櫻坂46・藤吉夏鈴、グループ改名時は「生意気だった」 現場で知った“一方的なこだわり”の残酷さ
櫻坂46の藤吉夏鈴が、8月9日公開の青春エンターテインメント映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』(小林啓一監督)に主演している。個性豊かな先輩たちに翻ろうされつつも、新聞部で学園の闇を暴く高校生役で奮闘した。俳優としてグループ活動外の仕事も多く、同作では映画初主演。「今、人と会うのがすごく楽しいです」と話す藤吉が、自身が変わったきっかけ、芝居の楽しさ、櫻坂46での日々などを語った。
『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』で映画初主演
櫻坂46の藤吉夏鈴が、8月9日公開の青春エンターテインメント映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』(小林啓一監督)に主演している。個性豊かな先輩たちに翻ろうされつつも、新聞部で学園の闇を暴く高校生役で奮闘した。俳優としてグループ活動外の仕事も多く、同作では映画初主演。「今、人と会うのがすごく楽しいです」と話す藤吉が、自身が変わったきっかけ、芝居の楽しさ、櫻坂46での日々などを語った。(取材・文=大宮高史)
――映画初出演で主演。撮影にはどんな思いを持って臨みましたか。
「『主演だから』と特別に意気込むよりも、『皆さんと早く会ってお芝居がしたい』という高揚感がありました。映画への出演自体が初めてだったので、挑戦できること自体にワクワクしていました。ちょうど『アオハライド』(WOWOW)で長編ドラマのお芝居を経験した後で、その時に味わった“未知の感情を体感して、表現していく楽しさ”を『また、経験できるんだ』と前向きに思えました」
――主人公の所結衣は、名門の『櫻葉学園高校』に入学する文学少女ですが、文芸部の入部テストに落ちて、非公認部活の新聞部に潜入、学園の裏の真実を知っていきます。
「すごくピュアな子です。学生らしい、年を重ねると失ってしまうような感性を持っていて、懐かしさを感じつつも胸が痛くなりました」
――「胸が痛くなった」というのは。
「私自身が、昔はもっと素直に気持ちを言葉にしていたなと思います。人って成長すると、本心にウソをついたりもするし、他人との関係に気を遣って言いたいことを言わなくなりますよね。比べるとこの作品の高校生たち、特に結衣は心がきれいで、感じたことがすぐ表情に出る子なのかなと考えました。世の中だって虚構も多いです。だから、脚本を読んで『こんなきれいな世界があるのか』と思いました」
――そのイメージを持って臨んだ撮影。感じたことは。
「いざ始まってみると、ほかのキャストさんと雑談を楽しむ余裕もないくらい必死でした。自分のことで精いっぱいで、暗い部屋の中にいるような感覚でスタートしたのですが、シーンのたびにモニターで表情をチェックしていくうちに『こんなにすてきな映像になっているんだ』と思えて、光が差した気がします。監督も一緒に映像を見てリテイクのアドバイスをくれたので、繰り返すうちに結衣の素直さになじんでいきました」
――映画の中では、結衣としてのモノローグも多いですが、声の演技はどのように工夫しましたか。
「映像を撮ってから少し間をおいて収録したので、(監督と)その頃の声のトーンを思い出しながら収録しました。すでに映像があって結衣の役作りが形になっていたので、ロケ中の気分を思い出しながら臨めました」
――新聞部で結衣を鍛える新聞部長・杉原かさね役には高石あかりさん。結衣とかさねの掛け合いもコミカルです。
「高石さんのかさねには、頭をたたかれたりもしていますね(笑)。高石さんと監督が、台本にないことをアドリブで試したりするので、素直に驚いている様子をそのまま採用してくれています。結構、私の素の表情が撮られています」
――所結衣らしさを見せるにあたり、大切にしたことはありますか。
「誰といるときも周りから愛される子だと思うので、ちょっと抜けたところを見せつつも『放っておけない愛嬌』をイメージしていました。もともと物語の中でちょっと不器用に書かれていたので、歩き方も間抜けっぽさを入れてみたり、話しぶりにももたついている様子を加えてみました」
――藤吉さん自身の学生時代は、どんな日々でしたか。
「相応に反抗期もありました。どちらかと言えばひねくれていて、人と話すことも少なかったんです。結衣とは正反対ですね。通っていた学校にほとんど友達がいなくて、ほかの学校の子と馬が合ったり。今のように、人と話すことが好きだなんて気持ちはまったくありませんでした」
韓国語学習に意欲「専門的な授業も受けています」
――そこから、変わっていったタイミングはありましたか。
「この1~2年ほどです。欅坂46から櫻坂46に改名した頃も、我ながら生意気な子でした。『こうありたい』というこだわりが強すぎて自分の意見もはっきりと言いましたし、モチベーションがあることとそうでないことの差がはっきりしていました。ただ、それは自分にウソがつけないことの裏返しで、『結衣のように純粋に頑張っていたんだな』とも思います。その後、3枚目シングルでBACKSという最後列の3列目のフォーメーションに入ったことが、それからの考え方に影響しました」
――どんな影響があったんでしょうか。
「それまで1、2列目にいたのに、初めて3列目に入って『せっかくたくさんチャンスをもらったのに、簡単に下がってしまうのか』と悲しかったんです。『このショックを、応援してくれていたファンの方が知ったら悲しむだろう』と思うと余計にです。でも、BACKSメンバーだけの『BACKS LIVE』で、ほかのメンバーがMVで演じた曲を自分なりにパフォーマンスする経験などもできました。そして、“希望が叶わない悲しさ”を手に入れていなかったら、出せていない表現もあると感じました。必要な経験でした」
――それは3枚目シングル(『流れ弾』)の期間なので、21年秋から22年春頃ですね。
「その後、『あざと連ドラ』(テレビ朝日)や『アオハライド』など、グループ外でも1人でのお仕事をいただくようになって、大人の方と話す機会がずっと多くなりました。ドラマでも何でも、アイデアを交わしながら作品を作り上げていく現場に入って、人それぞれの思いを知っていったんです。いろんな角度から皆さんが創作に込めた思いがあるんだから、自分の一方的なこだわりでそれらを全否定するのって、とても残酷なことだと気づけました。『携わってくれた方々の思いも背負って、責任をもってやらないと』と実感するようになりました。他者へのスタンスが明確に変わっていったタイミングでした」
――俳優業の中で、新しい発見はありましたか。
「櫻坂46で楽曲をパフォーマンスするときは、曲から素直に感じた気持ちを膨張させていく感覚で臨んできました。『お芝居も似ているのかな』とイメージしていたら、違いました。今まで経験したことがない感情ばかりを演技に落とし込んでいったので『(感情を)味わったことがないんだから、どう演じたらいいんだろう』というところから始まって、試していく過程が次第に面白くなってきました」
――どのように工夫していったのでしょうか。
「初めて味わう感情に『この時の私って、どんな顔をしているんだろうか』と好奇心を持つようになりました。自分の顔を見ることはできないし、未知の心情を形にしていくから、気になりますよね。初めはハードルもありましたが、映像の中に残る私の喜怒哀楽を見るのも好きになっていきました。1つの現場が終わった後でも作品のことを考えているくらい没入しますし、愛おしい思い出になります」
――6月の4thツアー東京ドーム公演では、韓国語でのスピーチが印象的でした。新しく学び始めたのでしょうか。
「去年12月にフィリピンで『Asia Artist Awards』に出演したとき、初めて韓国語であいさつをしてみました。その頃は覚えたての言葉を話すだけでしたが、それから韓国語にハマっていって、専門的な授業も受けています。知識が増えていくのが楽しいですね」
――好奇心が発揮されていますね。
「はい。とはいえ、1人ではできなかったと思います。マネジャーさんが一緒に面白そうな授業を探してくれたり、一緒に受講してくれています。いつも周りの人に助けられていますね」
――櫻坂46のYouTubeチャンネルでは、栃木の足尾銅山で廃墟巡りを楽しむ様子も配信されました。
「ピカピカの新品よりも、人の手が入って使い古されたものの方が好きなんです。だから、ヴィンテージショップにもよく行きます。そこで、お店の人から『フランスまで行って買ってきました』といった品物にまつわる話を聞くと、興味が湧いてつい買ってしまったり(笑)」
――今年、櫻坂46は2度目の東京ドーム公演をソールドアウトするなど、グループとしての勢いが加速している印象です。
「私は『素敵な人に出会える運』に人一倍恵まれているなと実感します。CDのジャケット写真やMVの撮影現場に行くと、年に数回しか会えないんだけど、毎回、櫻坂のために素敵な作品を作ってくれる皆さんが待っていてくれます。私より人生経験もあって、いろんな経験をお持ちなので、話を聞けるだけで面白い時間が流れているんです。こんな風に、まだ会ったことのない人たちとも『一緒に創作を続けて生きていければいいな』と思いながら、現場に向かっています」
□藤吉夏鈴(ふじよし・かりん) 2001年8月29日、大阪府生まれ。18年8月、坂道合同オーディションに合格し、欅坂46に2期生として加入。欅坂46は20年10月に櫻坂46に改名。23年6月の6枚目シングル『Start over!』で表題曲初センターを務めた。同年にはWOWOW『アオハライド』で連続ドラマ初出演。今年1月期にはNHK『作りたい女と食べたい女 シーズン2』に出演。166センチ。血液型A。
※高石あかりの「高」の正式表記ははしごだか
ヘアメイク/渋谷 絵里奈(SHIBUYA ERINA)
スタイリング/市野沢祐大(TEN10)