“悪魔”中島の引退秘話を“本妻”藤本が明かす ジュリアにも初言及「彼女はデビュー前から野心家だった」
“令和女子プロレスの悪魔”中島安里紗の引退試合(8月23日、後楽園ホール)が目前に迫って来た。中島はその試合をもって、18年間の現役生活にピリオドを打つ。そこで今回は中島と長年、“ベストフレンズ”という名のタッグチームを組んできた、“本妻”である“アイスリボンの象徴”藤本つかさに話を聞いた。
ジュリアにも初言及「彼女はデビュー前から野心家だった」
“令和女子プロレスの悪魔”中島安里紗の引退試合(8月23日、後楽園ホール)が目前に迫って来た。中島はその試合をもって、18年間の現役生活にピリオドを打つ。そこで今回は中島と長年、“ベストフレンズ”という名のタッグチームを組んできた、“本妻”である“アイスリボンの象徴”藤本つかさに話を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
中島安里紗といえば、「魂の女子プロレス」を掲げるシードリングのエースとして令和女子プロレス界では“悪魔”の異名を持つ。つまりはそれだけ対戦相手を恐怖のドン底に陥れる試合を信条としてきた証拠でもある。30年以上この業界を取材して来た記者から見ると、その姿はまさに「絶滅危惧種」そのものだった。それが今年の1月にリング上でのアクシデントで緊急搬送され、4月21日の後楽園ホール大会で復帰を果たしたものの、復帰戦を終えたリング上から、8月での引退を宣言する。
引退試合は、松本浩代、中森華子の同期二人を相手に、藤本つかさとの“ベストフレンズ”でリングに上がることが発表されている。
いわば中島は“本妻”に当たる藤本と、現役ラストマッチのリングに上がることになるが、藤本の証言によると、実は中島は、去年の段階から「引退」について思いをめぐらせていたという。
「去年の10月くらいに、(中島)安里紗から『引退を考えているから、引退を発表する時に側にいてほしい。1日限定でいいから復帰してもらえないか』って言われたんですよ」
念のために補足すると、藤本はアイスリボンに所属し、2022年3月に結婚。その年の5月まではリングに上がっていたが、そこからは産休、そして出産を果たすと、そのまま現在は絶賛育休中でリングを離れている。中島とてその状況は誰よりも分かっていたが、おそらく迷った挙句、藤本にそんな連絡を入れたのだ。
その際、藤本は中島の申し出に断りを入れた。
「私は復帰する予定もなかったので断ったんです。理由としては、それを私が受け入れたら安里紗は引退発表するじゃないですか。それが嫌だったから。安里紗の『引退』なんてありえないから、私は無理ですって断って、その時は『分かった』ってなったんですけど……」
だが年が明けると、先述通り、中島が緊急搬送されるアクシデントに見舞われる。その段階で藤本は心に決めたことがあった。
「その時に、もう一回言われた時は考えようと思いました。ただ、いつだったかな。3月にアイスリボンの後楽園大会があったんですけど、それが終わった次の日くらいに、『話がある』って連絡があって。絶対にそうだと思ったから、『嫌だ』って返信したんです。そしたら『なんで!』って返ってきたから、『何を話すのか分かっているから会いたくない』って送って、『お願いだから聞いて』って来たけど、ずーっと無視していたんですよ」
もちろん、細かな部分は分からないまでも、相棒である藤本には中島の真意は言われる前から伝わっていた。だからこそ藤本には中島をスルーするしか方法がなかったのだ。
“悪魔”によって殺意の芽生える闘いを知る
「そしたら南月たいよう(シードリング代表)さんから、『会ってあげて』って連絡が来て、じゃあ会おうって話になって、『明日、つっか(藤本)の家に行くから』って来てくれて。そこで改めて(「引退する」と)言われましたね」(藤本)
結果的に藤本は、4月21日に後楽園ホールで行われた、中島安里紗の復帰戦のリング(シードリングが主催)に中島、Sareeeとの6人タッグ戦で戦列に復帰。8月24日に後楽園ホールで開催されるアイスリボンの大会まで、4か月間の限定復帰を果たすことになる。
「最初は、4月の後楽園で復帰戦をやって、終わったら安里紗が引退を発表すると。その時に側にいてほしいから、その日だけでも復帰してくれっていわれたんですよ。だから最初はその日だけのつもりだったんですけど、私はアイスリボンの所属だし、団体(アイスリボン)にずっと所属していて、産休、育休を過ごさせてもらって、復帰場所が他団体ってどうなんだろう? と思って。悩んだんですけど、それを会社に話したら、『安里紗の引退っていうことだったら、シードで復帰していいよ』って言ってもらえたんです。でも安里紗の引退ロードに私がいないのはありえないと思って、最終的には1日限定じゃなく、安里紗が引退するまでの4カ月間復帰することを、最終的には私個人が決めました」
藤本が1日だけではなく、4か月間の限定復帰を決めたのには、他にも理由がある。
「安里紗から、『シングルマッチはドクターストップがかかってできない』って聞いたので、なおさら“ベスフレ”で行けるならって思いましたね」
ここまで書いて来た通り、中島と藤本は同じ団体に所属しているわけではない。それでも、なぜ両者は意気投合できたのか。
この質問に対し、藤本は「なぜなんでしょう?」と答えた後、次のように続けた。
「やっぱりそれは闘ってからですね。2014年に安里紗がJWPのチャンピオンで、私がアイスリボンのチャンピオンだった時があって、偶然に昼と夜に(双方の団体の)後楽園大会があったんですけど、そこでお互いの防衛戦を、昼は私が向こうの挑戦を受けて、夜は向こうのベルトに私が挑戦した同一カードをやったんです。中島安里紗と1日に2度もシングルマッチをやるっていうのだけでも、まあまあ(シンドい)じゃないですか。でも、それが結構、世に響いたというか。私も安里紗によって、殺意の芽生える闘いを知ったし、悔しいけど、安里紗によってそれが引き出されたっていうか。初めて人を○○したいと思いましたね。『コイツ!』みたいな」
両者がお互いのベルトを賭けて1日に2度の一騎打ちを闘ったのも驚くが、それがきっかけとなって、まさかの「昨日の敵は今日の相棒」にまで変貌するのだから、よほど両者のウマが合ったのだろう。
だが、藤本に関しては最近また、さらなる驚くべき話が飛び出している。
「やっぱりプロレスラーでありたい」(藤本)
6月23日、後楽園ホールで行われた、“スターダムのアイコン”岩谷麻優とのIWGP女子戦でのこと。藤本が得意のビーナスシュート(コーナーからの三角跳び式延髄斬り)を放った際、着地に失敗し、右ヒジを脱臼→緊急搬送されたのだが、それからわずかひと月後の7月26日には新木場1stリングで戦列復帰を果たしたのである。しかも脱臼した右ヒジがなかなかハマらず、5時間もかかったというのに、「陣痛よりはマシ」との名言をサラリと言ってのけることを加えても、いやはや、藤本には“悪魔”中島と並ぶ、尋常ならざる魔力が備わっていると思えて仕方がない。
ちなみに、現在、マリーゴールドにいるエース、ジュリアもアイスリボン出身になるが、当時のことを記載した記事を読むと、藤本とのつながりでジュリアは女子プロレスラーへの道を歩むことになったようだ。
「実は(ジュリアは)ここの道場(で行った道場マッチ)にお客さんとして見に来たんですよ。私は女性には結構、分け隔てなく声はかけるんですけど、初めて名刺を渡した相手でもありますね。『ホントにやる気があるなら連絡をちょうだい』って。そしたらホントに連絡があって、『ウチの練習においで』って話したんです。でも、『プロレスをやりたいです』っていう人はちょいちょいいるんですけど、彼女が他の人と違ったのは、最初から『プロレスでトップを取りたいんです』って連絡して来て。珍しく野心のある子が来たなって思いましたね」
なお、ジュリアは2019年11月にアイスリボンからスターダムに移籍したが、その際にアイスリボンとの雇用契約継続(社員状態)が残ったままの移籍となったことから、引き抜きや義理を欠いた行為と、ジュリアに対する風当たりは強かった。
そうした背景があることから、今までは暗黙の了解でジュリアのことを聞けない雰囲気があったのか、藤本は「私、たぶん、マスコミにジュリアの話をしたのは初です」と語った。
ともあれ、藤本にとって、限定復帰を果たした4か月間とはなんだったのか。この質問に対し、「安里紗のために復帰した4か月でしたけど、自分のためにもよかったと思うし、安里紗の引退ロードと一緒に、普段出会えない人と出会えたので。やっぱりプロレスラーでありたいなと思いましたね」と答えた。
そして、あと数日でリングを去っていく中島に対し、「安里紗はホントにピュアだし。リングとのギャップがあるんですよね。でも、逆にプロレスでしか開かない扉が彼女のなかにあるから、それが開かなくなるのは寂しいなと思います」と話した。
ここまで記して来たように、紆余曲折ありながら、藤本は中島による現役最後のリングでタッグを組む。つまり中島は最後まで藤本とリング上で添い遂げることを選んだことになる。
「こんなに信頼できるパートナーがこれから出会えるのかっていったら難しいですね。だから私はラッキーだと思います」
果たして“本妻”藤本は、“悪魔”中島安里紗の引退試合をともに闘った後、どんな思いで、中島の「引退」への10カウントゴングを聞くのだろうか。