ピン芸人から俳優…そして作り手へ 話題作続く山西竜矢氏、最新作は「全部詰め込んだ」

29日より東京・浅草九劇にて、演劇ユニット「ピンク・リバティ」の新作公演『みわこまとめ』が上演される。作・演出を務める気鋭の演出家・脚本家の山西竜矢氏(34)に本作の魅力を聞くとともに、ピン芸人から俳優、そして作り手へと転身した異色のキャリアに迫った。

インタビューに応じた演出家・脚本家の山西竜矢氏【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた演出家・脚本家の山西竜矢氏【写真:ENCOUNT編集部】

新作公演『みわこまとめ』が29日よりスタート

 29日より東京・浅草九劇にて、演劇ユニット「ピンク・リバティ」の新作公演『みわこまとめ』が上演される。作・演出を務める気鋭の演出家・脚本家の山西竜矢氏(34)に本作の魅力を聞くとともに、ピン芸人から俳優、そして作り手へと転身した異色のキャリアに迫った。(取材・文=猪俣創平)

 自身が2016年に旗揚げした演劇ユニット「ピンク・リバティ」。リアリティある日常生活の風景や言葉が奇妙な世界と混ざり合っていく、不穏かつ幻視的な作風が特徴的な舞台は、21年11月に浅草九劇での『とりわけ眺めの悪い部屋』で浅草九劇賞・特別賞を受賞し、高い評価を得ている。

 昨年、悲劇喜劇特集『これからの演劇界を担う若手12人』に取り上げられて以降、初の本公演となる『みわこまとめ』は、今作が初の主演舞台となる俳優・大西礼芳(あやか)演じる主人公・実和子の半生といびつな恋愛遍歴を通して、現代を生きる人々のさみしさや欲求、狂気を描く悲喜劇。

 山西氏は「いろんな要素が組み合わさった結果」今作の物語にたどり着いたとして、「去年や一昨年ぐらいから、ホストクラブやキャバクラといった夜の仕事について興味を持って、本などを読んだり調べたりするようになったことが一つの下敷きになっています」と説明する。

 そんな主人公・実和子の人物像は、演じる大西のイメージも少なからず影響していると、自身の執筆スタイルとともに明かす。

「作家によっていろんな書き方があると思うんですけど、自分の場合演劇公演に関しては結構ざっくりとした物語の骨格が出来上がった時点で、キャストさんを決めてあて書きをするタイプです。なので今回も『大西さんならこんな実和子が良い』という感じで書き進めました。大西さんにあてて書いた本やなって思いますね」

 山西氏は演出家になる以前、ピン芸人として活動していた。これまでの作品でも、登場人物たちの会話に独特のユーモアが垣間見えるが、なぜ芸人として表舞台のキャリアをスタートさせたのだろうか。

「恥ずかしいんですけど、元々めちゃくちゃ目立ちたがり屋で」と照れ笑いを浮かべると、関西弁交じりに自身の芸人時代を回想した。

「小さいときからお笑いが好きだったので、中学生の頃には芸人さんになりたいと思っていました。それで、大学生になってお笑いを始めて、ネタとしては一人コントをやっていました。一人で誰か変な人を演じる、みたいなタイプのコントが多かったです」

 ステージでネタを披露するうちに、周りの先輩から演技を褒められ、演劇の道を考え始めた。「人前で何かやるのが好きやから、もしかして自分で考える必要ないのかな、俳優になったらネタ書かんで良くて楽かもな、みたいなすごく短絡的な思考でした」と自虐交じりに笑う。

ドラマ『今夜すきやきだよ』『SHUT UP』の脚本経験が「すごく生かされています」

 その後、劇団子供鉅人の劇団員となり、俳優として舞台・映像で多数の作品に出演していった。しかし、「わがまま過ぎるんですけど、いざやってみると、自分はかなり演じるものの内容や方向性、演出の雰囲気にこだわりがあって、好みの幅が狭いことに気付きました。それなら自分で書いた方が面白いんじゃないかと思って、結局、自分で書いてみるか」と決意し、作り手としての道を歩み始めた。

「自分に一番フィットする表現の形を探して、芸人とかいろいろやってきたんだと思うんですよね。割と目移りするタイプなので、俳優として芝居をやり始めて、その後舞台の演出や脚本をやって、映像の監督もやって、とにかく今はものづくりをし続ける、みたいなところに落ち着いて」

 17年には脚本・監督した短編映画『さよならみどり』が第6回クォータースターコンテストでグランプリを受賞。21年には長編映画『彼女来来』で監督・脚本を務め、北米最大の日本映画祭JAPAN CUTS 新人部門最高賞の「大林賞」を受賞。さらには、23年のテレビ東京系連続ドラマ『今夜すきやきだよ』、『SHUT UP』で脚本を手掛け、女性の生き方や苦悩を描き出し、大きな注目を集めた。

 ドラマでの経験は自身の脚本に「すごく生かされています」と話し、「内容的にポリコレなども扱った作品だったので、そういう意味ですごく学びもありましたし、長い話数を長い期間をかけて書くことが今まであまりなかったので、そこから得たものは大きかったですね」と語る。

 自身の脚本に対して、プロデューサーや監督がしっかり向き合い、共に考えてくれたことも新鮮な経験だった。

「自分と同じ熱量で脚本を見つめてフィードバックを下さる方って中々いなかったので。テレビドラマだと、プロデューサーさんや監督さんとずっと一緒に長い期間をかけて打ち合わせしていくので、自分の脚本を疑い続けることで変わりますし、良くなるなという気付きがありました。色々アイディアや意見をもらうのが苦手な方もいると思うんですけど、僕は全然嫌じゃなくて。意見を聞いて『そっちの方がおもろい』とすぐに受け入れてました。とにかく寄り添って作ってくれる人がいる環境で、すごくいい経験をさせてもらったと思います」

 お笑い、演劇、映画、ドラマ――。紆余曲折がありながらも積み上げた経験から、今作は自身の現時点の集大成になったと力を込める。

「やっぱりドラマと映画と演劇って、質が異なっているので、自分の中でチャンネルが増えたというか、自分の使える手札、レパートリーが増えた感覚があります。今回の『みわこまとめ』は、そういう表現を全部詰め込んだ作品になっている気がします。お笑いをやっていたときの雰囲気と、演劇でやってきた繊細な会話劇と、テレビドラマ的なテンポの良さと、映画のショットを考えるような絵作りが全部詰め合わさっていて、意図したわけではないですが、僕の“まとめ”にもなっているのかもしれません」

 俳優、映画監督、脚本家、演出家と多彩な顔を持つ山西氏。「自分でも『僕は何をしてる人なんや』と思うことがよくあります」と笑うが、異色のキャリアから生み出される作品に今後も目が離せない。

□山西竜矢(やまにし・たつや)1989年12月26日、香川県出身。同志社大卒。2014年より劇団子供鉅人の劇団員となる。その後、脚本・演出について独学で学び、16年に代表を務める演劇ユニット「ピンク・リバティ」を旗揚げ。本格的に脚本・演出業を開始すると、17年には脚本・監督した短編映画『さよならみどり』が第6回クォータースターコンテストでグランプリを受賞。21年に自身初となる長編映画『彼女来来』で北米最大の日本映画祭JAPAN CUTS 新人部門最高賞の「大林賞」を受賞。ドラマ『今夜すきやきだよ』『SHUT UP』脚本、演劇作品ではKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ジャズ大名』脚本など、ジャンルの垣根を越え精力的に活動中。

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