パリ五輪トライアスロンで物議のセーヌ川「立ちションする男性を何人も見ました」 悪臭も…目撃女性の本音

「私の知ってるセーヌ川は、川辺にいる男性たちが川に向かって立ちションしてるところだった」――。パリ五輪の開催で、注目を集めているセーヌ川。フランスを代表する河川で、五輪開会式では“船上パレード”が華々しく行われたが、トライアスロン競技を巡り、水質の懸念が物議を醸している。過去にパリを旅行し、セーヌ川でライン下りをした経験を持つ女性は、当時の“実態”を思い出し、もやもやした気持ちでいるという。本音を聞いた。

パリ五輪のトライアスロン競技【写真:ロイター】
パリ五輪のトライアスロン競技【写真:ロイター】

2018年に目撃した光景 パリ旅行で魅力の新発見も

「私の知ってるセーヌ川は、川辺にいる男性たちが川に向かって立ちションしてるところだった」――。パリ五輪の開催で、注目を集めているセーヌ川。フランスを代表する河川で、五輪開会式では“船上パレード”が華々しく行われたが、トライアスロン競技を巡り、水質の懸念が物議を醸している。過去にパリを旅行し、セーヌ川でライン下りをした経験を持つ女性は、当時の“実態”を思い出し、もやもやした気持ちでいるという。本音を聞いた。

 女性がパリを訪れたのは、2018年のこと。パリには住んだことはなく、欧州の別の国からのツアーで訪れた。いわゆる現地ツアーで、フランス人の現地ガイドが付き、定番のエッフェル塔、モンマルトルの丘、ルーブル美術館、凱旋門、ノートルダム大聖堂などを回った。徒歩、地下鉄、バス移動もあったため、「現地で暮らす人たちが身近に感じられる旅となりました」という。

 セーヌ川を間近で体感するライン下りのアクティビティーに参加。川辺も少し散策した。そこで感じたことは、「全然きれいでもロマンチックでもない」ということだった。言わば“男性たちのトイレ代わり”という印象を受けた。全体的にパリの街を「不潔」だと感じたとのことだ。

「川の色はとても汚くて、現地ガイドからも『みんな立ちションしてるからセーヌ川は汚い』と言われました。フランスの人は立ちションをするというのは知っていたのですが、ライン下りをしていても関係なく、船が行き過ぎると立ちションする男性を何人も見ました」と振り返る。

 あくまでも、パリしか見ていない。ただ、パリの街中で見かける子どもたち、日本で言う小学5、6年生ぐらいの子どもたちがタバコを吸っていても誰からも注意されない光景にも心が痛んだという。

 歴史ある花の都。もちろん、思い出に残る素晴らしい体験はたくさんあった。食事も飲み物も「とてもとてもとてもおいしかったです」。ブイヤベースを頼んだら、パンとウニが付いてきて、パンにウニとチーズを乗せてブイヤベースに浸して食べると、至福の味だった。

 建物と道路が一体となっている建築構造にも心を奪われた。「昔の建物をそのまま残し活用できていて、そしてそれがどこか味わい深くて、異世界に連れていってくれるような感覚がとてもすてきだと思いました。明るいところから、石でできた建物の下をくぐる。そうすると、暗く涼しく、景色が閉ざされて一瞬だけその時代にいるような気分になります。そしてまた明るい現代に出る。パリを歩いているとそんな特別な体験が何回も繰り返されるので、とても楽しいです」。歴史のロマンにも魅了された。

 パリ五輪では、水質に心配の声が集まっていた中で、男女のトライアスロン競技が開催された。フランス政府は五輪に向けて、大規模な水質改善を図ってきた。一方で、五輪開幕後に雨の影響で生活排水が流れ込み悪化するなど、混乱が見受けられた。さらに、ベルギーオリンピック委員会がトライアスロン女子に出場した同国代表選手が体調不良になったことを発表するなど、騒動が続いている。

「今の五輪は何の祭典なのでしょう。IOCは一体何をしたいのでしょうか」

 女性はパリ五輪はほとんど関心がなく、Xで回ってくる情報をチェックする程度だというが、セーヌ川でのトライアスロン開催を聞いた時は驚がくしたという。

「まず、色です。私が見た当時は、とても人が入れる川の色をしていませんでした。どんなに消毒をしても、手を打っても、その川を人々がどのように扱っているかを改善しなければ水質改善は無理だと考えています。立ちションをしないように、法律を制定したり、小便器ボックスを設置しても、それはただの対応策であり、根本的な解決にはなっていないと思います。実際、立ちションボックスに近付いただけで、かなりの異臭に半径5メートル以内には近寄ることができませんでした。周りにどんなにゴミがなく、写真上では衛生面に問題がなさそうでも、強烈な臭いは事実です。現在の状況は不明ですが、当時私は確かに悪臭を経験しました」

 そのうえで、「ただ、立ちション自体が川の汚染の根本的な問題とは思っていません。今回のように多くの選手が競技のために川に入るいうケースにおいては、気分の問題も関わってくると考えています。きっと、自分ではセーヌ川に入ることのない人が、データだけを見て、『気持ちさえ変えられれば大したことはない』と思っているのかもしれません。なので、『セーヌ川でトライアスロン』などという発想になったんだと思います。それでも、どんなにいい数値を見せられて、いくら水質が改善したと言われても、あの色であんな使われ方がされている現状を実際に見聞きしていれば、厳しく思ってしまうでしょう。また、トライアスロンについて、『水質が改善されなければ「水泳はなし」で競技することも』などといった報道を読みました。そもそもトライアスロンは『水泳』『自転車』『長距離走』が合わさって競技するものです。そこから『水泳』をなくせばいいとの考えに行き着くこと自体が考えられませんでした」。自身の見解を冷静に語る。

 なぜ五輪を開催するのかという根本理由についても疑問に思うことがあるといい、「昔、五輪はアマチュアの祭典でした。かつて誘致にはその国の発展という目的があったと思います。それが今はもう、何をしているのか分かりません。今の五輪は何の祭典なのでしょう。IOC(国際オリンピック委員会)は一体何をしたいのでしょうか。それに、賛否あるようですが、今回の開会式も『フランスらしさ』を表しているとしたら品位を疑いますし、運営側の質も疑問に感じることがとても多いです。IOCから伝わってくるのは、『とにかく何をおいても五輪をやりたくて仕方ない』という熱量だけ。選手のことはどこか脇に置いてかれてるような気がします」と、嘆きの思いを口にする。

 メダル獲得のニュースが盛り上がる中で、「五輪の開催より、フランスはやることがあるのではないか、というのが正直な気持ちです」。けっしてフランスやパリの人たちのことを否定するつもりはないが、一歩立ち止まって、五輪開催の意義や都市文化について思案を深めているという。

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