森山未來、藤竜也との共演映画 出演オファーは公式サイトの問い合わせフォーム「ちょっと怪しいなと」
俳優、ダンサーの森山未來(39)が映画『大いなる不在』(7月12日公開、近浦啓監督)に主演した。俳優である主人公・卓(たかし)が25年前に別れ、今は認知症を患い、別人のようになった父・陽二(藤竜也)と再会する物語。森山が俳優を演じることとは?
認知症の父との再会描く映画『大いなる不在』で主演
俳優、ダンサーの森山未來(39)が映画『大いなる不在』(7月12日公開、近浦啓監督)に主演した。俳優である主人公・卓(たかし)が25年前に別れ、今は認知症を患い、別人のようになった父・陽二(藤竜也)と再会する物語。森山が俳優を演じることとは?(取材・文=平辻哲也)
本作は俳優である主人公・卓(たかし)が警察からの連絡を受け、幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二(藤竜也)と思わぬ再会する物語。父は認知症を患い、別人のようになっていた……。トロント、ベルリン、釜山などの国際映画祭で評価された『コンプリシティ 優しい共犯』の近浦啓監督が自身の実体験を基にした森山と藤を当て書きしたオリジナルストーリーだ。
出演オファーは公式サイトの問い合わせフォームから来たそうで、「フリーランスでやっているので、そのこと自体はよくあることなんですが、失礼ながら、近浦監督という方を存じ上げなかったんです。企画書のプロフィール写真も、船の上で坊主頭にサングラスみたいな感じで、ちょっと怪しいと思ったくらい」と笑う。
卓は大河ドラマにも出演した経験のある俳優という設定だ。
「役者とは、自分ではない何かを演じるという、ある種異様な職業です。誰しもが多面性を持っているし、相手が変わればそのキャラクターも変わる。そんな風に言ってしまえば、誰もが役者だ、みたいな言い方もできるかもしれない。ただ、そういうものと、俳優業は明確に違うと思っています。台本を一読した時には、卓が俳優である必要があるのか、つかめないところがありました。(監督の)啓さんといろいろ話を深めていくうちに、俳優をやっているからこそ見つけられる立ち位置があると気づけました」
物語は、卓が演劇のワークショップに参加する場面から始まる。題材はフランスの戯曲『瀕死の王』で、老いを受け入れない王がすべてを受け止めるといった内容。その王を演じた卓がやがて認知症の自身の父と向き合っていくという入れ子構造になっている。
「役者にしても、ある客観性が身についてくるところがあるんです。その人物像の内面を主観的に捉えながらも、どこか俯瞰(ふかん)しています。25年前に両親が離婚して、母はおそらく、苦しみながら他界した。そんな中で卓は、父との関係に落とし所を見つけながら、意図的に距離感を作っている。陽二さんは認知症で、自分の妄想の中で生きているのですが、役者だからこそ、その世界に入っていくことができ、会話ができたんじゃないか。そうであるならば、主人公が役者という設定が生きているんじゃないか、と思いました」
35ミリフィルムでの撮影に「現場の空気感が変わります」
演じる上で認知症の専門書も読んだ
「その一節に、認知症の方と関わるためにはその方が作った虚構の世界に役者のように寄り添うこと、というのがあり、作品構造を理解するための軸になりました。最初のミーティングで、啓さんの実体験が基になっているということも伺ったので、啓さんがどういう方で、どういう環境で育ち、今を生きているかを知ることも、助けになりました」
名優・藤竜也との共演はどんな経験になったのか。
「舞台やパフォーマンスは1か月間くらい準備に時間をかけて、みなさんといろんなものを共有して、最終的に花を咲かせるという感じですが、映画の現場は、その場で演技の火花を散らす。“居合”みたいなものと思っています。そのヒリヒリするような感覚が映画の好きなところなんですけど、藤さんとの対話はまさに居合でした。必要以上にコミュニケーションを取ることもなかったですし、必要以上に緊張させるようなこともなかった中、スタートの声がかかると、その時間にちゃんと入っていくことができました」
本作ではデジタルではなく、35ミリフィルムを使って、是枝裕和監督作品などを手掛けている大ベテランの山崎裕さんが撮影監督を務めている。
「正直、個人的にはあまり違いは感じませんでした。ただ、フィルムで撮影するとなると、現場の空気感が変わりますよね。助監督の振る舞いだけでなく、全体としても緊張感に包まれる感じはしました」
映画は、生き別れた父が再婚し、やがて、認知症になるまでに何があったのか、というミステリーを主人公が人との出会い、残された日記を通じて知るという作りになっている。
「完成した作品は面白いと思いましたし、とにかく、藤さんの演技が素晴らしかった。言語による人間の記憶がどんどん剥がされていく。陽二さんは目の前にいる、愛する女性が誰かも分からなくなるのですが、最後には他者を求めて、叫ぶ。他者とつながりたいという要求は遺伝子レベルで組み込まれている。その根源に戻っていくような感じが好きでした。後はみなさんがどう受け取ってもらえるのかだと思っています」
第48回トロント国際映画祭プラットフォーム・コンペティション部門、第71回サン・セバスティアン国際映画祭では藤が最優秀俳優賞を受賞するなど海外で評価された作品が日本の観客にどう届くのか、楽しみにしている。
□森山未來(もりやま・みらい)1984年8月20日生まれ。兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年には文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。主な映画出演作に、『モテキ』(11年/大根仁監督)、『苦役列車』(12年/山下敦弘監督)、『怒り』(16年/李相日監督)、日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』(20年/竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ監督)、『アンダードッグ』(20年/武正晴監督)、『犬王』(22年/湯浅政明監督)、『シン・仮面ライダー』(23年/庵野秀明監督)、『山女』(23年/福永壮志監督)、『ほかげ』(23年/塚本晋也監督)「iai」(24/マヒトゥ・ザ・ピーポー監督)など。