がんステージ4の西村修、電流爆破マッチで大仁田組に激勝 「地獄のリング」から奇跡の生還

4月に食道がん(扁平上皮がん)ステージ4と診断されたプロレスラーで東京・文京区議会議員の西村修が24日、『川崎伝説2024』(神奈川・富士通スタジアム川崎)で5か月ぶりの復帰戦を飾った。メインイベントのダブルヘル電流爆破マッチで、83歳のドリー・ファンク・ジュニアと組み、大仁田、雷神矢口組と激突。自身も被爆した西村は13分5秒、ドリーから継承したスピニング・トーホールドで矢口から勝利。妻と5歳の息子が祈るように見守る中で、地獄のリングから生還した。

大仁田厚(右)の電流爆破バットがドリーに炸裂する瞬間、身を挺して守った西村修【写真:山口比佐夫】
大仁田厚(右)の電流爆破バットがドリーに炸裂する瞬間、身を挺して守った西村修【写真:山口比佐夫】

83歳ドリー、スピニング・トーホールドで見せ場

 4月に食道がん(扁平上皮がん)ステージ4と診断されたプロレスラーで東京・文京区議会議員の西村修が24日、『川崎伝説2024』(神奈川・富士通スタジアム川崎)で5か月ぶりの復帰戦を飾った。メインイベントのダブルヘル電流爆破マッチで、83歳のドリー・ファンク・ジュニアと組み、大仁田、雷神矢口組と激突。自身も被爆した西村は13分5秒、ドリーから継承したスピニング・トーホールドで矢口から勝利。妻と5歳の息子が祈るように見守る中で、地獄のリングから生還した。

 ドーン。すさまじい爆発音に包まれたのは、開始6分手前だった。火花と煙の中にいたのは、西村だった。大仁田の毒霧を浴びた後、矢口に電流が流れるロープに振られた。場内が悲鳴に包まれる中、西村はばったりと倒れる。ドリーも救出に向かうことはできず、意識はもうろうとなった。

 体の中の“時限爆弾”が首をもたげる。がん細胞は全身に回り、脳にまで転移。がんが張り付き、いつ破裂するか分からない大動脈も不安の種だ。

 それでも西村は立ち上がった。8分手前には、ドリーが矢口に羽交い絞めにされ、大仁田が電流爆破バットを振りかざした。絶体絶命のピンチ。その瞬間、西村は身を挺して、間に飛び込んだ。気持ちは最後まで折れない。修羅の表情になりながらも、相手に立ち向かった。

 同士討ちを誘い、矢口にエルボースマッシュを連射。さらに場外に蹴とばし、地雷へと落下させた。リングに戻った矢口に電流爆破バットを食らわせると、ドリーが伝家の宝刀スピニング・トーホールド。そして、西村に交代する。矢口の右足を3度にわたって締め上げると、たまらずタップ。師弟の連携で、勝利をたぐり寄せた。

 試合後は4人で大団円。これが最後の日本での試合とされるドリーは、「ネバークイット! フォーエバー」と8度にわたり叫ぶ。西村は「今日でいよいよ最後の来日、試合になってしまいましたが、今までの60数年のドリーさんの功績をたたえ、頭の片隅で結構ですので、ドリー・ファンク・ジュニアを永遠に記憶されてください。私自身もまだやり残したこと、言い続けたいことがあります。プロレスとともに、政治とともに、まだまだ生きてまいりたいと思います」と語った。

 特別な思いがあった一戦だった。

 これまで数回、電流爆破の経験があった西村は今回、初めて妻・恵さんと5歳の息子を会場に呼び寄せた。

 がんの可能性を告げられたのは3月14日、吉江豊さんの通夜からの帰りだった。西村の人生は突然暗転した。17歳年下の恵さんは診察室で何度も涙を流しながらも、献身的に西村を支えた。そしてかけがえのない息子の存在。病気のことを理解しているかどうかは分からない。ただ、父が入院で家を不在にすると、いつもと違う様子が見て取れた。子どもながらにストレスを感じていると気になった。

 退院中はできるだけ近くで過ごした。「一緒に銭湯に行くと、背中を洗ってもらうのが楽しいです。洗い方を教えてあげると、みようみまねで洗ってくれます」。西村の家族時間はより濃密になった。

 試合をすることにはなかなか理解を得られなかった。それでも西村はリングに上がった。プロレスラーとしての生きざまを背中で示すように。息子はメインイベントの試合前、リングに上がり、父に花束を手渡した。闘病と並行し、復帰を目指してようやくリングにたどり着いた西村に伝わった小さな力。それが西村を奮い立たせ、難敵撃破を後押しした。

次のページへ (2/2) 【写真】西村組の実際の写真
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