『Runner』『リゾ・ラバ』『大きな玉ねぎの下で』などのヒット曲で知られる4人組ロックバンド・爆風スランプが40周年を迎え、デビュー記念日の8月25日に26年ぶりの新曲『IKIGAI』をリリースした。1度聴いたらクセになるユニークな歌詞とファンキーなサウンドは健在だ。同バンドは1999年に活動休止を発表したが、同作を機に再集結。ENCOUNTでは、サンプラザ中野くん（ボーカル）、パッパラー河合（ギター）、ファンキー末吉（ドラム）、バーべQ和佐田（ベース）の4人をインタビューし、バンドの歴史を2回の記事にまとめた。前編は「再集結と26年ぶりの新曲について」。（取材・文＝福嶋剛）

――久しぶりの新曲を作ろうと思ったきっかけは。

サンプラザ中野くん（以下、中野）「1年くらい前に『結成40周年は何かやりたいね』って河合と事務所のスタッフで話をしたんです。それで昔の曲を歌って同窓会で終わらせないように『せっかくやるなら、ちゃんと新曲も作って今の世の中に爆風スランプを見せつけよう』ってことに決めました」

パッパラー河合（以下、河合）「俺も『やろう』って話をしたんです。でも、末吉が中国で音楽活動をしているから、『まずは末吉に確認しないと』と言って」

ファンキー末吉（以下、末吉）「中野と河合は今も事務所にいて、私と和佐田は個人で活動していて、今は連絡を取り合うことはあっても、何かないと4人で集まることもないんです」

河合「それでメールを打つのが面倒だから、末吉に電話しました」

末吉「河合から『今、スピーカーフォンでマネジャーも全員聴いているんだけど』って電話があって、この人（河合）空気読まない人だから、『最近、どう？』までは良いんだけど。『今、パートナーいるの？』とかいつもの2人の会話をスピーカーフォンで話すんで、『やめてよ～』って（笑）」

全員「笑」

河合「みなさんに言っておきたいのは、爆風スランプは今まで解散はしてなくて、長い間、活動休止していただけなんです。だから、今回は再結成じゃなくて再集結になります」

――みなさん今でも仲は良いと。

末吉「全然、悪くないですよ。そもそもメンバーとケンカして休止になった訳じゃないんでね。だから、再集結の話をもらった時は、2つ返事で『やろう』って。ただ、よく考えたら和佐田の返事をまだもらってなくて、『新メンバーだから後で良いか』って（笑）」

――40年のうち、たった5年足りないだけで、まだ「新メンバー」ですか。

バーベキュー和佐田（以下、和佐田）「ザ・ローリングストーンズのロン・ウッドみたいなもんですよ（笑）。もちろん、連絡をもらった時は『待ってました！』でしたけど」

――爆風スランプを知らない世代にあらためてメンバー紹介をお願いします。

末吉「ボーカルの中野は、バンドや全体のコンセプトを考えたり、歌詞を書く役割で、私はドラムを担当していて曲を作ったり、アレンジをして具体的に形にする役です。そして、ギターの河合がムードメーカー」

河合「そうそう（笑）。俺はワイワイ楽しんでいるだけ」

末吉「中野と河合に会ったのは6年ぶりなんだけど、2人は全く変わらないんです。ベースの和佐田は、初代ベーシストの江川ほーじんに代わるバンド唯一のイケメンキャラとして入ったんだけど、会うたびに太っていくし、髪の毛も白くなっていってね」

和佐田「末吉と同い年だけど、まだまだフレッシュですよ（笑）。僕は、もともと別のバンドにいて20代の頃から3人をよく知っていたし、爆風スランプがブレイクしていくのを外から見ていました。唯一、客観的にバンドを見れる立場ですね」

――今回26年ぶりに作った新曲のタイトルは『IKIGAI』（生きがい）です。

中野「最近、Netflixで長生きの秘訣を探るドキュメンタリーを見ていたんです。そこに沖縄の人たちが出てきて、彼らには『生きがい』という言葉があると知りました。長生きには食事や環境も関係があるけれど、人と人のつながりには、生きがいがあるかどうかが大切だと伝えていて、それを見て『これだ！』と思いました。不安な世の中で日々の生活に追われている中高年を勇気付ける言葉になるし、個人的にも『125歳まで生きる』という僕の目標を達成するための大きなテーマでもあるんです。そして、世界にも通じる言葉『IKIGAI』で世の中に打って出ようと思いました」

――キレのあるファンキーなサウンドと世の中に疑問を投げかける歌詞、クスッと笑えるユーモアな演出など、「これぞ爆風スランプ」という曲です。

中野「そう思っていただけたら本当にうれしいです。始めにタイトルを考えたので、歌詞は思い付くままにいろんな『生きがい』を挙げて作りました」

――イントロの攻撃的なスラップベースも聴きどころです。

中野「和佐田さんお得意の演奏です」

和佐田「ありがとうございます。末吉のカッコいいドラムと河合のカッティングギター。そこに中野の歌が加わってどんどんエスカレートして最強になっていく感じ。このメンバーじゃないと絶対に出せない『これぞ爆風スランプ』なんです。感激しましたね」

――一方で『Runner』『リゾ・ラバ』といった代表曲しか知らない世代が聴いたら、ビックリするような中野くんのラップがとても斬新です。

中野「最初はレゲエっぽいイメージで作ったんだけど、末吉さんが用意してくれたデモの仮歌が今の形になっていて、そのアレンジがすごく良かったんです。厳密にはラップじゃなくてポエトリーリーディング風なんですが、爆風スランプっていろんなジャンルの音楽をやってきたので、古くからのファンなら『昔、「嗚呼!武道館」（1985年）という曲でラップをやってたよな』って許してくれると思うんです。河合さんも制作途中で『誰も聞いたことないジャンルの曲だから、文句のつけようがない。ひょっとしたらすごいかもね』って言ってくれたんです。だけど、おっしゃった通り、世の中の人がどう受け取ってくれるのか。今はその評価が楽しみでもあり、不安でもあります」

――みなさんにとっての『IKIGAI』（生きがい）とは。

中野「僕はやっぱり、『125歳まで歌い続ける』という目標を掲げているので、歌が生きがいですね。コロナ禍で人と話すことも減って、大きい声を出せなかった時期にちょっと声が出にくくなってしまったんです。『これはヤバい』と思って、喉のお医者さんに診てもらったら『中野さんの喉は使えば使うほど良いんです』って言われました。そして、いろいろと発声練習を探していたら、般若心経を読むのが喉に良いと分かって去年から始めてTikTokでライブ配信しています。そのお陰もあって、今はすごく声の調子が良くなって歌うことが楽しく感じています」

末吉「私にとって生きがいは健康ですね。若い頃からドラムをたたいていて、趣味から仕事に変わっていったんだけど、今でも『もっと、ドラムを上手くたたけるようになりたい』という気持ちしかないんです。この歳になると毎年、知人がどんどん旅立ってしまい、切磋琢磨してきた親友のドラマー・菅沼孝三も先に亡くなってしまいました。だから、あいつの分まで生きてドラムを極めたいって思っているんです。今も『オープンハンド』という左右逆にするたたき方に挑戦しているんだけど、やっぱり、健康で居続けなくちゃいけないですよね」

和佐田「僕はコロナ禍でしばらくライブができない時期に考えていたんですけど、『元気なうちに人前でどれだけ演奏ができるか』ってことが、僕にとっての生きがいなんだなって思いました。ポール・マッカートニーもミック・ジャガーについても『80歳を過ぎてまでステージに上がる理由は何だろう』って思った時、『多分、あの人たちの生きがいもライブなんだろうな』って思ったんです。人前でキレがなくなったらお客さんには一発で分かります。だからこそ、いつまでも現役のライブパフォーマーにこだわって、今回のツアーでもみなさんにそんな姿を見せられるようにやっていきたいです」

河合「俺もライブは大きいですね。今は26年ぶりのツアーを成功させることに集中していて、それが生きがいになっています。やっぱり、お客さんに『あいつら鈍くなったな』『還暦過ぎてるから仕方ないよね』なんて思われるのが一番嫌なんでね。人前に出るからには、『爆風スランプってあの頃よりもキレがあるじゃん』て絶対に言われたいから。なので、今は一生懸命体力作りに励んでいます。今度のツアーは64歳になってもキレッキレな4人がライブをやりますんで、みなさんもしっかり楽しむ準備をしておいてください」

　インタビュー後編では、爆風スランプ結成の裏話、『Runner』大ヒットの裏で抱えていた葛藤、バンド休止の真相を4人が語っている。

□爆風スランプ　1982年、ファンキー末吉、江川ほーじん、サンプラザ中野、パッパラー河合の4人で爆風スランプを結成。84年にメジャーデビュー。パワフルなファンクサウンドと過激なパフォーマンスが話題を呼んだ。85年、初の日本武道館ワンマンライブを開催。88年に『Runner』がヒットし、『NHK紅白歌合戦』に初出場。89年、江川が脱退し、バーベQ和佐田が加入。現在のメンバーとなる。以後、『リゾ・ラバ』『大きな玉ねぎの下で?はるかなる想い』『涙2』などがヒット曲。99年、活動休止を発表。2005年、07年、10年と一夜限りの復活ライブを実施。今年、デビュー40周年を機に本格的に活動を再開した。