吉田類、長寿番組続ける秘訣 行きたい酒場はまだまだ山ほど「最後は杖をついてでも、ずっとね」

全国津々浦々の酒場を訪ね、うまい酒と肴、人情に巡り合うBS-TBSの長寿番組『吉田類の酒場放浪記』(月曜午後9時)が、今年9月で放送21周年を迎える。酒と山登りと俳句を愛する「酒場詩人」こと吉田類。辛党だけでなく、幅広い年齢層の視聴者に支持されている。人気番組に押し上げた理由は、なんと言っても吉田の人柄が大きい。75歳を迎えても、「二日酔いは全然しないんだよ」。どんな店にいちげんの客で入っても、すぐに場になじみ、常連と笑顔で酒を酌み交わす。そんな希代の“のんべえ”が、長く続く番組の秘訣(ひけつ)、1人でも酒場を楽しめるコツ、そして今後の意気込みを明かした。

酒と山登りと俳句をこよなく愛する「酒場詩人」こと吉田類【写真:山口比佐夫】
酒と山登りと俳句をこよなく愛する「酒場詩人」こと吉田類【写真:山口比佐夫】

『吉田類の酒場放浪記』 今年9月で放送21周年を迎える

 全国津々浦々の酒場を訪ね、うまい酒と肴、人情に巡り合うBS-TBSの長寿番組『吉田類の酒場放浪記』(月曜午後9時)が、今年9月で放送21周年を迎える。酒と山登りと俳句を愛する「酒場詩人」こと吉田類。辛党だけでなく、幅広い年齢層の視聴者に支持されている。人気番組に押し上げた理由は、なんと言っても吉田の人柄が大きい。75歳を迎えても、「二日酔いは全然しないんだよ」。どんな店にいちげんの客で入っても、すぐに場になじみ、常連と笑顔で酒を酌み交わす。そんな希代の“のんべえ”が、長く続く番組の秘訣(ひけつ)、1人でも酒場を楽しめるコツ、そして今後の意気込みを明かした。(取材・文=吉原知也)

「やっぱり、リラックスしたままでいられるということじゃないですかね。それなりの節度を持つけど、緊張することはない。そんな感覚で酒場に入っていきます。そこじゃないかな。視聴者の皆さんも含めて、みんながリラックスできれば。それに、奇をてらわないこと。ある意味同じことの繰り返しとも言えますが、明日も今まで通りが続けばいいな。そう思っています」

 脈々と放送を続けてきた番組について、こう言葉を紡ぐ。

 2003年9月に放送が始まった同番組。当初は大人の趣味を紹介する番組のワンコーナーだったが、08年に単独番組に。09年からはレギュラーの1時間枠となり、21年2月には放送節目の1000回を達成。新型コロナウイルス禍を乗り越え、現在、1200回を数える。オープニング曲『Egyptian Fantasy-エジプトの幻想-』の不思議な音色、河本邦弘による軽妙なツッコミが入るナレーション、最後に酒場の感想を詠む俳句が名物になっている。

 にこやかにあいさつをしながら酒場ののれんをくぐり、席に着いたのもつかの間、「かんぱーい!」。その日の1杯目の飲み物を決めると、店内にいる客全員と、必ずグラスを重ね合わせて乾杯をする。こうして、店内は一気に「吉田類ワールド」にいざなわれる。その絶妙な居心地を作り出すのが、吉田の真骨頂だ。

 記念すべき初回放送の舞台となったのは、東京・吉祥寺の焼き鳥の老舗「いせや総本店」。そこから東京の下町酒場をはじめ、全国の小粋な一軒や隠れた名店を飲み歩いた。撮影で大事にしているのは、「そのままの気持ち」だという。お店が100軒あれば、100軒とも違う。酒場それぞれの個性がある。「お店に入る前から変にうがった目で見ないことです。先入観を持たない方がいいということ。仮に何度か来たお店であっても、『今日が初めてなんだ』というまっさらな気持ちで入るんです」。初めて来店する酒場であっても、スタッフからほとんど事前に情報を聞かないという。その自然体のスタイルが、多くの視聴者をひきつけている。

ヨーロッパ放浪が吉田類の原点だという【写真:山口比佐夫】
ヨーロッパ放浪が吉田類の原点だという【写真:山口比佐夫】

「『場を読む』ということを覚えました」 酒場でのスマートな立ち振る舞いを伝授

 吉田に言わせれば、酒場は「人生の学校」だ。番組を通して、吉田から“酒場の流儀”を学んだ酒好きは多いだろう。

 画家として活動していた若い頃、吉田はフランス・パリを起点にヨーロッパ各地を放浪し、国も民族も言語も違う数々の人と交わり、酒の席を囲んだ経験がある。これが“原点”だ。

「人と人との間には、適度な距離感が必ずあります。僕の場合は、その距離感を把握する能力を、うまく自然に身に付けることができました。ヨーロッパで絶えず違う相手と接してきて、大衆的なところにも、本場の高級なところにも行って、『場を読む』ということを覚えました。酒場に入ると、相手はもう全部違うわけです。1人1人との距離の取り方が大切です。それに、酒場では、みんなが楽しもうと思って来ているので、その楽しみを共有する、分かち合うことが一番かな」。1人で酒場にチャレンジしてみたいけど不安――。そんな酒場初心者に、とっておきのアドバイスを教えてくれた。

 さらに、酒場での“お行儀”についても伝授。自分が他の客に絡んでしまうことは「ダメですね」ときっぱり。そして、「ある程度の柔軟性を持つことが大事なのですが、もしも、そういったものが通用しない相手がいた場合、酔っぱらってたちの悪い言い方をする人がいたとしたら、それはもうそこから逃げます」。雲行きが怪しくなったらさっと身を引く。酒場のトラブルは自ら察知して回避。そんなスマートな振る舞いについても助言を送る。

 常連との酒場談議が弾み、滋味深い料理とともに、ついついお酒が進む。大好きなしめさばがあれば日本酒を……。カメラの前でちょっと酔い過ぎて、ろれつが回らないこともしばしば。番組定番のご愛嬌だ。「それはね、もう、お酒なんでね。だって、飲んで酔わなかったらおかしいですもん。僕はそんなに強烈なアルコール耐性の体をしているわけじゃないので、アルコールが入ったら普通に酔います」と笑顔を浮かべる。

 飲みたい酒、行ってみたい酒場は、まだまだ山ほどある。「100歳までやるぞ、なんて思っていますが、やっぱり健康じゃないとダメですね。もう最後は杖をついてでも、ずっとね。これからも全国を回って飲んで、一句詠む。それが理想ですね」。“類さんの旅路”は続いていく。

次のページへ (2/2) 【写真】長年多くの視聴者を魅了する吉田類の飲み姿
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