『熱中時代』北野広大を演じた水谷豊 人生の師は亡くなった名バイプレーヤー
日本テレビドラマ『熱中時代2・先生編』(80~81年、全38話)が、8月3日午後6時からBS松竹東急(BS260ch・全国無料)で放送される俳優・水谷豊(72)。ドラマでは熱血教師・北野広大を演じているが、水谷自身が師と仰ぐ存在は?
岸田森さんと「会ってなかったら、こういう役者にはなっていなかったな」
日本テレビドラマ『熱中時代2・先生編』(80~81年、全38話)が、8月3日午後6時からBS松竹東急(BS260ch・全国無料)で放送される俳優・水谷豊(72)。ドラマでは熱血教師・北野広大を演じているが、水谷自身が師と仰ぐ存在は?(取材・文=平辻哲也)
『熱中時代』シリーズは、それまでの水谷にあった不良イメージを一変させた初期の代表作。新人時代は『太陽にほえろ!』(1972年)では犯人役。探偵ドラマ『傷だらけの天使』(74~75年)では主演・萩原健一の“相棒役”に。76年の長谷川和彦監督の『青春の殺人者』では、行きがかりから両親を殺してしまった青年役を演じ、キネマ旬報主演男優賞を最年少で受賞した。
「どんな役もそうですが、自分にないものは演じられないものです。『熱中時代』は僕の中にあった明るさ、コメディーの部分を引き出してもらった作品でした。『熱中時代』をやった時は、逆に『もう不良はやってくれないんですか』とか『もっと不良を続けてください』と不良サイドにはガッカリされたんですよ」と笑う。
北野広大は、高校の恩師をモデルに人物を作っていったが、水谷自身の師は、俳優で演出家としても活躍した岸田森さん(1939~1982年)という。
岸田さんは文学座を経て、テレビ界に進出し、名バイプレーヤーとして活躍。作家・岸田國士さんはその叔父、その次女・岸田今日子さんとは従兄弟にあたる。
『傷だらけの天使』で初共演。岸田さんはクセの強い情報屋を演じていた。ほかにも、演出した水谷出演のスナック菓子のCMのセリフ「アラン・ドロンかな?」は流行語にもなった。
「岸田森さんに会ってなかったら、こういう役者にはなっていなかったなと思います。森さんは『何をやっても、“豊”でいて欲しい』と言ってくれたんです。それって、何気なく言ってくれたことだと思うんですけど、僕にとっては、それはすごいことなんですよ」
13歳年上の岸田さんは、役者として進路に悩んでいた水谷の全てを認め、全てを肯定してくれた。
「そもそも、みんなが思っているイメージがあるから、そのイメージに近づけようとか、変えようと思っても、変わるようなものではないんですよね。役者というのは、自分の中にあるものしか出ない。だから、自分は変わらない。必要に応じて、自分の中から出していけばいいんだ、と。そんなことを思わせてくれた方だったんです」
岸田さんとは共演がない時でも年に何度か、2人だけで食事をするなど交友を続けていた。1982年12月に食道がんのため、43歳で亡くなった時は大きなショックを受けた。
「僕は2年間くらい、仕事を全然する気が起きなくて、半分休んでいたような時期があったんです。それは森さんが亡くなったことが大きくて、その反動が来ていたんでしょう。森さんとは、楽しい話をしたり、いろんなことを聞いてもらったりして、過ごしてきたんですけど、後になって、いかにその存在が大きかったことを気づくんです」
その岸田さんは『熱中時代2』第3話でゲスト出演もしている。
小学校時代の水谷はどんな少年だった?
「2」では北野先生は小2のクラスを受け持つが、小学校の頃の水谷はどんな少年だったのか。
「小2と言えば、北海道から東京・立川に引っ越してきた頃ですね。スポーツは大好きで、図画工作が得意でした。後はたいして得意なものはないです」
立川も、今の水谷を作った思い入れのある土地だ。もともと親は京都にいて、北海道に引っ越し、さらに立川に来た。
「アメリカからドラマが日本に一気に押し寄せてきた時期で、立川には米軍基地も近くにあったので、向こうの友達もできたりしました。それで、アメリカ文化が身近でした。その世界を見てみたいと思ったのが俳優になったきっかけでした」
俳優をやっていなかったら、何をやっていたのか。
「分かりません。京都にいたら、京都弁をしゃべっていたかもしれない。僕は、ずっと俳優じゃない世界が向いていると思っていました」。水谷は監督業に進出し、3本の映画を監督している。今後も、岸田森さんの言葉通り、水谷豊らしく、活動していくのだろう。水谷の“熱中時代”は今も終わらない。
■水谷豊(みずたに・ゆたか)1952年7月14日、北海道出身。代表作はドラマ『傷だらけの天使』(NTV/74)、『熱中時代』(NTV/78)、『相棒』(EX/00)など。映画では『青春の殺人者』(76/キネマ旬報主演男優賞受賞)、『幸福』(81)、『少年H』(13)、『王妃の館』(15)などがある。『TAP‐THE LAST SHOW‐』(17)で初監督に挑み主演を務め、『轢き逃げ 最高の最悪な日』(19)、『太陽とボレロ』(22)では監督、脚本、出演も務めた。