始まりは「アンジャッシュ渡部」報道 松本人志裁判で文春側の主張全貌が判明…性加害「証明」の中身

ダウンタウンの松本人志が自身の性行為強要疑惑を報じた週刊文春に名誉を毀損(きそん)されたとして、同誌発行元の文藝春秋社などに5億5000万円の損害賠償などを求めた訴訟は、今月14日に行われる予定だった第2回弁論準備手続きが前日に取り消しとなった。しかし、文藝春秋社側が準備することになっていた主張書面は予定通りに提出されていた。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこれをいち早く閲覧。文春側の主張全貌をここで初めて明らかにする。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

西脇亨輔弁護士が主張書面を閲覧…民放テレビ局記者も登場

 ダウンタウンの松本人志が自身の性行為強要疑惑を報じた週刊文春に名誉を毀損(きそん)されたとして、同誌発行元の文藝春秋社などに5億5000万円の損害賠償などを求めた訴訟は、今月14日に行われる予定だった第2回弁論準備手続きが前日に取り消しとなった。しかし、文藝春秋社側が準備することになっていた主張書面は予定通りに提出されていた。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこれをいち早く閲覧。文春側の主張全貌をここで初めて明らかにする。

 東京地方裁判所の記録閲覧室。そこに松本人志裁判の記録が運ばれてきた瞬間、私は「ハッ」とした。これまでよりも、とても分厚くなっていたからだ。それは場外乱闘ばかり続いたこの裁判が、ようやく「記事は真実か」という本題に入ったことの証しだった。

 松本氏と文藝春秋社らの裁判は今月14日に予定されていた裁判期日が突如、取り止めとなったが、この日に向けた文春側の主張書面は同月7日に提出されていた。今年1月の提訴以降、被害を訴える女性の個人情報を「出せ」「出さない」という押し問答が続き、本題に入れなかった。裁判記録も薄っぺらなままだったが、今回、文春側は19ページに及ぶ主張書面と20通の証拠を提出し、その主張を明らかにしていた。

 主張書面の第1章は「本件記事の取材の端緒」という見出しだが、そこには意外な人名が並んでいた。

「佐々木希、逆上、渡部健アンジャッシュ相手女性が告白 テイクアウト不倫」

 2020年6月11日発売の週刊文春がこのお笑い芸人・渡部健氏の不倫疑惑記事を報じたところ、翌月、週刊文春記者にこうした連絡が入ったという。

「ある女性が『渡部さんのことが記事になるのであれば、私はもっと酷いことをされた』と話している。その相手は松本人志さんです」

 通報したのは中村信雄弁護士。そして、この「ある女性」こそ、今回の件を告発したA子さんだった。

 文春側主張書面には、この20年7月の最初の通報から23年12月の記事掲載まで約3年半にわたる取材の軌跡が書かれている。そこで強く主張されていたのは女性証言の「詳細さ」と「周囲の支え」だ。

「詳細さ」は、特にA子さんの証言について強調されている。A子さんは取材の際、性加害の現場となった高級ホテルの一室の見取り図を白紙に書いて説明した。そこにはテーブル、ソファー、テレビ、ベッド、洗面台、事件の夜にその部屋にいた松本氏、スピードワゴンの小沢一敬氏、A子さんを含む男女6人の配置まで、刑事事件で使われる証拠のように詳しい図が描かれていた。そして、この図が正しいかを確認するため、記者らとA子さんはホテルを訪れて実況見分をしていた。

 その際には記者がワザと話を聞き違えたふりをしてA子さんに「引っかけの質問」を出したりしたが、A子さんの説明がブレることはなかったという。

 そして、A子さんは実際に部屋の中で松本氏が現れたシーン、飲み会のシーン、ベッドルームで松本氏に性的行為をされたシーンなどを順番に実演した。この時、A子さんは実演を続けながら、時折、涙を浮かべていた。

 そのような証言の「詳細さ」と並んで文春側が主張したのが、証言を裏付ける「周囲の支え」の存在だった。ここではA子さんとともに被害を訴えたB子さんが重要な役割を果たしていた。

取材3年半…A子、B子の証言を支え合う骨組み

 松本氏から性被害を受けた後、A子さんはB子さんに注意を呼び掛けるLINEを出した。しかし、実はA子さんが被害を受ける2か月前にB子さんは既に松本氏から性被害を受けていて、A子さんには話せずにいた。ただ、同棲していた当時の交際相手にはB子さんはこのことを打ち明けていて、この交際相手は取材にこう答えた。

「僕と彼女の交際期間は3年間。その間で唯一彼女が涙したのが、この事件でした」

 さらに実はもう1人、B子さんから被害を打ち明けられた人物がいた。それはB子さんの大学の後輩に当たる民放テレビ局記者だと、今回の主張書面には書かれている。

 これまで週刊文春の記事に登場していなかった人物も新たに現れ、A子さんの証言をB子さんが、そして、B子さんの証言を当時の交際相手と後輩のテレビ局記者が、それぞれ支え合っている。これが文春側の主張の骨組みになっていた。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、こうしたA子さんらの証言内容の証拠として現時点で出されているのは「文春記者による取材メモ」だという点だ。A子さんらが自ら記した「陳述書」は出されていない。

 取材源を裁判に出さない代わりに、記者が取材過程を詳しく報告して裁判官に信じてもらうというやり方は、私もテレビ局の法務部時代に経験した。もちろん、記者の説明だけで裁判官が納得してくれる可能性もある。しかし、そうした間接的な説明よりも、直接の証言、今回であればA子さんらの証言が求められることが多いだろう。文春側は最後まで「記者の取材メモ」で押し切るのか、それともA子さんらに登場してもらうのか。その判断のタイミングは今後の裁判のカギになる。

 しかし、まずは文春側の主張の全貌が明らかになった。今度は松本人志氏が、あの夜に何があったのかを説明する番だ。どのような主張になるのか注目される。

 ただ、ここで気になるのが、突然の裁判期日取り止めだ。文春側の弁護士は「理由は分からない」とコメントした。今回、私が裁判記録を見てみても取り止めの理由は書かれていなかった。一体、何があったのだろうか。だが、これまでも異例の展開を見せてきたこの裁判だ。この先何が待っているのか、予断を許さない気がしている。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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