山田洋次監督『男はつらいよ』55周年記念に日本憂う「僕らは幸せな方向に向かっているのか」

山田洋次監督が27日、都内で行われた「男はつらいよ55周年記念!『ファン大感謝祭』イベント」に出席した。55年の長い年月を振り返った92歳の巨匠は「僕ら日本人は幸せな方向に向かっているのか」と日本を憂いた。

イベントに出席した(左から)ミキの昴生、玉袋筋太郎、山田洋次監督、北山雅康【写真:ENCOUNT編集部】
イベントに出席した(左から)ミキの昴生、玉袋筋太郎、山田洋次監督、北山雅康【写真:ENCOUNT編集部】

現代は「寅さんのようなインチキ臭い商売はまったく成り立たない」

 山田洋次監督が27日、都内で行われた「男はつらいよ55周年記念!『ファン大感謝祭』イベント」に出席した。55年の長い年月を振り返った92歳の巨匠は「僕ら日本人は幸せな方向に向かっているのか」と日本を憂いた。

 同シリーズは、1969年8月27日、山田洋次監督・渥美清主演『男はつらいよ』の第1作が劇場公開された。後にギネスブックに認定されるなど、総観客動員数8000万人を超える国民的映画シリーズとなった。2019年には50周年を迎え、第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開されて話題になった。

 一般の観客から、映画業界など取り巻く環境の変化などをどう考えるか問われた山田監督。「とても難しい質問ですね。それにお答えするには1時間も2時間もかかっちゃう」と笑いながら、「とてもよく考える問題でもある」と真剣な表情に。「この半世紀、どれだけ変わってしまったのか。特に日本、日本を含めた世界ということでもあるのかな。50年前は戦争ということはまったく考えなかった。あ、中近東の戦争はずっとあったか。とにかく、50年前、日本に限って言えば、この国は、この国の人たちは元気だった気がする」と率直な思いを吐露した。

 続けて「50年前は小さいお店が皆いっぱいとあって、ちゃんと商売が成り立っていた。魚屋さんとか、八百屋さんとかお肉屋さんとか。それが今、ほとんどなくなってしまったよね。まぁ、ましてや寅さんのようなインチキ臭い商売はまったく成り立たない。寅さんの商売というのは、ちょっとインチキ臭い。口上でごまかして売っちゃうんで。観客も多少わかってる。騙されてるんだろうな。きっと壊れちゃうんだろうな、と。でも『しょうがねえや』と思って買う。それだけ一生懸命こいつ(寅さん)の口上で楽しませてもらったんだから、『インチキだろうけど、まぁいいや、ちょっと買って帰るか』と。そういう緩(ゆる)やかさが50何年前はあった気がしてしょうがない」と回顧。

 山田監督は、令和の今にも苦言を呈した。「今は、僕は本当に気に入らないんだけど、コンビニで買い物をしても、お金を払うと『こっちに入れてください』って、機械に入れる。ボタンを押さないといけない。僕なんか老人だから、オドオドしながらやらないといけない。面倒くさい。『お前がちゃんとお釣り出してくれればいいじゃないか』と思う。そういう面倒くさい負担をお客さんたちに負担させておいて、しかも人間関係が味気なくなっていく。やり取りがなくなってくる。『どうもありがとう』『お元気?』『近頃どうしてますか?』みたいな会話がなくなりつつある。どんどんこれからもそうなっていくだろう。(これ以上流通の中心が)通信販売とかになると、お店自体がなくなるだろう」と語り、「僕たち日本人は、本当に幸せな方向に向かっているのかなあ、ということをとっても今感じます」と締めくくった。

 イベントには、寅さんの大ファンである浅草キッドの玉袋筋太郎やミキの昴生、同シリーズに三平役として出演した北山雅康も出席。第1作の劇場公開日ちょうど55周年を迎えた当日に、熱烈な”寅さん大好き“ファンが一堂に会した。ファン投票で第1位に選ばれた第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』が上映された。

■『男はつらいよ』ファン投票結果
第1位:第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』
第2位:第1作『男はつらいよ』
第3位:第25作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』
第4位:第32作『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』
第5位:第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』、第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』

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