36歳・浜中文一が“フリーの俳優”になったワケ 移籍もしっくりこず「役者を究めたい」

俳優の浜中文一が、東京・IMM THEATERで上演中の舞台『ブラック・コメディ』で主演を務めている。同作は暗闇の場面を明るく、明るい場面を照明を消して進めるという“逆転”がキーワードになるコメディー芝居で、浜中は欲張りな彫刻家を演じている。昨年末にフリーの俳優になった36歳の浜中が関西弁を交え、コメディーへの思いなどを語った。

インタビューに応じた浜中文一【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた浜中文一【写真:ENCOUNT編集部】

上演中の舞台『ブラック・コメディ』で主演

 俳優の浜中文一が、東京・IMM THEATERで上演中の舞台『ブラック・コメディ』で主演を務めている。同作は暗闇の場面を明るく、明るい場面を照明を消して進めるという“逆転”がキーワードになるコメディー芝居で、浜中は欲張りな彫刻家を演じている。昨年末にフリーの俳優になった36歳の浜中が関西弁を交え、コメディーへの思いなどを語った。(取材・文=大宮高史)

『ブラック・コメディ』は英国の劇作家・ピーター・シェーファー氏による戯曲で、1965年にロンドンで初演された。無名の彫刻家のブリンズリーが、婚約者の父と美術蒐集家(びじゅつしゅうしゅうか)の大富豪に見栄を張るべく、隣人宅から勝手に家具を借用。フィアンセからの愛と富豪からの関心を手に入れようとするが停電が発生し、そこから予想外の事態に発展していく。

 文字通り、ブラックユーモアが効いた戯曲。主人公のブリンズリー役を演じる浜中は、クールに笑って抱負を口にした。

「底抜けにハッピーなお芝居の主人公より、少し陰がある人物の方が僕の性格にも近いので、『これはもう、やらなあかんな』と。面白おかしくやっていきたいです」

 浜中は1999年に芸能活動を開始。俳優の第一歩を踏み出すと、舞台やコンサートへの出演を重ねた。舞台歴も豊富だが、正統派の二枚目役には違和感もあるという。

「好青年の役でいる時は、僕の心は無の境地になっているかも(笑)。『もっと、似合う人がたくさんいるのかな』と思っていて、いわば好青年“風”(ふう)の男をよくやらせてもらいます。そして、シリアスよりもコメディーの方が開放感を持って演じていられるようです」

 同作については、停電が起きて暗闇になっているはずの場面を明るく、逆に明かりがついているはずの場面では照明を落として劇が進む。そんな“逆転”の演出が耳目をひく。

「本来、暗闇での姿って誰にも見られることがありませんよね。でも、この劇で僕はブリンズリーになっているとはいえ、停電中で『誰にも見られてないから』と思っての振る舞いを、明るい空間でお客さんに見られているから恥ずかしいですね。『暗闇の中でこんな顔してるんや』と想像しながら演じていきますが、ソワソワします」

 そして、腹に一物を抱えたブリンズリーのように、「僕も闇だらけですよ」と笑うが、そのマインドが浜中の枯れた魅力を引き出している。

「心に闇を抱えていた方が、よりお客さんの感性に訴える輝きを出せます。人生経験を重ねて、嫌なことも経験した方が、シリアスな場面に直面しての役作りにも説得力が出ますよね。でも、『闇』をこの場で言語化して皆に知られてしまったら闇でなくなるので、僕だけの秘密にしておきます(笑)」

 芝居の結末は予測しがたいが、コメディーゆえに何が起こるか分からないワクワク感も、浜中の芝居心をそそる。

「計画的に動くのは苦手で、追い込まれてからアドレナリンが出てくるのが僕の性分ですね。いろんな可能性を探りたくなります。演技を作っていっても、すぐ変えてみたくなります。決められたことをこなすだけの時間は退屈で、ハプニングもむしろ楽しみたい。だから、僕からはもちろん共演の方々からも仕掛けてくれるのを待っています」

性格を自己分析「ゴマをするのも嫌い」

「うそ」や「逆転」が舞台のキーワードになっていくが、自身のことは「うそが苦手ですね」と明かした。

「正直な言動をしてしまいがちですね。偉い人にゴマをするのも嫌いだし、『もっと、媚びておけば良かったか』と思う過去もありますよ(笑)。逆に、『今日、ここまで泳いできました』と言ってみたり、あからさまなボケならよく言います」

 型にはまらずに生きてきた自覚はあるものの、一人の俳優としてはパブリックイメージに縛られていた時もあった。

「共演する女優さんから『やりすぎると、浜中くんのファンに怒られるかも』のような反応が来ることもありました。別にキスシーンでもないし、僕がこういうフランクな芸風なのでファンも受け入れてくれるのですが……。そんな風に、相手がやりたい表現に制限をかけてしまうのは申し訳ないことです。今ほど気軽に自撮りがはやっていない時期には、仲良くなった共演者と写真を撮るのも気を使っていました」

 今年の元日からフリーランスの俳優として新たなスタートを切った。その理由も明かした。

「『もっと、役者を究めたいな』と思いつつ、10代から一つの組織しか知らないし、でも、どこか他の事務所に移籍するのもしっくりこないと思っていました。その状況で、フリーランスで活動する俳優さんも増えてきたので、『この辺で1度外に出てみよう』と決断しました」

 取材中も「肌も白いし、よく不健康そうに見られるんですよ。夏ならスウェットにTシャツとか、シンプルな格好ばかりなので」と飾らずに笑った。軽妙なトークからも、舞台上でのコメディアンぶりにも期待が膨らむ。

「正直、ブリンズリーについては『ウソつきでクズな奴や』と思ってます(笑)。そんな奴でもお客さんから見て、笑ってもらえる存在にできるように。そして、人生も長くはないので、できる限り多くの役で、皆さんに知っていただけるように。『健康にも気遣ってやっていきたいな』と思っています」

 光と闇が逆転した舞台。36歳の今だからこそ、エスプリの効いた芝居を見せていきたい。浜中はその構えだ。

□浜中文一(はまなか・ぶんいち) 1987年10月5日、大阪府生まれ。99年に芸能活動を開始。舞台だけで出演作品は30本を超える。今年は舞台『笑わせんな』に主演し、TBS系連続ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』、WOWOW連続ドラマ『密告はうたう2 警視庁監察ファイル』などに出演。趣味はゲーム。

【公演情報】『ブラック・コメディ』
【原作】ピーター・シェーファー
【上演台本・演出】大歳倫弘(ヨーロッパ企画)
【出演】浜中文一、市川美織、三倉佳奈、山口森広、朝海ひかる、渡辺いっけい 他
【東京公演】9月1日(日)まで。IMM THEATER

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