうことはデキるんやんな?」と確認した。

(3)飲み会の後、松本氏とB子だけ部屋に残った。約1時間半後、A子は松本氏に呼ばれてB子とともに部屋飲みし、「B子が松本氏に馬乗りになった写真」を撮影した。

 これに対して渡邊氏はYouTubeで「記事はウソだ」と批判。特に「B子が松本氏に馬乗りになった写真」は、その撮影時間にA子は渡邊氏と一緒にいて写真を撮れないはずだと主張。馬乗り写真の「合成説」が流れるなど議論が過熱していた。

 しかし、今回の訴訟記録を閲覧し、事件の見え方が一変した。まず、注目されていた「松本人志馬乗り写真」の真偽については、渡邊氏の訴状には全く触れられていない。それはそうだ。「松本人志馬乗り写真」は松本氏の名誉を傷つけることはあっても、渡邊氏の名誉とは関係ない。だから、そもそも渡邊氏はこの写真について裁判を起こす立場にはない。

 その上で、訴状は渡邊氏の女性への接し方に関する内容が名誉を傷つけたと主張しているが、そこには苦心の跡があった。実はFRIDAY記事の主役はあくまで松本氏で、渡邊氏についての記載はわずかだ。それでも渡邊氏の名誉が傷ついたと主張するため、訴状ではある論法が編み出されていた。

 それは「FRIDAYの前に週刊文春の『性上納報道』があったのだから、FRIDAYの記事は週刊文春と『併せて』解釈すべきだ」というものだ。訴状には、FRIDAY記事は「週刊文春の記事内容と併せれば、原告が女衒(ぜげん)に徹して、訴外松本に女性を上納、献上していたとの印象を抱かせるものである」と主張されていた。

 この訴状に対して今回、講談社側が反論書面を提出したのだが、その分量はわずか6ページ。証拠は1通も提出されていない。なぜか。

 理由は渡邊氏側の訴えが大前提としている「FRIDAYと週刊文春は併せて解釈すべき」という考えが「既におかしい」と、議論の入り口でその主張をはねつけているからだろう。確かにFRIDAYの記事自体には「女衒」「献上」などの言葉は出てこない。週刊文春が当時盛んに「性上納疑惑」を報じていたからと言って、なぜ文春の責任をFRIDAYが取らなくてはいけないのか。そうした主張が講談社側の反論の柱の1つとなっていた。

 その上でFRIDAYの記事だけを読んだ時、それが渡邊氏の名誉を傷つけているといえるかどうか。講談社側は、渡邊氏が女性に「ヤれるのかどうか」と確認したという記事内容についてこう主張した。

「一般読者に与える印象は、原告は、もし性行為を行うことになっても大丈夫かどうかを事前に確認し、女性の真摯な同意が得られた場合に限り、訴外松本との飲み会に招待していたというものである」

 渡邊氏が事前に女性の意思を確認したという内容は丁寧さの現れとして渡邊氏の名誉を高めることはあっても、名誉を傷つけることはない。これが講談社側の反論だった。

裁判所は渡邉氏側に指導、議論は振り出しに

 このように講談社側の反論の柱は、そもそもFRIDAY記事は訴状が主張するような内容ではないし、渡邊氏の名誉を傷つけるものでもないという点にあった。そして、記事が渡邊氏の名誉を傷つけていないなら、内容が真実かウソかに関係なく「名誉毀損」は成立しないというのが法律の考え方だ。講談社側は今回の反論書面に記事が真実だという主張を簡単に書き、根拠の1つとして「馬乗り写真」を挙げたが、証拠提出はなかった。これは渡邊氏側の「週刊文春と併せて解釈」などの主張を「無理すじ」と見て、裁判が「記事が真実かどうか」以前の議論で終わると考えたからではないだろうか。

 そして、裁判所は今回の期日で、渡邊氏側に次のような宿題を出した。

「記事で摘示された事実が何かについて、主張を整理すること」

 FRIDAY記事に何が書かれていたのかについて、渡邊氏の主張をもう1度整理するようにと裁判所から指導が入ったのだ。提訴から約4か月、議論は「記事の内容は何か」という振り出しに戻っていた。松本氏の裁判と同じく、こちらも長い裁判になりそうだ。

 ただ、この裁判を見ていて不思議なのが、どうして原告が渡邊氏なのかという点だ。「馬乗り写真」にせよ、「乱痴気飲み会」にせよ、記事の主役は松本氏なので、記事の「脇役」である渡邊氏が提訴すると難しい問題が生まれやすい。渡邊氏の代理人は松本氏と同じ田代政弘弁護士だが、あえて渡邊氏だけを原告にした理由はなかなか思いつかなかった。

 いずれにせよこの「もう一つの松本人志裁判」も異例の展開を見せている。この裁判の今後も追っていきたい。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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