朝倉未来と平本蓮になぜ人は熱狂するのか キーワードは“コロナ禍”、青木真也の考え「偶像の区切り」

格闘技イベント「超RIZIN.3」(28日・さいたまスーパーアリーナ)では格闘家の朝倉未来(32=JAPAN TOP TEAM)と“因縁”の平本蓮(26=剛毅會)とメインカードでついに対峙(たいじ)する。異例とも言えるほど注目度の高いこの一戦について日本MMA界の第一人者である青木真也に聞いた。

注目度の高い朝倉未来―平本蓮【写真:山口比佐夫】
注目度の高い朝倉未来―平本蓮【写真:山口比佐夫】

格闘技界への憂いも「あまり身にならない」

 格闘技イベント「超RIZIN.3」(28日・さいたまスーパーアリーナ)では格闘家の朝倉未来(32=JAPAN TOP TEAM)と“因縁”の平本蓮(26=剛毅會)とメインカードでついに対峙(たいじ)する。異例とも言えるほど注目度の高いこの一戦について日本MMA界の第一人者である青木真也に聞いた。(取材・文=島田将斗)

「ある種のひと段落じゃないの。でも正直に言うと僕自身はあまり乗れてないんだよねぇ。それがすごく大きなポイントな気がするな。アテンション、ひとつの偶像の区切りですよ」

 約20年、日本MMAの最前線で戦ってきた男はどこにも忖度しない。「乗れない」理由についてこう明かした。

「やっぱり競技力がトップじゃないから。これは紛れもない事実だと思います。そこは正直きつい気がするけどな。平本―YA-MANみたいなものも盛り上がれなかったですよね。なんかその感じ。別にどちらが勝っても負けても実は何かを大きく変えるわけではないんですよね。タイトル戦線に絡んでいるものではないし、RIZINのタイトルとは? というものもありますからね」

「偶像の区切り」とはどんな意味なのか。朝倉―平本の盛り上がりを「新型コロナとSNSが作り出した現象」と分析する。

「ここでコロナ禍とは何だったのか、という理解が大事だと思っていて、みんな気が付いていないと思うんだけどあの時、格闘技しかやってなかっただろう。ディズニーランド、ライブのコンサート、全てのエンタメが止まってたんですよ。飲食店もね。実はエンタメ業界はブルーオーシャンだった。競合がいなかったから。

 格闘技は放映もやれていましたよね。そしてその次に来るのがYouTubeだったり、SNSっていうものすらも他のライバルがいなかったんですよ。ユーザーの時間の取り合いがなかった。その2つの視点で格闘技がひとつの盛り上がりを見せたと思うんですよね」

「数字取りやすかったですよね」と見透かし苦笑い。朝倉、平本は新型コロナ禍で確固たる地位を築いていった。

「コロナが明けて客が戻ってこないって言ってる人はどの業種も多いんだけど、全ての業種が解禁されたから厳しくなっただけです。だからこの戦いはコロナが作ったもののぶつけ合いですよね。競技というよりもひとつの現象の総決算かなという印象ですね」

 さらにこの一戦への印象を「これはみんな嫌がると思う」と前置きしながらも「対談」だと表現した。

「現代的で即興的ですね。文脈がない。その怖さはやっぱりあるな。僕が一番恐れていたところの客を相手にするっていうのを堂々とやっている印象ですね。それでいて2人の客は強い。数が多い。要はPPV(ペイ・パー・ビュー)っていうのは自分の客のシェア。客のシェアが行われるだけかなって印象ですね」

青木真也なりの分析を明かした【写真:山口比佐夫】
青木真也なりの分析を明かした【写真:山口比佐夫】

平本蓮は「すごく良い創り手になる可能性は“あった”」

 いくつもの会社を経営し、格闘技エンターテインメント「BreakingDown」を世にはやらせた朝倉。青木は「何がいいか分からない」と斬りながらもマーケターとしての一面を評価した。

「極めて現象的、そのひとつのシステムに乗ってきた人という印象ですね。一番マスゾーン、ボリュームゾーンに対してのマーケティングに長けている人だな。そこの風を読むのが本当に上手ですね。でもマーケターと創り手は違う。朝倉さんは世に普及するものを創る人。『こういう創り方したらこうなるよね』っていう(学びの)部分はある」と評価しつつも「ただ、その壁は俺に越えられないです」と自身とは方向性が違うとも強調した。

 一方のSNSを駆使した平本については「すごく良い創り手になる可能性は“あった”」という。

「負け方と良い感情が出るところから、すごく良い創り手になる可能性はあったんだけどね。良いものを創るなって思ったけど、逆に『平本蓮』も注目っていうものにはあらがえなかった。(良い創り手になる)可能性がPPVみたいなものに崩されてしまって、どこかで『そっち行ったんだ』って。俺はデス・ゾーン(※注)って言っているんだけど、SNSの極みというか、悪いもので地獄の部分かなと思いますね。俺はそのやり方は好きじゃないですね」

 2人は約4年間、舌戦を繰り広げてきた。平本は朝倉に噛みつき続け、当初は全く実現しそうになかった2人の対決が今回行われることになる。この一戦であまり語られることがないのが2人の戦績差だ。「格闘技は何があるか分からない」からこそ面白いのは当然だが、2人のキャリアの差(朝倉は22戦17勝4敗、平本は6戦3勝3敗)にはフォーカスされていない。

「だからそこを見ない客でしょ。それで言うと芦澤―皇治ですよ。俺は一応、その船に乗っているように見せてはいるけれどもキックボクサーによるキックボクサーのMMAごっこって言っちゃってるじゃん。だからみんなそれでいいんでしょっていう気持ちはあります。でもそれも含めて客もマスコミも見えなくなっていますよね」

青木の予想は朝倉の圧倒的有利

 気になる試合展開、青木の予想は朝倉の圧倒的有利だ。

「(朝倉が)クリンチしてテイクダウンをしてサブミッション取るかパウンドアウトするかじゃない? 極めたりとかパウンドアウトする画が一番いいと思うけど、抑え込んで終わるんじゃない?」

 平本が勝利する展開については「打撃をぶち当てるしかない。朝倉未来がYA-MANさんに負けてる、連敗してるってことで展開が見えづらくなってるけど、それでも圧倒的に朝倉。勝つとしたら打撃戦を長く続けて、うまいこと打撃のポイントを稼ぐぐらい」とうなずいた。

 平本は立ち技K-1出身だが、いまのところMMAでのKOはない。その理由について「テイクダウンが入ったときの打撃は立ち技と別もの」と説明した。

「皇治も言ってるけどテイクダウンが入ったら距離も変わるし、コンビネーションがなくなる。一番大きいのは怖くて前に出られないことです。相手の組み技のプレッシャーもかかりやすいんですよ。警戒してパンチが打てなくなるんです。皇治にしてもK-1から来た選手がその打撃を生かすには徹底して組み技をやらないと、レスリングがないと生かせないですよね。組まれることを恐れずに自らプレッシャーをかけることになったら倒せるけど、警戒している以上は倒せないですね」

 朝倉、平本、RIZINは、新型コロナ禍の苦しい期間に格闘技に新たな層を呼び込み、裾野を広げた。盛り上がりを見せた一方で影響力が良くない方向に向くこともある。「望まない客“も”連れてきましたね。あまり身にならないと思います」とこの一戦のその後を憂いていた。

※注、『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(河野啓/集英社)

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