1991年、フジテレビ主催「乙女塾」からCoCo、ribbonに続く第3のアイドルグループ・Qlair（クレア）が誕生した。大手レコード会社から期待されてのデビューだったが、当時は「アイドル冬の時代」。ブレイクできないまま、ひっそりと3年で解散した。元メンバーの今井佐知子は翌年に芸能界を引退。1児の母になった。以降、表舞台に出ることはほとんどなかったが、乙女塾の仲間たちとの再会をきっかけにステージに立つことを決意。29年の時を経て、今年9月1日にソロCDをリリースするに至った。ENCOUNTは50歳になった今井の半生を振り返りながら、本人に今の思いを聞いた。（取材・文＝福嶋剛）

　そのグループは、ギルバート・オサリバンの代表曲『Clair』の頭文字をQにした「Qlair」（クレア）と名付けられた。乙女塾4期生の今井、5期生の井ノ部裕子、吉田亜紀で構成。91年7月7日、シングル『瞳いっぱいの夏』でデビューした。

「始めはCoCoちゃんやribbonちゃんのようなキラキラしたアイドルをイメージしていたのですが、『3声でハモるアーティスト路線のグループ』ということになりました。私たちはちょっと戸惑いながらも、『とにかく頑張ろう』と声を掛け合って必死にハモリを練習しました。毎回、素敵な曲を提供していただき、Qlairは楽曲に恵まれたグループでした。今でも大好きな曲ばかりです」

　しかし、時代はバンドブームへと移り、人気だった歌番組も続々と打ち切り。アイドルにとっては、厳しい時代がやってきた。

「大好きだった歌番組が次々と終わり、毎週末はイベントが多くなりました。オリコンチャートも最初はワクワクしながら見ていたんですが、デビュー曲は67位。結局、最後まで10位以内に入ることができず、毎回順位を見るたびに『私たちは上位にいけないのかな』ともどかしさを感じていました」

　苦しい日々。成長過程で3人にも迷いが生じていた。

「1年後にリリースした5枚目のシングル『秋の貝殻』あたりから、アイドルなのか、ポップユニットなのか、私たちも迷っていました。でも、3人のまとまりはどんどん良くなり、8枚目のシングルの音源も上がってきて、『もっと、頑張ろう！』とレコーディングに向けて張り切っていました」

　ところが、彼女たちは無情に「解散」を宣告された。

「レコーディングの前に、スタッフさんに『ミーティングがあるから』と呼ばれました。部屋に入ると、レコード会社の偉い方や事務所の社長さんが座っていて、ただならぬ空気を感じました。そこで、『Qlairの活動が休止になります』と言われました。私たちは『えっ』となって、一瞬言葉を失い、『次のシングルが最後になるんですか？』と聞くと、『出ません。白紙になりました』と…。ごめんなさい。この話をすると今でも涙が出てきちゃって」

　今井は涙を流しながら、話を続けた。

「『せめて解散コンサートだけはやりたい』と訴えたのですが、『できません』と言われました。8枚目のシングルもすごく素敵な曲だったので悔しいし、何より『もう3人で歌えない』と思うと本当に悲しくて…」

　それから活動休止までの半年間が、人生で一番つらい時期だったという。

「『活動休止を発表するまでは、ファンに口外しちゃいけない』と言われたので、気づかれないように笑顔で頑張っていました。でも、スキー場で行われた最後のラジオ公開放送でMCの方やスタッフさんが、ファンに気づかれないように、『お疲れ様』って労いのメッセージを送ってくれたんです。それを見て3人で本番中に号泣してしまいました。最後までファンのみなさんに『ありがとう』が言えなくて、その後もずっと心残りでした」

　インターネットもなく、メディアを通さないと情報発信ができない時代。現実に全国のファンに報告の機会を与えられないまま、Qlairは94年春に活動を終えた。

「私はその後、1年間だけタレントとして活動しました。『どうぶつ奇想天外!』（TBS系）では、レポーターを担当させていただき、WOWOWではサッカー情報番組のアシスタントMCを務めました。またケラリーノ・サンドロヴィッチさんに誘っていただき、CoCoの宮前真樹ちゃんとribbonの松野有里巳ちゃんと私の3人で、ナイロン100℃の舞台『1979』に出演させていただきました。でも、歌もお芝居も中途半端でタレントとしての限界を感じ、95年5月21日、原宿のRUIDOというライブハウスで最後のライブをやって引退しました」

　引退後は結婚し、1児の母となった。

「地元の喫茶店で働き始めて、その後、夫と出会い結婚して、娘（稲垣鈴夏さん）が生まれました。娘はものすごく人見知りだったので、『楽しい経験をさせてあげたい』と思い、3歳の時に子役事務所に所属しました。すると、楽しさを覚えてドラマや教育番組で活動しました。夫も芸能界を経験していたので、私はあいさつとマナーを教える役。夫は娘と一緒にセリフの練習をする役でした」

　娘は一時期アイドルグループに加入。かつての自身と同じくアイドル活動をすると告げられ、今井は「ここからは自己責任で頑張ってね」とその背中を押したという。

「娘はお客さんをあおる担当で、私は『えーっ』ってビックリしました。でも、私が元気いっぱいのグループにいたら、きっと娘と同じポジションだったと思います（笑）。その後、娘は芸能界を引退して大人になり、今は私よりしっかりしていて、完全に立場が逆転しました」

　子育てもひと段落したタイミングで、家族ぐるみで親交のあった宮前から相談を受けた。

「真樹ちゃんが50歳の節目に20年ぶりにステージに立つと聞いて、『何でも手伝うよ』と言ったら、『じゃあ、一緒にステージに立って』と言われました。最初は『それはさすがに無理』って断わったんですが、真樹ちゃんは全然あきらめず、最後に長文メールで、私に思いを伝えてくれました。その熱意に根負けし、引退以来のステージに立つことにしました」

　昨年1月15日、都内で行われた宮前の記念ライブには、懐かしいアイドル仲間たちが駆けつけ、感動のステージになった。今井も「これが最後のステージ」と涙を流したが、思わぬところから声が掛かった。

「かつて舞台『1979』でお世話になったKERAさんが真樹ちゃんのライブにVTR出演されて、それがきっかけで3月に行われたKERAさんの還暦ライブで真樹ちゃん、有里巳ちゃんと3人で歌わせていただきました。『今度こそ最後のステージ』と思っていたら、打ち上げの席で有里巳ちゃんから『3人でトークライブをやりたい」と提案があり、『懐かし話をするだけなら』と言って3人で10月にトークライブを開催しました。そしたら、最後に『せっかくなら1曲歌う？』みたいな雰囲気になり、2回公演で3曲ずつ合計6曲歌いました（笑）」

　その後、3人と縁のあるベテランカメラマンが亡くなり、今年4月に追悼ライブが行われることになった。そこで宮前から『新曲を歌ってほしい』と提案された。

「『CDを出そうよ』と言われ、『もう～、冗談はやめて』って言いました。でも、真樹ちゃんは『今の言葉で、Qlairやファンに思いを伝えるべきだよ』と真剣に話をしてくれました」

　宮前は、Qlairの話やファンの話になるといつも涙がこみ上げてくる今井を見て、「勇気を出して歌ったら、必ず心の中のモヤモヤが晴れる」と確信。何度断わられても説得を続けた。

「それで家族に相談すると、夫は『貴重な機会だからやらせてもらったら？』と言ってくれました。娘も『めっちゃ、楽しそうじゃん』と言って、みんなに背中を押される形で『もう、やるしかない』とスイッチが入りました」

　宮前のプロデュースで制作が進行。作曲は昨年、宮前の曲も担当した田村信二が2曲書き、歌詞制作には今井も参加した。

「今の私が歌わせていただけるなら、『憧れていたメロディーラインで、どこか懐かしく、みんなもリズムが刻めるモノが良いな』と思い、田村さんにご相談しました。1曲目の『心からありがとう』は、Qlairのファンと大切なメンバー2人への感謝の気持ちをつづりました。2曲目の『ラストソング』は、Qlairが歌ってきた曲名をたくさん散りばめて、『Qlair愛』を詰め込みました。私にはもったいないくらいの最高すぎる楽曲に感謝の気持ちでいっぱいです」

　追悼ライブでは、新曲『心からありがとう』を初披露した。

「今までは、心の奥に閉じ込めていた昔の自分に歌ってあげていたような気がしていました。でも、今回はやっと目の前にいるファンの方々、別々の道で頑張っている元メンバーのヒロ（井ノ部）と、亜紀ちゃん（吉田）に向けて歌うことができました。涙は出たけれど、今までとは違ってちゃんと歌えました。私の歌に涙を流してくれた娘は、『一生見られないと思っていたママのステージを見て感動したよ』って言ってくれました」

　CD発売を記念し、9月1日に東京・池袋Only Youで2部制のリリースイベントを開催する。チケットは発売と当時に完売した。

「人生初のソロシングルとリリースイベントです。久しぶりなので今から怖いんですけど、やっとみなさんの前で、あの時に言えなかった思いを伝えに行きます」

　最後に今井はQlairを「世界で一番好きなグループ」と語った。

「間違いなく誰よりも私が一番のファンだと断言します。真樹ちゃんのお陰でやっと素直にQlairの頃の私を『好き』と言えるようになりました。ファンのみなさん、乙女塾で私のやる気スイッチを押してくれた恩人の中嶋美智代ちゃん、大切な先輩・松野有里巳ちゃん。みんなに『心からありがとう』って言いたいです」

□今井佐知子（いまい・さちこ）　1973年12月27日、神奈川県生まれ。乙女塾4期生。91年7月7日、3人組アイドルのQlairでデビュー。シングル7枚、アルバム5枚をリリース。94年の活動休止後はソロとして活動し、95年に芸能界を引退。2023年、元CoCo宮前真樹のバースデーライブで28年ぶりにステージに立った。今年9月1日、新曲『心からありがとう』をリリース。