福田沙紀、独立で変化した意識「失敗できる勇気を」 イチからの再出発で生まれた“心の余裕”
俳優の福田沙紀が、8日から短尺ドラマ配信アプリ「BUMP」で配信スタートするショートドラマ『大人に恋はムズカシイ』で監督に初挑戦した。これまで役者として長年活躍してきた彼女が新たな分野に挑むことを決めた背景には、ある心境の変化があった。
業務メールも自ら対応「自分を知ることができた」
俳優の福田沙紀が、8日から短尺ドラマ配信アプリ「BUMP」で配信スタートするショートドラマ『大人に恋はムズカシイ』で監督に初挑戦した。これまで役者として長年活躍してきた彼女が新たな分野に挑むことを決めた背景には、ある心境の変化があった。(取材・文=中村彰洋)
20歳ごろから作品を撮ることへの興味を抱いていた福田からBUMPへの“逆オファー”の形で今回の初監督が決まった。初監督作品にして、1話数分という新しい形態となったが、企画会議から撮影、編集まで全ての過程が「すごく楽しかった」と充実の表情を浮かべた。
福田の代表作といえば、2007年に放送された『ライフ』(フジテレビ系)を挙げる人も多いだろう。強烈な“いじめっ子”キャラのイメージが強いが、実際の福田の素顔は「ビビリで慎重」と対象的。積極的に物事に挑戦していく性格ではなかったが、ある転機が福田の意識を変えた。
「とにかく強烈な役を多くやってきたことで、強気な性格に思われがちなんです。ことあるごとに『おめーの席ねぇから!』と言われたりして、どう対応したらいいか分からないんですよ(笑)。それだけ今でも記憶に残るような作品に携わらせていただいたのはありがたいですね。
でも、だからこそ周りの目をすごく気にするようになってしまった部分もあって、いつの間にか自分の頭の中で会話することが増えちゃったんです。『これやってみたいけど、こう言われちゃうかな』とか……。すごく悩んでいる時に友人から、『それで何か言われたとしても、言ってきた人って沙紀の人生の何になるの?』と言われたんです。『自分の人生なんだから、もっとわがままに楽しんだ方がいいよ』って。そこでハッとさせられましたね」
自分と対峙することで弱点も発見「ここを頑張らなきゃ」
コロナ禍も重なり、先々のスケジュールが白紙の状況になったとき、ふと抱いた感情が新たな環境に身を投じるという決断の後押しをした。
「13歳でデビューさせていただいて、芸歴が長くなっていく中で、もちろん続けることは簡単なことではないのですが、今初心に戻って、イチからスタートしないと、いろいろなことを学ぶハードルが高くなると思ったんです。それであのタイミング(20年8月31日)で事務所を退社して、フリーでやっていこうと決断しました」
独立してからは、まさにイチからのスタートだった。周りの助けを借りながらも、全てを自らの手でこなしていった。メール1通を返すのにも「どうしたら自分の意思がうまく伝わるのか」と一言一句、悩みながら進めていった。
「自分が苦手な部分を知って、何をどんな人に頼みたいのかを判断するためにも、まずは自分でやらなきゃと思いました。これまで、仕事さえしっかりやればいいと思っていたので、自分のことをあまり知らないままに生きてきたなという感覚がありました。退社してから、自分の得意不得意を感じることで、自分と対峙(たいじ)することもできたし、知ることもできました。だからこそ、『ここを頑張らなきゃ』という部分も見えてきたので、決断して良かったなと思っています。
10年前と違って、今はいろんなことにチャレンジができる環境で、選択肢も多いと思います。だからこそ、柔軟に対応して、楽しんでいけた方がいいのかなと思っています。気にしいな自分の性格は簡単には変わらないとは思いますが、そんな自分でこれまでの33年を過ごしてきたので、これからは『なりたい自分になればいいじゃん』という意識で今は過ごしています。最初はやっぱりしんどいです。どうしてもそれまでの自分の考え方があるし、『いきなり外交的になんかなれないよ』と思っていましたが、気持ちの持っていき方を前向きにするように心がけていたら、少しずつ慣れて、徐々にニュートラルになっている感覚があります」
心に余裕が生まれたことで見え方が変化した日常「毎日がすごく楽しい」
前向きに物事を捉えるようになったことで変化が生まれたという。昨年の誕生日に神社でお参りした帰り道に訪れたカフェで起こった小さな出来事が心に残っていると笑う。
「誕生日だったので、ケーキとコーヒーを頼んだら会計が1111円だったんです。『うわぁ~、いい気分だな』と思っていたら、その日から頻繁にゾロ目を見るようになったんです。そのたびに『ゾロ目だ。今日はラッキーな1日だ』と思うようにしていたら、実際にそこからいいことがたくさん起こるようになったんです」
日常の些細な出来事をどのように捉えるか――。福田にとっては「ゾロ目」に出会ったことが生活に変化を生じさせるきっかけとなった。
「ないものねだりではなくて、今あるものに焦点を合わせられるようにもなりました。今までは買い物が好きで部屋が物であふれていたのですが、断捨離を行いました。最初にクローゼットを捨てて、物理的に収納する場所を無くしました。気に入っていたカバンも最初に手放しましたね。そうすると、『これはあのカバンより大事かな?』と基準を高く持てるようになって、簡単に整理できるようになりました。今は、心地よく過ごせるものだけに囲まれた中で生活しているので毎日がすごく楽しいですね」
環境を変えたことが、今回の監督初挑戦にもつながっていった。これまでだったら「監督をやるならこれをやってからじゃないと」と失敗を恐れていたが、心に余裕が生まれたことで、そんなマイナス思考な気持ちも変化していた。
「『失敗あってこそ次がある、失敗できる勇気を持っていかないと』と考えられるようになりました。『このままだと、何も挑戦しないまま時間だけが過ぎていく』って。実際にこれまでに何も挑戦しないまま時間だけが過ぎてしまった期間もあったからこそ、やってみようと決断できました。今回監督をさせてもらって、クリエイティブな環境にいられることが、本当に幸せで楽しかったです。今は役者として出演するよりも、裏方として作品の制作に携わっていきたいという思いが強いです」
30歳を目前にした独立という大きな決断から約4年。33歳にして変化し続ける福田沙紀の新たな魅力に注目したい。