遅咲きの岡部たかし、ブレーク転機は「40歳でのフリー決意」 豊富なバイト経験も「不義理をしてしまった」

Audibleのオリジナル新作小説『パンとペンの事件簿』(柳広司、6月25日配信)の朗読に初挑戦した俳優の岡部たかし(51)。2022年にフジテレビ系ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』のプロデューサー役でブレークし、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』『虎に翼』に連続出演する遅咲きの売れっ子が下積み時代を明かす。

岡部たかしが自身のこれまでについて振り返る【写真:ENCOUNT編集部】
岡部たかしが自身のこれまでについて振り返る【写真:ENCOUNT編集部】

朝ドラ連続出演、遅咲きで売れっ子に

 Audibleのオリジナル新作小説『パンとペンの事件簿』(柳広司、6月25日配信)の朗読に初挑戦した俳優の岡部たかし(51)。2022年にフジテレビ系ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』のプロデューサー役でブレークし、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』『虎に翼』に連続出演する遅咲きの売れっ子が下積み時代を明かす。(取材・文=平辻哲也)

 岡部は和歌山県出身の51歳。高校卒業後に建設会社に勤務したが、1年後に退社。その後は地元でアルバイト生活を送っていた。24歳の時に劇団東京乾電池の大阪公演を見たのを機に上京した。

「和歌山時代は友達らとボーリングやって、夏は海に行って……といった感じ。東京では、風呂なしのアパートに住んでいる期間も長くあったので、苦労のように聞こえるんですけど、その時々は意外と楽しかったんですよ」

 アルバイトは警備員、宅配、居酒屋、テレホン・アポイントまで幅広いが、特にタクシー会社の配車業務は楽しかった。

「お客さんから電話があって、運転手さんに無線で指示するんです。ただ、たまに変な電話もかかってくる。『舟木一夫さんの家を知りたい』という電話もありました。隣に演劇をやっている友達がいたんで、『今、舟木一夫担当に代わります』と言ってパスすると、そいつのが「はい、舟木一夫担当ですが」と代わってくれて。もちろんそんな担当ないんですけど(笑)。上司からは『お前らあんまり遊ぶな』と言われたけど、楽しかったです」

 岡部は若い頃から人生を楽しむ達人だった。さまざまな職種で、いろんな人間を観察したことも役の引き出しになっているのだろう。

「もしかしたら、無意識的に面白がっている部分はあるかもしれないですね。得意じゃないんですけど、モノマネは割と好きやった方やと思うんですよね。昔から、学校の先生のモノマネをしたり、友達の癖をマネしたり……」

 岡部の存在が全国区になったのは『エルピス』だが、自身が思うターニングポイントはいつだったのか。

「40歳でそれまでお世話になっていた事務所を退所したんです。もう売れることは諦めていましたし、フリーになって、自分が好きなこと、面白いと思えることをやっていくのでいいんじゃないか、と思ったんです。その後、今の事務所クリオネの社長から『会いたい』と言っていただいて入るのですが、1度、きっぱりとフリーになろうと思ったことが新しい世界を開いた1つの要因かなと思ったりします」

 好きな芝居をとことん突き詰める一方、その頃でもまだアルバイトもやっていた。

「それまでは小さな舞台ばかりでギャラがとても安かった。で、交通費もらえたり、もらえへんかったりという感じ。それがクリオネに入ってからの舞台の仕事は、割と大きなところだったんです。最初はあんまり乗り気じゃなかったけど、社長から強く勧められて、まあ、やってみるか、と。そうなると、莫大ではないけど、お金も今までよりもらえたりする。地方公演もあるので、その間バイトもできなくなって、次の映像の仕事、次の舞台の話があったり……。最後のバイトは寿司や釜飯の宅配でしたが、連絡もしないでフェードアウト。不義理をしてしまいました。今も制服を持っていますから、いつでも戻れますよ(笑)」。

 ドラマ、映画で欠かせないバイプレーヤーになった今、その変化をどう受け止めているのか。

「1番分かりやすいのは、和歌山にいる友達と話ができるようになったことですかね。周りの友達はちゃんとした仕事を持ち、家を建てて子どもも大きくなっているんやけど、自分はまだ何者にもなっていない。だから以前は和歌山に帰っても、友達に合わないように隠れていたんです(笑)。みんなと同じように職業と呼べるようになれたのは、うれしいことです」

 息子の岡部ひろき(23)も俳優として活躍。映画『カラオケ行こ!』、『夢の在処 ひとびとのトリロジー』、NHKドラマ10『燕は戻ってこない』第3話などに出演している。

「これは何の因果かと思いますね。人生は何が起こるか分からない。息子は僕が参加する『城山羊の会』という演劇のファンで、俳優になったのは、この演劇に強く引かれたかららしいです。その『城山羊の会』では2度共演しました」

 俳優としてのキャリアは27年。映像出演のほかにも、岩谷健司らと演劇ユニット「切実」を立ち上げている。

「今後の目標は特にないんです。昔から目的や目標をあんまり持たずにやってきちゃったんです。これからどういう仕事をして、どういう人に出会って、どうなっていくのかは、自分自身が一番楽しみにしています。僕がやっている『切実』というユニットでは、ただ好きな仲間と一緒に面白いと思うことをやり続けられたらええなと思っています」。歳を重ねて、光り輝く50代の星の今後にも注目だ。

■岡部たかし(おかべ・たかし)1972年6月22日、和歌山県出身。劇団東京乾電池の元劇団員。退団後は「城山羊の会」など、数多くのプロデュース公演に出演。映画やドラマなど、幅広く活躍している。フジテレビ『エルピス-希望、あるいは災い-』(22)でのプロデューサー役で注目を集め、NHK連続テレビ小説では『ブギウギ』(23)、『虎に翼』(24)に連続出演。主な映画に『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)、『花束みたいな恋をした』(21)、『異動辞令は音楽隊!』(22)など。

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