大沢たかお「求められるハードルは上がってきた」 『キングダム 大将軍の帰還』で見せた王騎の集大成
近年の邦画界有数のヒット作になっている映画『キングダム』シリーズ。その中で異彩を放ってきたのが、秦の大将軍・王騎を演じる大沢たかお。今月12日に公開となった最新作『キングダム 大将軍の帰還』で王騎は、最後の戦いに赴く。そして、このタイミングで大沢自身がENCOUNTのインタビューに対応。第1作から人気キャラクターの実写化に挑んできた“責任感”を語った。
第1作から実写化に挑んできた“責任感”
近年の邦画界有数のヒット作になっている映画『キングダム』シリーズ。その中で異彩を放ってきたのが、秦の大将軍・王騎を演じる大沢たかお。今月12日に公開となった最新作『キングダム 大将軍の帰還』で王騎は、最後の戦いに赴く。そして、このタイミングで大沢自身がENCOUNTのインタビューに対応。第1作から人気キャラクターの実写化に挑んできた“責任感”を語った。(取材・文=大宮高史)
紀元前・春秋戦国時代が舞台の『キングダム』。戦災孤児の少年・信(山崎賢人)と後の始皇帝たる秦国の王・エイ政(吉沢亮)を軸に、史実とフィクションを交えて中華統一を目指す人々のドラマを描く。原泰久氏の原作マンガは連載開始から16年目になり、累計発行部数は1億部を超えた。そして、大沢は2019年公開の映画第1作『キングダム』から、秦の大将軍・王騎役で出演してきた。
「『キングダム』の映画はこれまで4作が生まれましたが、今回も『あえて過去作と違うところを見せよう』という考えはありません。ストーリーが進んでいく中で、王騎も人生を重ねていくし、彼の過去も明かされます。彼の人生をお客さんによりリアルに感じてもらえるよう、僕らは前作よりも良いものを目指してきただけです」
今作は、昨年公開の前作『運命の炎』に続いて、秦と趙の大軍が雌雄を決する『馬陽の戦い』を描いている。王騎は大将軍として秦軍を率いて出陣、王騎の配下になった信が率いる飛信隊も活躍する。
「第2作までは、王騎は『キングダム』のストーリーの中心からやや離れたところにいました。しかし、馬陽の戦いは彼にとって宿命の戦いであり、半ば主人公のように戦場を駆けて戦いますから、山崎くんの信が理想とする“天下の大将軍”に恥じない姿を見せなければなりませんでした」
王騎の過去も明かされていき、今作で初登場の秦の謎めいた武将・摎(きょう/新木優子)とのエピソードが描かれる。大沢は「摎の存在は王騎を作り上げた大切な要素で、1作目が始まった時点で、摎と王騎の原作でのエピソードをイメージしてきました」と振り返るが、いざその摎とのシーンに臨んだ際については「『絶対に失敗できない』という怖さがありました」と明かした。
「王騎にとって極めて大切な場面なんですが、長い原作の中でもほんの2、3シーンしかない短いエピソードです。摎との関係と、それが後の彼の人生にどれだけ大きな影響を与えたかを映画でもわずかな尺で見せなければいけない。5年前からイメージして準備してきた分、『全てを出し切らねば』と思いつめていたようです。その分、よく覚えている場面です」
細部までこだわる役作りは、第1作から一貫している。原作のビジュアルに近づけるべく増量と肉体改造を行い、「王騎そっくり」と話題になった。王騎独特の口調や笑い方までていねいに作っていったが、そうした評価を受けても本人は全く浮かれていない。
「僕が王騎をやることになったから、お客さんは僕の王騎を正解として見ざるを得ない訳です。毎回、改善できるところを追求していくだけです。5年前は、僕が体を大きくしただけで原作のファンにも喜んでもらえたかもしれません。でも、映画が続いて、今やビジュアルを似せるのは当たり前で、どんどん求められるハードルは上がっていきます」
ロケ最終日によぎった寂しさ「もう、王騎になれない」
劇中の立ち姿がネットミームになるほどの反響があったが、キャラクターの精神面も考察して、共演者や観客へのメッセージとしている。
「しゃべり方や表情なんてのは彼のほんの一部でしかなくて、役作りのベースにあるのはは『王騎のどんなハートが人の心を動かすのか』の研究です。『大将軍の帰還』であれば、絶体絶命でも退かない将としてのプライド。これこそが信が心酔する天下の大将軍の魅力であり、それを劇中の信やお客さんの目に焼き付けようとしました」
アクションのハードルも上がる。『大将軍の帰還』のハイライトの一つは、吉川晃司が扮する趙の将軍・ホウ煖(ほうけん)と王騎の一騎打ちだ。古代中国の矛を振るっての、人間離れした立ち回りに臨んだ。
「本来、矛は間合いが長いから、ただ振っているだけでは相手にも届かないし、迫力がないんです。それをアクションチームの方々との密な連携で、迫力ある映像に仕上げていきました。吉川さんとは魂のぶつかり合いというか、『本当にこいつを倒すんだ』という総大将同士の思いがぶつかった戦いになっていき、物理的なものだけではない迫力が生まれたと思います。僕も吉川さんも、賢人も体がボロボロになっていくし、皆が自分自身を追い込んでいく現場でした」
ストイックな撮影が終わった時、王騎と別れなければならない寂しさが胸をよぎったという。
「ロケの最後の日にいつも着ていた鎧を脱いだ時『もう、2度と着ることはないんだ』と急に切なくなってきました。スタッフの皆と記念写真を撮りながら、『もう、王騎になれない』という実感がしみじみと迫ってきましたね」
4作、足かけ7年にわたって多くの観客の脳裏に王騎の生涯を刻み込んだ。
「いまだに原先生が描いてくれた王騎には及びません。それでも、少しでも近づきたいというのが、俳優としての本能なんです。だから、体の鍛え方に欲が出てくることはもちろん、『どうしたら、観客はもっと震えてくれるか』を考え続けてきました。もっと手に汗握る。感情をかき乱すサプライズを起こせる芝居を僕だけでなく、チームで考えてきた現場でした」
誰にも真似できない大将軍・王騎を生みだした秘訣は、理想に向かって貪欲でいるという、俳優としてのシンプルな真摯さだった。
□大沢たかお(おおさわ・たかお)1968年3月11日、東京都生まれ。モデルとして芸能界デビュー後、94年にフジテレビ系連続ドラマ『君といた夏』で俳優デビュー。以降、ドラマ、映画で話題作への出演を重ねる。2019年から映画『キングダム』シリーズに王騎役で出演。映画&配信ドラマ『沈黙の艦隊』(23-24年、続編の制作決定)では、主演とプロデューサーを務めた。181センチ、血液型A。
(※山崎賢人の「崎」はたつさき)