ポスター、政見放送が大荒れ…“宣伝ショー”と化した日本の選挙 専門家が警鐘「立候補段階で一定条件を」

東京都知事選は現職の小池百合子氏が3選を果たして、幕を下ろした。過去最多となる56人が立候補して全国的な注目を集めたが、一方で“ほぼ全裸”の女性が写ったポスターや無関係な内容が張られたり、掲示板の枠が事実上販売されたりする「選挙ポスター騒動」が起き、政見放送では突然シャツを脱ぎ始める女性候補が現れるなど、選挙の威信は失墜した。有権者やメディアの関心を集め、言わば“宣伝ショー”となった日本の選挙。立候補の自由は保障される中で、選挙制度の改正や「ふるい落とす」必要性を訴える声も上がった。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が、2024年夏の都知事選を一刀両断した。

都知事選の選挙ポスターはカオス状態になった(写真はイメージ)【写真:写真AC】
都知事選の選挙ポスターはカオス状態になった(写真はイメージ)【写真:写真AC】

騒動ばかりが目立った都知事選、政治ジャーナリスト・角谷浩一氏が斬る

 東京都知事選は現職の小池百合子氏が3選を果たして、幕を下ろした。過去最多となる56人が立候補して全国的な注目を集めたが、一方で“ほぼ全裸”の女性が写ったポスターや無関係な内容が張られたり、掲示板の枠が事実上販売されたりする「選挙ポスター騒動」が起き、政見放送では突然シャツを脱ぎ始める女性候補が現れるなど、選挙の威信は失墜した。有権者やメディアの関心を集め、言わば“宣伝ショー”となった日本の選挙。立候補の自由は保障される中で、選挙制度の改正や「ふるい落とす」必要性を訴える声も上がった。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が、2024年夏の都知事選を一刀両断した。

「選挙戦前半で一連の選挙ポスター・政見放送問題がバズってしまい、有権者の関心がこの問題から入るようになってしまった。これは候補者の政策や主張を吟味していく選挙戦のためにはいいことだとは思えません。選挙の場を『供託金300万円は宣伝費と考えれば安い』と言って自分のPRに利用する。選挙を宣伝ツールのように扱うことは、選挙の意義をゆがめてしまいます。そこに違和感を抱いた有権者も多かったのではないでしょうか」

 角谷氏はこう手厳しく総括する。売名行為のための“悪用”は社会的に許容されないであろう。

 ただ、候補者の主張や考えを発表するための場である政見放送の“使われ方”について、こんな見解を示す。

「例えば、30年も40年以上も前に都知事選や国政選挙に何度も出馬した故・東郷健氏は、性的マイノリティーの権利について訴え続けていました。当時は他に、自らの主張を訴える手段がなかったんです。そんな自分を貫いている人たちが立候補することで主張の場が与えられる。政見放送はその意味合いで、“ずっと使われ続けてきた場”と言えます。ただ、ネット時代では、ポスターや政見放送を使わなければ自分の主張を訴えることができないというわけではありません。自分の主張を訴える手段の選択肢はネットによって格段に増えました。そう考えると、これまでとは違う目的で、言わば宣伝ツールとして選挙というものを捉えている人が出てきているのかもしれません」と指摘する。

 活字・放送メディアの勤務歴を持つ角谷氏は、メディア・報道の取り上げ方が「乱暴だ」と苦言を呈した。

「今回の都知事選で言うと、小池氏、蓮舫氏、石丸伸二氏、田母神俊雄氏までは紹介されますが、あとの50数人は『その他』扱いです。『泡沫候補』と認定されてほとんど取り上げられません。有権者は仕方ないから、自分で候補者の情報を探さざるを得ない。そうすると有権者個人によって興味関心が偏ってしまうかもしれない。メディア側が選挙をゆがめている可能性もあると思います」と述べた。

政治ジャーナリスト・角谷浩一氏
政治ジャーナリスト・角谷浩一氏

公職選挙法を「より分かりやすく、選挙そのものが脱線しないように改正していくことに知恵を振り絞っていく必要」

 カオス状態となってしまい、有意義な政策論争があまり見えてこなかった今回の都知事選。来年夏には参院選が控えている。日本の選挙はどうあるべきなのか。

 角谷氏は「今の時代に合わせた考え方に変えていく必要があります」と前置きしたうえで、「選挙戦をPR戦術として知恵を働かせる人たちがいる中で、公職選挙法をより分かりやすく、選挙そのものが脱線しないように改正していくことに知恵を振り絞っていく必要があると思います」と言及する。

「誰でも立候補できることは一番大事で、立候補が妨げられることがあってはなりません。ただ、候補者が多過ぎると、有権者が情報を収集して吟味することが難しくなり、多過ぎて選べないといった状況に陥ってしまいます。それに、候補者が乱立すると、どうしても、著名人・有名人が出馬した方が有利に働いてしまいます。例えば、任期満了でスケジュールが見える状況の場合は、立候補の第1段階として、有権者の何パーセントかの署名を集めるのを条件とすることはどうでしょうか。立候補の段階で一定の条件をクリアしたうえで、従来の選挙戦を展開していくことを提案します」と強調した。

 選挙ポスターや政見放送の内容については、制約を設けるのは反対の立場を示したうえで、「選挙期間中は、NHKに政見放送の専門チャンネルを作って24時間放送を続けて、有権者がチェックしやすいようにする。選挙の管理・執行を担う選挙管理員会は、選挙サイトをもっと充実させて情報発信をより積極的に行うべきではないでしょうか」と訴えた。

「自分を貫き、真面目に出ている人がしっかりと選挙を戦えるようにすること。この観点が大事になっていると思います」と、日本の選挙の未来へのメッセージを寄せた。

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