松本人志側の弁護士反論文の問題点 元テレ朝法務部長が指摘「衝撃的」「一線を越えてはいないか」

週刊文春に女性への性行為強要疑惑などを報じられたダウンタウンの松本人志氏が、同誌を発行する文藝春秋らを訴えた損害賠償訴訟に関連し、週刊文春が最新号で「A子さん出廷妨害工作を告発」と題して松本側に関する疑惑を伝えた。松本の弁護士は即座に反論文を公開。しかし、その内容について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「衝撃的」「一線を越えてはいないか」などと表現し、同文の問題点を指摘した。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

西脇亨輔弁護士が検証「探偵を使って一体、何をしようとしたのか」

 週刊文春に女性への性行為強要疑惑などを報じられたダウンタウンの松本人志氏が、同誌を発行する文藝春秋らを訴えた損害賠償訴訟に関連し、週刊文春が最新号で「A子さん出廷妨害工作を告発」と題して松本側に関する疑惑を伝えた。松本の弁護士は即座に反論文を公開。しかし、その内容について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「衝撃的」「一線を越えてはいないか」などと表現し、同文の問題点を指摘した。

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 これは本当に松本人志氏の弁護士が書いた文章なのか。真剣にそう疑ってしまうほど、衝撃的な内容だった。

 今月11日発売の週刊文春が「<松本人志5.5億円裁判>A子さん出廷妨害工作を告発する」との見出しで、「A子さんが松本氏側が依頼した探偵に尾行されている」「A子さんの知人男性X氏に元女性誌編集長から『A子氏が出廷せずに和解すれば、5000万円でも1億円でも渡せる』と打診があった」などと報じた。

 これに対して松本氏側の弁護士は即座に、自身が代表弁護士の法律事務所公式サイトで「『週刊文春電子版』掲載記事について」と題する3ページにわたる文章をホームページで公開し、反論した。

 しかし、問題はその反論の中身だ。松本氏側弁護士は「金銭の支払いを持ち出して和解を持ちかけた」という点については完全否定している。だが、A子氏の知人男性X氏と面会したこと、そして、A子氏を探偵に調べさせたことは認めたのだ。

 それは、裁判のための活動として許されるのか。

 松本氏側弁護士は探偵の尾行について、松本氏側弁護士のもとに届いた匿名の投書に、A子氏に関して「私の大切な男性と彼女は親密な関係にあり、近く密会するという情報があります」と書かれ、A子氏のものと思われる住所も記載されていたため、「相応に信憑性が高いと判断し、資格を有する調査会社に依頼して調査を実施したものです」などと説明している。また、この投書について「週刊文春側が関与した疑念が払しょくできない」とも記載している。

 しかし、この松本氏側弁護士の説明には、肝心な点が抜けている。

 それは「松本氏側が、探偵を使ってA子氏の密会情報を調べた目的は何なのか」だ。

 A子氏は週刊文春の記事で松本人志氏らからの性被害について証言している。そして、松本氏と週刊文春側との裁判では、このA子氏の証言が正しいかどうかが争点になる。

 そのA子氏の証言の信用性と、A子氏が私生活で誰かと不倫しているかどうかとは、何の関係もない。「A子氏は不倫するような人だから、週刊誌での証言も信用できない」などという理屈は成立しないし、裁判所もそんな判断はしない。

 だから、松本氏側が探偵を使ってA子氏の現在の私生活を暴こうとした行為は、そもそもこの裁判の立証活動として何の意味もないはずだ(なおA子氏は不倫の事実を完全否定している)。

 では、松本氏側は何のためにこんなことをしたのか。

 探偵の料金は安くはない。私も裁判の証拠収集で依頼したことはあるが、尾行が失敗しないように複数の探偵がチームになって行動するのが一般的なので、その分だけ料金も高く、一日で数十万円以上になることも多い。それだけのお金を探偵につぎ込んで、松本氏側は一体、何をしようとしたのか。

探偵行為を疑問視「適切な訴訟活動なのか」

 疑問の答として浮かび上がってくるのは、松本氏側弁護士とA子氏の知人男性X氏との面会の中身だ。

 松本氏側弁護士はX氏が自分の先輩弁護士だったため面会に行き、A子氏について「その女性と連絡をとって頂けませんか」と依頼したと説明している。そして、X氏に断られると、松本氏側弁護士はX氏にこう伝えたという。

「先生とその女性が不倫関係にあり、そのことを記事にしたいなどと言っているマスコミがいますけど、大丈夫ですか? 念のため、お耳に入れておきます」

 これは松本氏側の弁護士自身が認めている発言内容だ。

 週刊文春は松本氏側弁護士が「私はその記事をとめられますけど、どうしましょうか」とまで述べたと報じているが、これは松本氏側がは否定している。それが事実であり。松本氏側弁護士が主張する発言しかなかったとしても、その言動は「適切」と言えるのだろうか。

 脅迫罪は相手に害悪を告げることで成立するが、そのやり方は直接に「ダメージを与えてやる」と告げなくても、害悪を「ほのめかす」だけでも成立し得る。過去の裁判では「火をつけてやる」と言わずに「火の元に御用心」と告げた場合でも脅迫罪となっている。そして、相手を脅して義務のないことをさせようとした場合は、強要未遂罪が成立し得る。

 では、X氏に「A子氏への連絡の依頼」をした後に、敢えて「不倫関係」という言葉を出して「記事にしたいと言っているマスコミがいますけど、大丈夫ですか?」と告げることはどうなのか。これは「A子氏への連絡の依頼」とは全く関係のない「後輩から先輩への個人的な心配の言葉」と言い切れるのか。この松本氏側弁護士の一連の言動は、違法かどうかはともかく、X氏との間で適切な言動と言えるか疑問が残る。

 そして、この経緯を踏まえれば、松本氏側が大金をつぎ込んで探偵にA子氏を追わせた目的は、X氏に対する「A子氏への連絡依頼」、その先の「A子氏との直接交渉」を実現させるための「材料」を集めるためだったのではないかという疑いが湧く。

 しかし、もしそうだとすれば、それは適切な訴訟活動なのか。

 そもそも探偵行為自体、プライバシー侵害になり得る行為だ。ただし、不倫の責任を問う裁判の証拠集めなど正当な目的が認められれば、過去の裁判でも適法とされている。だが、もし民事裁判の証人の弱みを握る目的の探偵行為だとしたら、それは「適法」と言い切れるのか。

 証人を脅して証言させない行為は刑事裁判の場合には「証人威迫罪」になるが、民事裁判の証人にはそのような規定はない。しかし、だからと言って、民事裁判の証人予定者への働きかけが無制約に許されるとは思えない。

 弁護士はその職務規程で「真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする」と決められ、真実を曲げる活動はしてはならないと決められている。もちろん、証人の証言内容が真実とは限らないので、法廷の場で証言の矛盾点を突き、信用性を攻撃するのは立派な弁護活動だ。

 しかし、真実を話すかもしれない証人を法廷から遠ざけ、最初から証言の機会を奪おうとしたのなら「真実を尊重する」という弁護士倫理から外れる恐れおそれがある。そして、弁護士倫理から著しく外れた行動は、弁護士会で処分の対象にもなり得る。

 A子氏と松本氏側弁護士の間に一体何があったのか、正確な事実関係は分からない。しかし、松本氏側弁護士の説明を前提にしても、この裁判が適切に進められようとしているのかと、私は不安を感じる。

 裁判を真実から遠ざける動きがないか。訴訟活動が過熱して一線を越えてはいないか。今回の報道を巡るめぐる事実関係は、今後、明らかにされなくてはならないと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。

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