結婚19年、3人の子持ち…夫婦円満の女優・黒沢あすか&特殊メイク監督が作る異色映画、現場では「冷静な関係」

俳優の黒沢あすか(52)が夫で特殊メイクアップアーティストの梅沢壮一(56)が監督した異色のサスペンス映画『歩女(あゆめ)』(8月3日、新宿K's cinema公開)に主演した。梅沢&黒沢夫婦が共に映画製作するのは本作で6回目。夫婦で映画製作することとは?

インタビューに応じた黒沢あすか(左)と梅沢壮一【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた黒沢あすか(左)と梅沢壮一【写真:ENCOUNT編集部】

異色のサスペンス映画『歩女』は6日間で撮りきる

 俳優の黒沢あすか(52)が夫で特殊メイクアップアーティストの梅沢壮一(56)が監督した異色のサスペンス映画『歩女(あゆめ)』(8月3日、新宿K’s cinema公開)に主演した。梅沢&黒沢夫婦が共に映画製作するのは本作で6回目。夫婦で映画製作することとは?(取材・文=平辻哲也)

 監督と女優の夫婦は、かつて新藤兼人監督&乙羽信子、大島渚監督&小山明子、篠田正浩監督&岩下志麻、伊丹十三監督&宮本信子らがいたが、今では深川栄洋監督&宮澤美保くらいと数少ない。梅沢&黒沢は『血を吸う粘土』(2017年)、黒沢主演の短編『積むさおり』(19年)といったジャンル映画で監督&俳優の立場でタッグを組んでいる。

『歩女』は交通事故で記憶の一部がおぼろげになったユリ(黒沢)が主人公。不動産屋で働きながら静かに暮らしていたが、ある日、ナゾめいた男が部屋探しにやって来て、ユリは「靴」に対してなぜか異様な感覚を持ち始め、やがて、忘れていた過去がよみがえる……。不気味にうごめく「靴の生きもの」をモチーフにした異色サスペンスだ。

 梅沢監督は最近ではNetflixドラマ『ゾン100 ゾンビになるまでにしたい100のこと』で特殊メイクディレクターを担当。多忙の中で、20代前半の頃にデザインした靴のクリーチャーを使って物語を紡ぎたいと思い立ち、脚本・監督・特殊メイクを手掛けた。22年12月に入念な打ち合わせをしてから、6日間で撮りきった。

 ラストは意外な展開を迎え、ガンアクションもあり、血が似合う女優・黒沢の面目躍如だ。

 黒沢は「楽しかったです。演じていながら、常にもう一人の自分がいて、『あなたにピッタリだよ』と言っている声が聞こえるような気がします(笑)。例えば台所の包丁とかそういったものを使って応戦するのは常々、子役の時からやっていましたが、バトルは久々だし、やっぱり血が騒ぎます」と笑う。

 一方の梅沢監督は「以前はエキセントリックな女性が多い中、最近はお母さん役が増えてきましたが、感情を押し殺して淡々とする役は見たことがなかったので、やってほしかった。最後は、違う感情を見せますが、これまで意外に銃を持った役はないので、違う黒沢あすかを見せてみたかった」と語る。

 夫婦での映画製作はどんな感じで進むのか。

「梅沢は仕事場に台本書きにいってくると言って、何稿目かで『ちょっと読んでみて』と言ってきます。感想を言って、ディスカッションして、『いついつ撮りたいんだけど……』となります」(黒沢)。

 一方、本業が特殊メイクアップアーティストの梅沢は、自身が映画監督と名乗ることには少し抵抗があるのだという。

「若い時から、監督したい気持ちはありました。10年前に、海外のオムニバス・ホラー(『ABC・オブ・デス2』15年)で作品応募があって、これを逃したら死ぬまで撮れないと思ったのが最初でした。その流れで監督を始めたのですが、自分ではまだ監督とは言えないと思っています」(梅沢)

現場での2人は「冷静な関係性」

 ともにバツイチ同士の黒沢と梅沢は2004年のホラー映画『き・れ・い?』の現場で出会い、意気投合。05年に結婚した。2人は互いをどう思っているのか。

「梅沢は常に一定な心を持っている人で、私の心の細かいところまでキャッチしてくれる人です。家庭でも現場でも、変わらない人で、いつもそっとサポートしてくれるので、ストレスを感じない。一番やりやすい監督といっても過言ではないです。ただ、監督している時は『いや、ここはそうじゃなく』とか熱を込める瞬間があって、これはいつもとは違うものづくりしている時の顔だなと感じたりします」(黒沢)

「家庭ではとにかく明るいです。揉め事があっても引っ張らないので、常に先の話ができる。会話が多い夫婦ですが、現場では冷静な関係性だと思います」(梅沢監督)

 現場では、梅沢監督は「黒沢さん」と呼び、黒沢は照れもあるのか、「ちょっと、すみません」と言って呼び止めるのだという。

 黒沢は梅沢に監督としても飛躍してほしいという思いがあるそうで、「梅沢は『僕にとって、私(黒沢)が一番だから、私ありきで考えている』と言ってくれるのですが、私は『他の若い人で撮ったら』と言っています。梅沢には悔いのない人生を歩んでもらいたい」。

 一方、『積むさおり』では海外映画賞の作品賞を受賞し、監督としても実績がある梅沢だが、「撮り終わった後は反省ばかりです。今は次の脚本を書いていますが、これを撮ったら、堂々と監督と名乗ろうと思っています」と謙虚さを見せながら、さらなる意欲を見せる。

 家庭に戻れば、3人の息子の親でもある。長男は25歳、次男は18歳、三男は16歳。長男は論文を書きながら、アメリカで勉強するための準備をし、次男は今年4月から大学で映画を学び始めている。夫妻は子どもたちの成長を楽しみに見守っている。

□黒沢あすか(くろさわ・あすか)1971年12月22日、神奈川県出身。90年に『ほしをつぐもの』で映画デビュー。2003年公開の『六月の蛇』で第23回ポルト国際映画祭最優秀主演女優賞、第13回東京スポーツ映画大賞主演女優賞を受賞。11年に『冷たい熱帯魚』で第33回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。19年に『積むさおり』でサンディエゴ「HORRIBLE IMAGININGS FILM FESTIVAL 2019」短編部門 最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作に、『嫌われ松子の一生』(06)、『ヒミズ』(12)、『渇き。』(14)、『沈黙-サイレンス-』(17)、『昼顔』(17)、『楽園』(19)、『リスタート』(21)、『親密な他人』(22)、『658km、陽子の旅』(23)などがある。

□梅沢壮一(うめざわ・そういち)1968年2月19日生まれ。神奈川県出身。高校時代から独学で特殊メイクの研究を始める。その後、米国特殊メイクアップアーティストの大御所らとコンタクトを取り、アドバイスを受け、23歳からフリーランスとして仕事を開始。97年工房「C.U.L」(現・株式会社ソイチウム)を設立。主に映画、テレビ、CM等で活動中。テレビ東京『TVチャンピオン特殊メイク王選手権(07)』現チャンピオン。

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