上半身裸にハイヒール…富士山登山規制に外国人の反応は 「日本人を優先すべき」の声も
富士山の山開きが山梨側で1日、静岡側で10日行われ、今年も本格的な登山シーズンが到来した。近年は危険な弾丸登山(山小屋での宿泊を伴わない夜間登山)やインバウンドによる混雑が問題視されており、今夏からは一部登山道で入山料の徴収や事前予約制が導入されている。山梨側の開山日から1週間、1泊2日で実際に富士山に登ってきた記者が現地の実情をリポートする。
近年では危険な弾丸登山やインバウンドによる混雑が問題に
富士山の山開きが山梨側で1日、静岡側で10日行われ、今年も本格的な登山シーズンが到来した。近年は危険な弾丸登山(山小屋での宿泊を伴わない夜間登山)やインバウンドによる混雑が問題視されており、今夏からは一部登山道で入山料の徴収や事前予約制が導入されている。山梨側の開山日から1週間、1泊2日で実際に富士山に登ってきた記者が現地の実情をリポートする。
東京・新宿駅発の富士急行線から山梨・河口湖駅でバスに乗り換え、今回登山規制を導入した吉田ルートの登山口・富士山五合目に到着したのは7日午前11時。当日、翌日とも予報は快晴で、絶好の登山日和でのスタートとなった。河口湖駅のバス停では係員が現在の登山者数をアナウンス、訪れた多くの外国人に通行規制の可能性があることを伝えていた。臨時の増発便に乗ると、定員50人ほどの大型バスの車内はほとんどが外国人観光客で、日本人の姿はまばらだった。
五合目では事前予約で発行したQRコードを係員に提示、2000円の入山料を支払った証しとなるリストバンドが配布された。ゲートを通過した12時時点での登山者数は1556人で、通行規制の4000人まで残り2444人。事務所内のパソコンにはエクセルで内訳が表示されており、事前予約をした山小屋利用の登山者が428人、日帰り登山者が639人で、予約のない当日券の購入は山小屋利用者が331人、日帰りが156人となっていた。
ゲートには警備員を配置。事前の報道では弾丸登山抑制のため、午後4時から翌午前3時までの時間帯はゲートを封鎖するとのことだったが、「下山者もいるためゲートの封鎖はしません。24時間体制で係員が交代で常駐し、夕方から夜間の入山者にはお声がけをしております。下山時刻に制限はありません。下山は真夜中でも、明け方でも大丈夫です」と話した。もちろん推奨されるものではないのだろうが、ルール上は午後4時前に入山し、山頂で御来光を見たあと、明け方に下山するという行程も可能ということだった。
1日の開山に立ち会ったという関係者は「あの日はかなりの悪天候で、ゲートで注意喚起もしていました。多くの登山者は納得の上で断念していましたが、中にはせっかく開山当日に来たのだからと、止めても登ろうとする人はいた。現状、悪天候によるゲート封鎖は予定していないので、あくまでお願い。自己責任で登ると言われるとどうすることもできません」と漏らしていた。登山道ではTシャツに短パン、スニーカーという軽装登山者の他、上半身裸という外国人登山者の姿も。議論の余地はあるものの、現状登山の一形態として認められている最低限の水だけを携行して山を駆け上がるトレイルランニングスタイルの登山者も多く、軽装登山を巡る規制の難しさを実感した。
七合目の山小屋「鳥居荘」を通過した際には、太陽の周りに虹の輪がかかるハロー現象に遭遇。天気が下り坂になるサインとも言われるが、幸いその後も大きく天候が崩れることはなく、山頂の久須志神社に到着したのは午後5時30分。火口を一周し日本最高地点である剣が峰に至るお鉢巡りは、静岡側が開山前だったためロープが張られていたが、自己責任でロープを越える登山者の姿も見られた。その後、吉田ルートで最も高い八合五勺に位置する山小屋「御来光館」まで戻り夕食。予約をした1か月前の時点ですでに満室で、定員90人の二段ベッドはほとんどが外国人登山者で埋め尽くされていた。消灯時間は午後9時だったが、その後も続々と登山者が訪れ、遅い夕食にありついていた。
翌朝は午前3時に起床し山頂で4時30分過ぎに上がる御来光を見るつもりだったが、午前2時には周りが一斉に起き出す音で目が覚め、結局爆風の山頂で1時間以上も待機することに。山頂は10度ほどで体感で10メートル近い風が吹いており、長袖のシャツに厚手のダウンジャケット、レインウエアを重ね着したが、むき出しの手がかじかみ、手袋の必要性を実感した。午後3時30分には山頂の売店が開店し、凍えた登山者が1杯1000円のカップラーメンや豚汁を求め列をなした。パトロールで登ってきたというスタッフに、事前予約制や入山料導入による変化について聞くと「県の人間なので、取材にはちゃんとした申請を通してもらわないとお答えできないが、一登山者の意見としては夜はとても静か。弾丸登山者もほぼいなくなり、平和な富士山が戻ってきている」と話した。
「登山者の7割が外国人」 観光客の目に映った富士山の姿は
山小屋スタッフによると、「この時期の富士山は登山者の7割が外国人」。大挙して山頂を目指した外国人登山者は、富士山の変化をどう受け止めたのか。御来光を待つ際に話を聞いたアメリカ人男性は、「今まで見た中でおそらく最も美しい山だと思います。本当に素晴らしいです」と一言。外国人の多さについては「観光地なので、それほどショックではありません。(入山料は)少し高いですが、日本は何でも安いのでそれほど気にしていません。ハイキングできる火山は世界中でもそれほど多くありませんし、とても高くて山頂からさまざまな都市を見ることもできる。富士山は最高の体験のひとつなので」と話した。
ヨーロッパから来たというカップルは「子どもたちや、ハイヒールを履いている人もいて驚きました。思っていたよりもずっと短い距離で、大変だとは思いませんでしたが楽しかったです」。入山料や人数規制については「(登山口まで)来てから初めて、4000人までと知りました。私たちは観光客なので、人数規制が正しいかは分かりませんが、外国人ばかりが登って日本の方が登れないのは申し訳ないなと思う。観光客よりも日本の方を優先すべきだと思いました」と話した。
アメリカから訪れたという3人家族は、20年前にも一度富士山に登ったことがあるといい「今回は娘と一緒に来ました。当時よりも海外からの観光客が増えている印象です。(入山料の徴収や人数制限は)とてもいいアイデアだと思う。2000円といっても、ディズニーランドに比べたらずっと安いし、ラーメン一杯と変わらないくらいの金額。今まで無料だったのが信じられないくらい」とうなずいた。
山小屋で会った都内在住のフィンランド人男性は、外国人が富士山に魅せられる理由について「文化的な魅力が大きいと思います。例えばエベレストは世界一高い山として有名ですが、ネパール文化と密接な関わりがあるかというとそこまでではない。富士山は日本の象徴で、絵画など美術的な作品とも関わりが深い。日本文化への興味が、おのずと外国人を富士山に向かわせるのだと思います」と考察。入山料や登山規制については「日本在住の私でも情報にアクセスするのが難しかった。取り組み自体はいいことだと思うので、もう少し海外の方への発信を行えばいいかなと思いました」と話した。
10日からは静岡側が開山を迎え、入山料が義務化されておらず、山小屋のキャパシティーが小さい登山道へ人が流れるなど、懸念されている問題点も顕在化してくる。“日本一の山”が今後どのような道をたどるのか。国内だけでなく、世界中が大きく注目している。