主演女優オファーに難航、「10人くらい」に断られ⋯約10年かかった男女の性の格差を描いた 『先生の白い嘘』

俳優・奈緒(29)主演の『先生の白い嘘』(7月5日公開)は、累計部数100万部を突破した鳥飼茜氏の同名コミックを原作に、男女の性に向き合った人間ドラマ。『植物図鑑 運命の恋拾いました』(2016年)、『弱虫ペダル』(20年)、などで知られる三木康一郎監督(54)が企画から公開まで約10年がかりとなった本作の舞台ウラを明かす。

『先生の白い嘘』で主役の高校教師役を務めた奈緒【写真:(C)2024「先生の白い嘘」製作委員会 (C)鳥飼茜/講談社】
『先生の白い嘘』で主役の高校教師役を務めた奈緒【写真:(C)2024「先生の白い嘘」製作委員会 (C)鳥飼茜/講談社】

監督が苦心した“女性視点の性差別”

 俳優・奈緒(29)主演の『先生の白い嘘』(7月5日公開)は、累計部数100万部を突破した鳥飼茜氏の同名コミックを原作に、男女の性に向き合った人間ドラマ。『植物図鑑 運命の恋拾いました』(2016年)、『弱虫ペダル』(20年)、などで知られる三木康一郎監督(54)が企画から公開まで約10年がかりとなった本作の舞台ウラを明かす。(取材・文=平辻哲也)

 本作は、男女間の性の格差をメインテーマとし、女性の秘められた性の快楽も描いたコミックの映画化。主人公は高校教師の原美鈴(奈緒)。親友の渕野美奈子(三吉彩花)から結婚を告げられるが、その相手とは、かつて強引に自分の体を奪ったエリートサラリーマンの早藤(風間俊介)だった。美鈴は二面性のある早藤に嫌悪しながら、どこか引かれており、ズルズルと体の関係を続けている。そんなある日、担当クラスの男子生徒・新妻祐希(HiHi Jets・猪狩蒼弥)の事件をきっかけに彼女の日常は崩れ始める……。

「10年くらい前に原作を読んで、ビックリしました。当時は男性目線で性を描いた作品が多く、新鮮な感じがしました。男性の僕には分からない感情があったのですが、ぜひ映像化したいと思ったんです」

 約10年前に『透明なゆりかご』『きのう何食べた?』の安達奈緒子さんが脚本を書き上げたが、撮影までには時間がかかったという。

「10年くらい前に脚本を書き始めた頃、10人くらいに主演をお願いしましたが、ことごとく断られました。何人か当たったけど、その当時は奈緒さんは20歳くらいだったから全然時代が違いました。しっかりと企画が動き出してから、演技力も確かな奈緒さんにオファーしたけど、とても覚悟が必要な役なので、やってくれるなんて思っていなかったけど、『やります』と快諾もらった時は本当にうれしかったです。奈緒さんにもダメ元でお願いしていたので……。ただ、奈緒さんにはやり切る自信があったんじゃないかな。原作の美鈴とはビジュアルは似ていないですが、振る舞いや動きが同じだなと感じたくらいです」

 キャスティングには難航したものの、結果として理想的な形で着地することができたという。

「早藤は世間的にいい人のイメージがある人と思って、風間さんにお願いしましたが、やっていただくのは正直、無理だろうと思っていました。でも、ご自身が『悪の部分、裏の部分をしっかりやれる役を探していました』と。新妻役はオーディションを考えていましたが、僕が監督を行っていたドラマにも出演されていた猪狩さんに。アイドルなので、断られるかなと思っていました。三吉さんもやってくれると思わなかったので、驚きました」

公開まで約7年がかりとなった『先生の白い嘘』の三木康一郎監督【写真:ENCOUNT編集部】
公開まで約7年がかりとなった『先生の白い嘘』の三木康一郎監督【写真:ENCOUNT編集部】

 撮影は2年前。劇中には性に関する繊細な描写もあるが、過激すぎず、意図はしっかりと伝わる見せ方になっている。

「奈緒さん側からは『インティマシー・コーディネーター(性描写などの身体的な接触シーンで演者の心をケアするスタッフ)を入れて欲しい』と言われました。すごく考えた末に、入れない方法論を考えました。間に人を入れたくなかったんです。ただ、理解しあってやりたかったので、奈緒さんには、女性として傷つく部分があったら、すぐに言って欲しいとお願いしましたし、描写にも細かく提案させてもらいました。性描写をえぐいものにしたくなかったし、もう少し深い部分が大事だと思っていました」

 女性視点の性差別というテーマには惹かれた部分でもあったが、同時に男性の自分には理解できているのか、という思いもあったという。

「僕は早藤、新妻の感情は分かるのですが、美鈴の気持ちは分からない部分がありました。現場では、奈緒さんとは話し合いながら撮影を進めていきましたが、あえて距離を取ることもしました。それは、奈緒さんが感じた部分の方が僕の考えよりも数百倍面白いだろうと思ったんです。奈緒さんがしっくり来ていない時は目で分かりますし、しっくり来ている時はちゃんと表現されていました」

 もう一つ大切にしたのは、物語のラブストーリーとしての側面だ。

「奈緒さんには、これは人を好きになっていくラブストーリーなんです、とは言っていました。人を好きになることで、光が見えてくる。そんな部分を物語の出口にしていきたいんですよ、と言いました」

 三木監督はもともとバラエティー番組を手掛け、ドラマに進出。フジテレビ系深夜ホラードラマを映画化した『トリハダ劇場版』(12)で初の映画監督を務めた。以来、岩田剛典(EXILE/三代目J Soul Brothers)、高畑充希共演の『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』、『恋わずらいのエリー』など王道ラブストーリー、『弱虫ペダル』などの青春モノを得意としている。

「最初は映像をやろうという気持ちはなかったんです。アルバイトでテレビ局に入って、主にバラエティーをやったんですが、30代前半でやりきったという思いがあって、一度全部やめたんです。いろんな作品をやってきましたが、ジャンルが変われど、人の気持ちを描くこと自体は変わらないと思っています。仕事がなくなってしまうので、あまり言いたくないですが(笑)、僕は王道ラブストーリーも好きですが、基本的にこういう作品の方がしっくり来るんです」と新境地に自信を見せた。

□三木康一郎(みき・こういちろう)1970年生まれ、富山県出身。主な作品に、映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(16)、『覆面系ノイズ』『リベンジgirl』(17)、『旅猫リポート』(18)、『弱虫ペダル』(20)、ドラマ『世にも奇妙な物語 秋の特別編『昨日公園』』(06/CX)、『トリハダ~夜ふかしのあなたにゾクッとする話を』シリーズ(07~09/CX)、『東京センチメンタル』(14、16/TX)、『東京ラブストーリー』(20/FOD)、『来世ではちゃんとします』シリーズ(20~23/TX)など。

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