3人の子どもがロボットやAIと一体化 「人機一体」の現在地に迫る短編映画『自在』

物理空間とバーチャル空間で人がロボットやAIと一体になり、まるで自分の体のように扱う――。そんな科学技術の可能性を研究するプロジェクトに、映像作家の遠藤麻衣子監督が潜入して創り出された短編映画『自在』の上映が、8月3日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで始まった。斬新な映像表現やサウンド表現で注目を浴びるクリエイターが、なかなか立ち入ることのできない最先端科学技術の研究室で何を感じ、その世界をどう表現したのか。普段はあまり見ることのできない研究室の実機が数多く登場し、「人機一体」の現在地に迫る作品となっている。

映画『自在』が8月3日から公開された【写真:(C)3 EYES FILMS, JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト】
映画『自在』が8月3日から公開された【写真:(C)3 EYES FILMS, JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト】

「稲見自在化身体プロジェクト」に潜入して制作された映画『自在』

 物理空間とバーチャル空間で人がロボットやAIと一体になり、まるで自分の体のように扱う――。そんな科学技術の可能性を研究するプロジェクトに、映像作家の遠藤麻衣子監督が潜入して創り出された短編映画『自在』の上映が、8月3日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで始まった。斬新な映像表現やサウンド表現で注目を浴びるクリエイターが、なかなか立ち入ることのできない最先端科学技術の研究室で何を感じ、その世界をどう表現したのか。普段はあまり見ることのできない研究室の実機が数多く登場し、「人機一体」の現在地に迫る作品となっている。

 遠藤監督が潜入したのは、東京大学の稲見昌彦教授が率いる「稲見自在化身体プロジェクト」。物理空間とバーチャル空間の両方で、人が自己主体感を保ったままロボットやAIと一体になるという“身体拡張”の可能性を探る100人の研究者集団だ。この「稲見自在化身体プロジェクト」から、研究成果を一般の人たちに伝えるために映画を作りたいというオファーが遠藤監督のもとに届いたことが、作品化のきっかけだった。

 映画の主人公は3人の子どもたち。能力の限界を広げるために新たな体の一部を作っているロボットと一体化した少年が、三つ目のメガネやロボットを通じて、他の2人の子どもたちと現実世界の時空を超えて交感を重ねるというストーリーで、研究室の実機を登場人物たちが実際に身につける形で撮影が行われた。

 映画を制作するにあたり、自身も実機を装着したという遠藤監督は「普段より多く腕があったり、指があったりというのは、動かす時に意識の持ち方が違うので、いつも使っていない脳の部分を使っている感じはしました」と振り返る。従来の研究映像は、成果などを分かりやすく解説することを第一の目標として作られているが、この作品には解説のための言葉や映像は一切出てこない。その代わりに、遠藤監督がクリエイターとしてのまなざしで捉えたリアルな実機の動きや音、実験用VR映像などが組み込まれ、重要な役割を果たしている。研究の現状を伝えるにあたり、「映画の中では実機の動くそのままの音を大切にしたり、ハリウッド映画に出てくるロボットのようにすごくスムーズに動くように見せかけたりはしないようにした」という。

 また、3人の子ども(遠藤陽太郎、シュミット真綾、早川天麻)が登場するストーリーにした理由については「実物のロボットを見た時に、子どもと合わせたらいい画になるなと思いました」と明かす。「遠藤さんは子どもらしい見た目、シュミットさんは見かけとそこから発せられる声のギャップ、早川さんは根拠のない自信があるところがすごい」。三者三様の個性も作品の魅力の1つとなっている。

映画『自在』ポスター【写真:(C)3 EYES FILMS, JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト、AD:畔柳仁昭、撮影:NOJYO】
映画『自在』ポスター【写真:(C)3 EYES FILMS, JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト、AD:畔柳仁昭、撮影:NOJYO】

 稲見教授をはじめとする研究者と過ごした日々は「この上なく刺激的で充実した時間」だったと振り返る遠藤監督。「元々、私自身が持っていた身体拡張のイメージ自体をものすごく拡張してもらった気がします」。一方、映画を見た稲見教授は研究プロジェクトから思いもかけない表現が生まれたことに驚き、作品がヨーロッパや南米などの映画祭に招待されてさまざまな人たちに鑑賞されたことについて「こんなに遠くに行けるのかと思いました」と語る。研究者とクリエイターのコラボレーションという新たな試みは、大きな成果を生んだようだ。

 人がロボットやAIと一体になる「人機一体」の今後について、遠藤監督自身は『自在』の制作を通じて「案外、自然になされていくかもしれない」と感じたという。

「なぜならそれは、機械も自然の一部だと思うからです。どこからどこまでが自分なのかも分からなくなって、というより自分の外にあるものも自分だと思える世界になって、それが心地よいものになればいいなと思います」

 作品の公開に合わせて、シアター・イメージフォーラムでは遠藤監督が「人機の情動」をテーマにセレクトした3作品も同時上映する予定。そのうちの1つである『ネプチューン・フロスト』で共同監督を務めたミュージシャンのソウル・ウィリアムズが来日することも話題となっている。作品上映後のトークイベントに遠藤監督や稲見教授、ウィリアムズが登場する日もあり、人類とテクノロジーの共生のあり方をそれぞれの視点で考察するという。

◯8月3日より2週間限定で、渋谷・イメージフォーラムにて上映会を開催

遠藤麻衣子監督の最新作『自在』特別企画&併映3作品と贈る特別企画「人機の情動 ーMAN MACHINE EMOTION」(https://www.jizai-film.com/

・Aプログラム
『自在』+アフタートーク
8月3日『自在』+アフタートーク/ゲスト:樋口泰人(映画評論家・爆音映画祭ディレクター)×遠藤麻衣子(映画監督)
8月16日『自在』+アフタートーク/ゲスト:稲見昌彦(東京大学教授)×遠藤麻衣子(映画監督)

・Bプログラム
8月4日~9日
『ハックト・サーキット』『アーティフィシャル・ユーモア』『自在』

・Cプログラム
8月10日、8月11日、8月13日~15日
『ネプチューン・フロスト』『自在』

・Dプログラム
8月12日
『ネプチューン・フロスト』+ソウル・ウィリアムズ、アニシア・ユゼイマン監督Q&A

◯21_21 DESIGN SIGHT企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」
https://www.2121designsight.jp/program/future_elements/

◯稲見自在化身体プロジェクト
https://www.jst.go.jp/erato/inami/

◯早川天麻インタビュー
https://encount.press/archives/659685/

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