「同じ人だと気づかなかった、とよく言われる」 慶大卒・結城モエ、文学好きで掴んだ乱歩作の“ハマり役”
『乱歩の幻影』(今月26日公開、秋山純監督)で映画初主演の俳優・結城モエ(30)が、同作で江戸川乱歩の作品世界にのめり込んでいく乱歩ファンの女性・弓子を演じている。慶応大学法学部卒で文学好き、趣味は「戦争や音楽の歴史」。大学卒業後に俳優デビューした結城が、“ハマり役”でチャンスをつかんでいる。
『乱歩の幻影』で映画初主演
『乱歩の幻影』(今月26日公開、秋山純監督)で映画初主演の俳優・結城モエ(30)が、同作で江戸川乱歩の作品世界にのめり込んでいく乱歩ファンの女性・弓子を演じている。慶応大学法学部卒で文学好き、趣味は「戦争や音楽の歴史」。大学卒業後に俳優デビューした結城が、“ハマり役”でチャンスをつかんでいる。(取材・文=大宮高史)
結城は2017年、日本テレビ系連続ドラマ『脳にスマホが埋められた!』で俳優デビューを飾った。以降、ドラマ出演を重ね、今年7月期で放送中の日本テレビ系『クラスメイトの女子、全員好きでした』、テレビ朝日系『伝説の頭 翔』にも出演しているが、本人は「ありがたいことに色の濃い役が多いんです」と言い、笑みを浮かべた。
「デビュー2作目の『探偵は早すぎる』(日本テレビ系)は悪役、その次にいただいた『ギルティ~この恋は罪ですか~』(同)は友達を裏切る役で、それからも不倫をしたり、スパイのような役をさせていただいたりです。クールで謎めいたパブリックイメージを皆さんは抱いているかもしれませんね。でも、素の私はナイーブなところもあって、ギャップを感じながらお芝居をしていました。そんな私の内面を見抜いて、弓子の役をオファーくださった秋山監督には大変感謝しています」
『乱歩の幻影』の弓子も読書好き。大きな共通点だ。だが、結城はそれ以上に弓子の性格にシンパシーを感じていた。
「人の言うことは何でも真に受けてしまい、小さなことでも聞き逃したくない性格です。弓子は乱歩が生前、本当に殺人を犯したのではないかというウワサをきっかけに妄想を膨らませて、現実と乱歩の作品世界の区別がつかなくなっていきます。読んだ本に没入しやすいところは私と似ていますし、今までで一番感情移入できたお芝居でした」
作中、江戸川乱歩の小説『蟲』がストーリーの鍵を握る。『蟲』は男が人気女優に一方的に恋慕をつのらせ、彼女を殺害したあげく、腐乱していく死体ともに精神を病んでいく猟奇的な物語。だが、結城は「人間誰しもそんな狂気を持っているかもしれません」と言った。
「現代は情報が多すぎて、一つのことに無我夢中になりづらい時代だと思います。でも、世の中が変わったり、何かのきっかけで隠していた本性が露わになるかもしれないのが人の性だと思っています。『蟲』のように愛情が暴走するのも、弓子が妄想を膨らませていくのも他人事でないと感じています。私自身も好きな物語に没入しがちなので、『人の隠れた狂気』を皆さんに感じ取ってほしいと思って演じました」
弓子が想像する生前の江戸川乱歩(高橋克典)や浅草の踊り子の芙蓉(常磐貴子)の物語と、現代の人間模様が交錯。乱歩の作品に通底するレトロで退廃的な情景が展開されていく。
「撮影期間は一瞬で過ぎ去ったように感じました。没頭し過ぎてクライマックスの演技では声が枯れるほどで、クランクアップの時は『もう終わりなの?』と喪失感がありました。秋山監督も原作の島田荘司先生も乱歩の世界がお好きで、同じ感性を持った人々が集まった現場だったので、私たち運命的に引き寄せられたのかなと思えるほどでした」
ベテラン俳優との共演も刺激になった。
「高橋克典さんの乱歩と同じ画面にいる時は、実在したに本人と対峙している気分になれましたし、常盤貴子さんの芙蓉は弓子にとっては乱歩を取り合う恋敵です。嫉妬したくなるほどに美しい。そんな魅惑的な雰囲気を常盤さんが見せてくださいました。そして、浅草オペラ風の音楽のおかげで、映像の迫力も増しています。ぜひ、映画館で臨場感を味わってほしいです」
愛読してきた数多の本を通じて古今東西の思想や歴史を知ってきた分、人の感情を知り、描くことには並々ならぬ情熱がある。
「もし、スマホもテレビもなくなって余計な情報からシャットダウンされたら、人間同士はより生々しく感情をぶつけあっていくと思います。だから、人のさまざまな感情を生で伝えていくお芝居って、人間の本質に迫ることができると信じています」
ホームドラマ出演希望「変わっていく家族関係を繊細に」
これから出演したいジャンルを聞くと、結城は「時代劇と家族の絆を描くホームドラマ」を挙げた。
「私はとても仲の良い家庭で育ったので、お互いの気持ちが身近に感じられる環境でした。そして、私も年齢を重ね、母のことを少女時代と違う目線で思いやるようになりました。人生が進むにつれ、変わっていく家族間の関係をお芝居で繊細に訴えていければと思います」
ゴージャスな美女だけでなく、倒錯的な世界のヒロインを演じても様になる。結城はそのことを初主演映画で示した。
「私、作品によって印象がガラリと変わるようで『同じ人だと気づかなかった』とよく言われます。今までドラマで見ていただいた方なら、絶対に新鮮な印象を持ってもらえる映画です。乱歩ファンはもちろん、結城モエを知っている方にも謎と映像美にひたっていただきたいです」
幼い頃からの人が織りなす物語への好奇心。それこそが、結城の原動力になり続ける。
□結城モエ(ゆうき・もえ)1994年5月18日、福岡県生まれ。慶応大法学部に在学中、「ミス慶応2014」ファイナリストに。卒業後の2017年に日本テレビ系連続ドラマ『脳にスマホが埋められた!』で俳優デビュー。その後もドラマに多数出演し、21年のテレビ朝日系『ドクターX~外科医・大門未知子~ 第7シリーズ』、今年の日本テレビ系『新空港占拠』などに出演。 趣味はワイン、ピアノ、戦争や音楽の歴史の勉強。165センチ。