57歳・鈴木保奈美「仕事なくなるかも」 年齢を重ねて募った危機感、目覚めた“舞台愛”「好奇心のおもむくままに」

俳優の鈴木保奈美(57)が、憧れの劇作家とタッグを組んだコメディー舞台に出演する。7月5日から東京と京都で上演の舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)-嘘つきは政治家のはじまり?-』で主演。スキャンダルに翻ろうされる知事を演じる鈴木が、俳優としての夢がかなった抱負や、同作の前日譚(ぜんじつたん)となるドラマでの思い出も語った。

『逃奔政走』で政治コメディーに挑む鈴木保奈美【写真:舛元清香】
『逃奔政走』で政治コメディーに挑む鈴木保奈美【写真:舛元清香】

『逃奔政走(とうほんせいそう)-嘘つきは政治家のはじまり?-』で主演

 俳優の鈴木保奈美(57)が、憧れの劇作家とタッグを組んだコメディー舞台に出演する。7月5日から東京と京都で上演の舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)-嘘つきは政治家のはじまり?-』で主演。スキャンダルに翻ろうされる知事を演じる鈴木が、俳優としての夢がかなった抱負や、同作の前日譚(ぜんじつたん)となるドラマでの思い出も語った。(取材・文=大宮高史)

『逃奔政走』の実現までには、長い道のりがある。娘3人の育児が一段落した鈴木が本格的に俳優業を再開した後、同作の脚本を手掛けた冨坂友氏の主宰劇団・アガリスクエンターテイメントの舞台に惚れ込んだことがきっかけだった。

「アガリスクさんの舞台の疾走感と無駄のなさに衝撃を受けました。毎公演、無駄なセリフがひとつもなく、伏線も回収されて、登場人物も皆、面白くキャラが立っていました。立っている俳優がセリフの応酬をしているだけなのに、ポンポンとドラマが進んでいくので、客席にいても1秒たりとも気を抜くことができない舞台でした。このエンタメとしての完成度の高さに憧れました」

 当時、鈴木は俳優仲間と芝居を実演・研究する集まり、「部活」を行っていた。

「待っているだけではチャンスは来ませんし、歳を取っていくと『このままではお仕事がなくなっていくかも』という危機感がいつもありました。『舞台のお芝居を勉強したい』と思って仲の良い俳優さんと一緒に台本を読んだり、戯曲を研究したりしていました。好奇心のおもむくままに、気になった舞台作品は全て自分の目で見てきました」

 アガリスクエンターテイメントの舞台に接し、その熱はいっそう高まった。

「セリフに膨大な情報が詰め込まれている上に、言葉も明快で分かりやすいんです、ただ、実際に冨坂さんと一緒にお芝居をするとなると、まずはスピード感に体を合わせるところから始まりました。演出面のアドバイスはとても的確で、お客さんに面白がってもらいたいポイントが明確なんだと思います。それをわかりやすく伝えてくれるので、迷うことは少なかったですね」

 そして、鈴木は2022年12月、フジテレビ系『生ドラ!東京は24時』第1作『シンガロング!』に出演した。生放送で一発撮りの完全ワンカットのドラマだが、同作の脚本、演出を務めたのが冨坂氏だった。

「私なんかが思いつかないようなアイデアがどんどん飛び出してきて、ひょうひょうとしていながら、心の内にはいい芝居を作るための理論がしっかりしていて、『中学校の化学の先生みたいだな』とも思いました。実際、化学の実験でもするかのように面白い舞台の構想をいつも練っている人です」

 今年3月に放送された「生ドラ」第4弾『生ドラ!東京は24時 -Starting Over-』で鈴木は再び冨坂氏とタッグを組み、『逃奔政走』につながるドラマに出演。演じたのは、子育て支援のNPOを主宰し、ニュース番組のコメンテーターも務める小川すみれだ。曲がったことが嫌いで、信念に反することが言えないすみれは、社会問題への忌憚(きたん)のないコメントを制作側に煙たがられて番組を降板する。最後の出演を終えたところで、トレードマークにしていたスカーフが行方不明になってしまう。スカーフを探して、ワンカットのカメラに追われるように深夜のフジテレビ湾岸スタジオ内を所狭しと走り回る彼女は、さらなるハプニングに遭遇していく。CMまで生放送で演じたオンエア中の1時間、全く休む暇はなかったが、その分、俳優としての本能を触発されたという。

「『シンガロング!』で初めてワンカットを経験した時は直前まで『本当にこんなドラマができるんだろうか』と半信半疑でした。ですが、未経験のハードな作品だからこそ『やってやろう』と闘争意欲が芽生えてきました。俳優ならではの性(さが)ですね」

アガリスクエンターテイメントの舞台に熱中し、舞台芝居も研究してきた【写真:舛元清香】
アガリスクエンターテイメントの舞台に熱中し、舞台芝居も研究してきた【写真:舛元清香】

テレビから舞台に場を移した作品 スキャンダルに翻ろうされる知事役

 カメラに映っていないスタッフの奮闘ぶりも記憶に残り、現場ならではの一体感もあったと振り返る。

「私たち俳優以上に照明、音声、技術……とスタッフの皆さんが走り回り、生放送で寸分の狂いもないようにリハーサルでも、シーンひとつごとにディスカッションされていました。本番でも通常のドラマの倍くらいの方々が奔走していて、舞台裏にいる方々は『本当に大変な仕事をされている』ということが如実に伝わってきて、スタッフの皆さんのおかげでこういう作品の構想ができているんだなと改めて感じて、尊敬の念もより強くなりました」

 テレビから舞台に場を移しての『逃奔政走』についても「劇場という限られた空間ですから、コメディーとはいえどれだけ走るかはわかりません」と言いながら、「冨坂さんの舞台らしくセリフの量と密度も濃く、頭も体も休む暇はなさそうですが、その分、燃えますね」と意欲をみせている。

 舞台の同作では、政界に進出し、クリーンなイメージで県知事に就任したすみれに「知事室に豪華なシャワールームを作ってぜいたく三昧」とのスキャンダルがのしかかる。舞台だけでも笑いが期待できる上、『Starting Over』から見ていくと『正義感の強いすみれがなぜ?』と感じる。サイドストーリーからの意外性も含めて楽しめる政治コメディーに仕上がっている。

「さほど深い意味はなくて、私の他にも続投するキャストもいるので『つなげてみたら面白そう』くらいの遊び心かもしれません。すみれにある程度のイメージがあることは『諸刃の剣だな』とも感じています。『元々はこんな性格の人だった』ということが皆さんにも共有されてしまっているので、私が自由に解釈して幅をつける余地が狭くなってしまうかもです。でも、皆さんには『2つの作品の間にすみれにどんなことがあったんだろう』と自由に想像していただけるので、楽しみが増えますね」 

俳優業を再開後、着実に存在感を増す【写真:舛元清香】
俳優業を再開後、着実に存在感を増す【写真:舛元清香】

 冨坂氏が一緒に活動してきた鈴木に抱いたイメージは「女帝」。そこから凛々しい女性知事の役をあててくれたという。

「冨坂さんいわく、今の私は『恋愛ドラマやヒューマンドラマよりも、社会に出て戦っている女性が似合う気がする』そうです。私のパブリックイメージってもっとあっさりといいますか、軽妙な人間に思われていそうだったので、骨太な印象を持ってくれる人がいることも意外でした。『Starting Over』から引き続いてすみれの娘の役をやってくれる榎並夕起さんがまたかわいい方なんです。私がしっかり引っ張っていかないとですね。政治家らしく(笑)」

 凛々しいリーダーか、スキャンダルに翻ろうされるワイドショー政治家か。鈴木が舞台で見せるさまざまな姿が楽しみだ。

□鈴木保奈美(すずき・ほなみ) 1966年8月14日、東京都生まれ。86年にデビュー後、多くのCMやテレビドラマに出演。91年に出演したフジテレビ系連続ドラマ『東京ラブストーリー』で脚光を浴びる。以降、数々のトレンディドラマに出演。主な出演作にNHK大河ドラマ『江 ~姫たちの戦国~』、フジテレビ系『SUITS/スーツ』、Netflix『浅草キッド』、舞台『セールスマンの死』、舞台『レイディ・マクベス』など。現在、読書エンターテイメント番組にBSテレ東『あの本、読みました?』にレギュラー出演中。

ヘアメイク/福沢京子
スタイリスト/犬走比佐乃

【公演情報】
舞台『逃奔政走(とうほんせいそう) -嘘つきは政治家のはじまり?-』
脚本・演出:冨坂友
出演:鈴木保奈美、寺西拓人、相島一之、佐藤B作ほか
東京公演:7月5~16日  三越劇場
京都公演:7月20~21日 京都劇場
<公式HP>https://www.touhonseisou.jp/

衣装: (ブルーブラウス)OLD ENGLANDE銀座店

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