「不登校ビジネス」の批判に支援事業者が反論 板橋区の連携撤回に戸惑いも「はしごを外された」

東京・板橋区が13日、不登校支援事業を行う株式会社スダチとの連携に関するプレスリリースの内容をホームページ(HP)上で撤回、リリースが削除されるなど混乱が広がっている。不登校児本人と接触することなく、保護者へのカウンセリングのみで不登校問題を解決するというスダチのサービスを巡っては、「根本的な解決になっていない」「無理矢理再登校させるのは逆効果」との批判の声も上がっている。株式会社スダチ代表取締役の小川涼太郎氏に、スダチが掲げるサービス内容と、一連の批判についての見解を聞いた。

保護者へのカウンセリングのみでの不登校問題をうたう株式会社スダチのホームページ
保護者へのカウンセリングのみでの不登校問題をうたう株式会社スダチのホームページ

不登校児本人と接触することなく、保護者へのカウンセリングのみで不登校問題を解決

 東京・板橋区が13日、不登校支援事業を行う株式会社スダチとの連携に関するプレスリリースの内容をホームページ(HP)上で撤回、リリースが削除されるなど混乱が広がっている。不登校児本人と接触することなく、保護者へのカウンセリングのみで不登校問題を解決するというスダチのサービスを巡っては、「根本的な解決になっていない」「無理矢理再登校させるのは逆効果」との批判の声も上がっている。株式会社スダチ代表取締役の小川涼太郎氏に、スダチが掲げるサービス内容と、一連の批判についての見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 今月5日、スダチが「板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化」というタイトルのプレスリリースを発表。板橋区は当初、「選択肢の一つとして、一部の学校で試行を始めたもの」という説明をHP上に掲載していたものの、13日に一転し「『板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化』という記事がSNS上で掲載されていますが、その事実はございません。上記の取組みは様々な方策を模索する中で、上記団体のお話をお聞きしたものです」と内容を撤回、現在プレスリリースは削除されている。

 株式会社スダチは2020年7月にスタートアップ。保護者からの依頼を受け、不登校児童本人と接触することなく保護者へのカウンセリングのみで生活環境や親子関係を改善し再登校を促すというサービスで、これまでの再登校者数実績(2日以上の連続登校かつ週の欠席が2日以内)は1170人、サポート開始から再登校までの平均日数は18.8日で、サポート終了時点での再登校率は90%、サポート終了から8か月後の継続登校率は90.4%となっている(いずれも同社発表)。

 いったいなぜ、保護者とのカウンセリングのみで不登校を解決できるのか。同社の小川代表は、現代の不登校問題の多くは家庭環境に原因があると指摘する。

「不登校も20~30年前とは大きく事情が異なり、今は原因の9割以上が親の過保護・過干渉。核家族化によるワンオペ育児の弊害で、育児そのものがブラックボックスになっていて、正しい子育ての仕方が分からない親御さんが増えているんです。もちろん、なかにはいじめなど学校側に原因があるケースもありますが、仮にそれがきっかけであったとしても、子どもが親を心から信頼していれば深刻なケースには陥らない。そもそも社会に出れば嫌なことがあるのは当たり前で、大事なのはそれにどう向き合っていくかということ。

 不登校家庭の中には、小学生でも一人でトイレに行けなかったり、中学生になっても一緒にお風呂に入っていたり、一人で寝られないというお子さんもいる。なかには親子関係が逆転し、親が子の言いなりになっている家庭もあります。甘やかすのではなく、自立に導く。ママやパパではなく、お父さん、お母さんと呼ばせる。正しい親子関係を築くことで、おのずと学校に通えるようになるというのが弊社の考えです」

ゲームやスマホ、テレビといったデジタル機器を完全に排除し、親子関係を改善

 不登校解消に至るまでの同社のサポート内容は次のようなものだ。まず依頼のあった保護者と無料相談を行い、その後4万5000円の有料面談を経て、各家庭ごとに最適なプランを契約。契約料金は現在非公開としているが、プランは最長でも約2か月前後だという。

 サポート期間中は保護者とほぼ毎日連絡を取り合い、ゲームやスマホ、テレビといったデジタル機器を完全に排除。起床時間や就寝時間を決めて子どもの生活習慣改善を行い、親子のコミュニケーションの時間を設ける。子どもができることをひとつずつ増やしていき、その都度褒めることで子どもの自己肯定感を高め、身の回りのことが一通りできるようになったタイミングで自信をつけた子どもが自らの意思で再登校を選択できるよう後押しを行う。なお、子ども本人には同社からサポートを受けていることを伝えないよう念を押すという。

「大切なのは、『やるべきことをやらず、やりたいことだけできる社会はない』という社会のルールを教えること。ゲームやスマホなどのデジタル機器はアルコールやギャンブル同様、ドーパミンによる依存性が極めて高いうえに、唯一年齢による規制がありません。学校に通うという、やるべきことができるようになったら徐々に緩和しても構いませんが、それができないうちは一定の制限は必要です。また、不登校児童の場合、第三者が接すること自体が難しい。何より一番の目的は親子関係の改善なので、我々が前に出ていく必要もなく、黒子に徹するようにしています」

 子ども本人の意向をヒアリングしないサポートの在り方を巡っては、「子どもの意思を無視している」「不登校を利用したビジネス」との批判の声もある。今回、一転してプレスリリースが取り下げられた背景には何があったのか。小川代表は「こちらとしては連携していたという認識で、はしごを外されたような感じ」とした上で、一連の批判に対してはこう反論を寄せる。

「ビジネスという批判ですが、それを言ったら学習塾だって子どもを利用したビジネスですし、学校に通ってほしいという親御さんのニーズがあるからこそ、こちらもそれをサービスとして提供している。これまでになかったサービスということで反感の声もありますが、スダチを利用してよかったという感謝の声もたくさんあります。需要があるからこそビジネスとして成り立つわけで、ビジネスであること自体は悪いことではありません。

 よく誤解されるのですが、我々は子どもを無理矢理学校に行かせているわけではありません。親御さんからも『学校に行きなさい』とは一切言わせないようにしていますし、重度の精神疾患を抱えていたり、自殺衝動や自傷行為などの行動があるお子さんには、支援をお断りし適切な専門機関につなぐなどの対応も行っています。再登校はあくまでステップに過ぎず、一番の目的は子どもがどんな場所でも生きていけるよう、問題を乗り越えるための社会的スキルを学ばせてあげること。そのための一歩として、家庭という一番安心できる居場所を提供するのが、スダチのサービスだと自負しています」

 プレスリリースの内容撤回や取り下げの経緯について、板橋区は21日、ENCOUNTの取材に「現在、担当者が不在のため説明できない」と回答している。

次のページへ (2/2) 【写真】スダチとの連携を否定した板橋区のホームページ
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