宝塚退団から3年…望海風斗、「元トップ」だからこそ抱えた悩み 解消の活路になった1つの出会い
元宝塚歌劇団雪組トップスターで俳優の望海風斗(のぞみ・ふうと)が今月28日、メジャーファーストアルバム『笑顔の場所』をリリースする。宝塚歌劇団を退団してから3年、コンサートやミュージカルで歌い続けてきた望海が、ポップス音楽に挑戦して感じた思いを明かした。
ポップス音楽に挑戦
元宝塚歌劇団雪組トップスターで俳優の望海風斗(のぞみ・ふうと)が今月28日、メジャーファーストアルバム『笑顔の場所』をリリースする。宝塚歌劇団を退団してから3年、コンサートやミュージカルで歌い続けてきた望海が、ポップス音楽に挑戦して感じた思いを明かした。(取材・文=大宮高史)
望海は2003年に初舞台を踏み、17年からは雪組でトップスターを務めた。高い歌唱力で作品を彩ってきた。そして、21年に退団して18年間在籍した劇団を離れた。望海は当時を「舞台を続けることに自信がありませんでした」と振り返った。
「退団した時、男役一筋だったので舞台で女性の役ができるとは思っていませんでした。ただ、歌を続けたい気持ちはあったのですが、男役の歌い方しか知らない身なので一から音楽の勉強をやり直したくて、音楽への興味はずっと持っていました」
22年秋に開催したソロコンサート『Look at Me』で音楽プロデューサー・武部聡志氏と出会い、音楽活動が加速していった。
「武部さんはミュージカルで育った私に対しても的確に目指すところを示してくれます。音楽面で答えを返してくれるのも早く、私自身の音楽との向き合い方も鍛えられまして……考えをしっかり持ってマイクに向かえるようになりました。演奏者としても流れるようにピアノを弾いたりと、心から音楽を楽しんでいる方です。一緒にライブを作っている時は私の歌に、さらに立体的に深みをつけてもらっている感覚がありました」
武部氏はその後も望海のコンサートで音楽監督を務め、このアルバムでもプロデュースを手がけた。リード曲の『ミチシルベ』と『Brath』のオリジナル曲2曲に、J-POPのカバー7曲を収録。玉置浩二(『田園』)、荒井由実(『翳りゆく部屋』)、竹内まりや(『人生の扉』)、中島みゆき(『誕生』)、桑田佳祐(『明日晴れるかな』)、アンジェラ・アキ(『始まりのバラード』)、鬼束ちひろ(『月光』)と、男女さまざまなアーティストの曲を望海の声で表現した。
「既にオリジナルのイメージがある曲を『自分がどう歌い上げたらいいのか』は悩みましたが、武部さんがレコーディングの過程で感情を引き出してくれました。このアルバムはずっと聴き手の元に残るもので、その人の環境によって聴く時の感想も変わってくるのではと思います。舞台での生の歌唱はその空間いっぱいに届けるイメージをもって歌いますが、この『聴き手に寄り添う感覚』はレコーディングならではでした。同時に、アーティストの皆さんへの尊敬の念も増しました。『役の力を借りずにメッセージ性の強い楽曲を生み出せるって、本当にすごいことだな』と自分自身の曲作りを経て実感します」
『Breath』は、今年3月に配信でリリースした初のオリジナル楽曲。望海と作詞、作曲を担当したアンジェラで話し合って完成させた。その過程では「ミュージカルの中で歌を披露するよりも、自分の心境を素直に歌にする方が難しく感じました」という。
「舞台では、3時間の作品ならその時間内に演じるキャラクターの人生を生ききるので、その人の性格を色濃く見せるべく私も気合を入れて演じることができますし、日常よりも何倍も速いスピードで時間が流れます。キャラクターの力を借りて、自分が知らなかった世界や感覚を知れることが楽しくてやってきたのですが、その分、プライべートの自分はベールの中に隠してきました」
役名や芸名で隠し、表に出してこなかったプライベート。だからこそ、自分自身で感じる思いをどこまでさらけ出せばいいのか。それを探りながらの日々だった。
「『素直な感情を投影させていかないと、きれいごとに聞こえてしまう』と考え、あらためて自分の心に向き合ってみました。宝塚を退団するまでがむしゃらに走ってきましたが、ふと舞台から解放されると孤独感を感じる瞬間もあったので『皆さんも同じ寂しさやストレスと闘っているかも』と思ったところから、制作をスタートさせていきました」
そして、アルバムには「リスナーへの応援歌になれれば」という思いを込めた。
「私はいきものがかりさんの歌が好きでずっと聴いていたんです。音楽に背中を押してもらった経験って、人生で誰もが必ずあると思うので、ハッピーな時も落ち込んだ時も、皆さんに寄り添える曲たちになればと思っています」
こうして素直な気持ちを音楽に反映させていったが、宝塚時代に得た“トップスター”というパブリックイメージとのギャップに気をもむこともあった。
「どの現場でも『初めまして』の新人の心境で全てを吸収していくつもりでいました。ところが、『元トップ』という肩書から、周りが気を遣ってくださる空気を感じることも多くありました。出会う皆さんは私にとってすごい方ばかりなのに、自分は自己評価以上に大きな存在に思われてしまう。そういった過大評価への悩みも、ソロでの音楽活動で解消されていったように思います。スターというベールを自分の手ではがしていくことができました」
女性役でのミュージカル出演「自分が信じられない」
現在、望海は昨年に引き続きミュージカル『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に出演中。ポップスでの表現力を体得し、ミュージカルでのパフォーマンスも進化している。
「ミュージカルとはいえ、洋楽ポップスの要素も多い作品です。初演の時は劇中歌についても、まだ十二分に理解できていなかったと思います。コンサートでポップスを披露する機会も増えて、今年の再演版はより充実感を覚えながら演じています。音楽の力で120年前のファンタジーな世界に私たちもひきこまれる感覚が好きで、公演の3時間にいかに没入できるか、毎日が勝負です」
女性役でのミュージカル出演については「退団後、舞台をやっていける自信はなかったので、自分がちょっと信じられない気もします」と言った。そして、音楽への愛を活力に変えてきたことを明かした。
「舞台でもアーティスト活動でも、1曲1曲への愛着が強くなりました。エンタメって、日ごろは忙しさにかまけて気づかなかった感情や感覚を引き出してくれると思います。そんな音楽の力を信じて、私ももっと多くの音楽に触れていきたいです」
アーティスト・望海風斗としても前向きで「舞台と違って、役に染まらないでいられることをポジティブに捉えて」と言い、「人生のタイミングごとに、多彩な色に染まれるまっさらな感性を持って歌っていきたいです」と前を向いた。リスナーが歩む人生の伴走者として、望海は歌い続ける。
□望海風斗(のぞみ・ふうと)10月19日、神奈川県生まれ。2003年、宝塚歌劇団に入団。花組を経て17年より雪組男役トップスターを務め、21年に退団。22年は『INTO THE WOODS』『ガイズ&ドールズ』などの舞台・ミュージカルに出演し、同年度の読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。23年は『ドリームガールズ』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』などミュージカルで出演を重ねる。今年は『イザボー』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に主演し、12月からのミュージカル『next to normal』で主演する。169センチ。
各種リリース情報は望海風斗 オフィシャルサイトで
https://nozomi210.com/