寛一郎、マタギ役の主演オファーを「断ろうと思った」 猟友会と山中へ「ものすごいスピードで」

俳優の寛一郎(27)が映画『プロミスト・ランド』(6月29日公開、飯島将史監督)に主演した。禁じられた熊狩りに挑むマタギ役を演じる。オファー当初は「断ろうと思った」と話す。その理由とは……。

主演を務める俳優の寛一郎【写真:矢口亨】
主演を務める俳優の寛一郎【写真:矢口亨】

映画『プロミスト・ランド』で主演

 俳優の寛一郎(27)が映画『プロミスト・ランド』(6月29日公開、飯島将史監督)に主演した。禁じられた熊狩りに挑むマタギ役を演じる。オファー当初は「断ろうと思った」と話す。その理由とは……。(取材・文=平辻哲也)

 本作は第40回小説現代新人賞を受賞した作家・飯嶋和一氏の同名小説を原作に、東北地方を舞台に禁じられた熊狩りに挑む2人の若者を描く。山形県庄内地方のマタギ衆に密着したドキュメンタリー「MATAGI マタギ」の飯島将史監督が長編劇映画初メガホンをとった。

 寛一郎の役は、禁止通達に背いて、弟分の信行(杉田雷麟=らいる)と雪の残る山中に入り、熊狩りを決行する礼二郎。マタギの男という誇りを貫くあまり、大切な妻ともうまくいかなくなり、不器用にしか生きられない若者だ。

 最初にオファーをもらったときは断ろうと思ったのだという。

「当時、僕は24歳くらいで、礼二郎の役は僕じゃないんじゃないかと思ったんです。印象としては僕よりも年上の役で、僕自身は結婚もしていませんし、彼の説得力が出せないんじゃないか、と。年下の信行の役の方が現実的じゃないか、とお話したんです。でも、チャレンジとしてやってみたいという思いもありましたし、マタギという文化も全く知見がなかったので、そこを含めて面白そうだったので、ご返事をしました」

 映画製作には時間がかけられた。一昨年には山形県庄内地方にある2つの猟友会のマタギから話を聞き、山の中にも入っていった。

「傾斜がきつい中、本当に道なき道を歩いていくんですけど、登山とも違うんです。猟友会の方々はシニアなんですが、ものすごいスピードで登っていく。でも、全然疲れている素振りは一切見せない。熊を見つけた時はものすごい勢いで駆け下りていくんだそうです」

 そのバイタリティーには心底驚かされた。

「マタギの人は熊を見ると、血の気が立つんだそうです。それは多分、小さい頃から受け継いだものなんだろうなと感じました。自然と人間の共存というものもありますけど、マタギの人たちにとっては、本能的にやっていることなんだと思いました」

 礼二郎には共感できる部分もあった。

「どこかに自由を求めていて、ある程度わがまま。自分勝手なところもある。それによって周りに膨大な迷惑をかける。山というのは自由っぽいんだけど、マタギには縛られたところもある。マタギはそれを山に置いていくのかもしれない。そんな矛盾した部分は僕にも分かります。多分、男性なら、彼の気持ちがちょっと分かるところもあるじゃないですかね。僕には奥さんはいませんが、その喪失感みたいなものも分かります」

雪山での撮影は困難を極めた【写真:矢口亨】
雪山での撮影は困難を極めた【写真:矢口亨】

雪が残る山中で撮影「1時間半ぐらいかけて登るか、降りるか」

 実際の撮影は昨年4、5月に約3週間をかけた。

「毎日ではないんですけど、朝早い時は4、5時に出発して1時間半ぐらいかけて、山を登るか、降りるかする。春とはいえ、まだ雪も残っていますし、足元が危ない。昼はお弁当で、トイレは雪山のどこか。まだ日が短かったので、思ったよりも撮影できる時間はなかったように思えます」

 劇中で熊を追って、雪山を歩く礼二郎と信行の姿には演技を超えたものが映っているようにも思える。

「そう言っていただけると、うれしいです。演じている人間も、雪山に身を置くことによって、ヒートアップさせてくれた部分もあるんじゃないかな。その一方で、山の中にただいるだけで、成立してしまう怖さもありました。演者としては、いろいろとやろうともしましたけど、いることに真実が見えてくるんじゃないかと感じました」

 ダブル主演を務めた杉田雷麟(21)は19年、映画『半世界』(監督・阪本順治)で稲垣吾郎演じる主人公の息子役を演じ、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第34回高崎映画祭最優秀新進俳優賞を受賞し、『福田村事件』、主演作『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2024年)など話題作が相次ぐ注目株だ。

「雷麟君とは縁があるんです。父親(佐藤浩市)が彼のデビュー作『Aではない君と』(息子役)というドラマに一緒に出ていたので、名前だけは知っていたんです。しばらくたったら、周りでも名前を聞き始めて……僕も阪本監督の『せかいのおきく』に出ましたから。どこかでご一緒できるかなとは思っていました」

 6歳下の後輩俳優にはかつての自分を見るような思いもある。

「自分が忘れかけているものを持っているし、もっと学ばなきゃいけないことをもちろんある。そういう意味でも、その礼二郎とノブじゃないけど、どこか補い合っていたのかなとは思います」

 本作では杉田とのダブル主演。これまで映画では『君がまた走り出すとき』『下忍 赤い影』(19年)での主演経験はあるが、「幸せなことですが、主演は大変だなと思います。頭に立つからには、作品を背負わなきゃいけない。多少、人とぶつかることがあっても、作品を良い方向に導かなければいけないから」と寛一郎。9月13日公開の映画『シサム』では江戸時代、アイヌとの交易を通じて、人生を見つめ直す主人公を演じる。

□寛一郎(かんいちろう)1996年8月16日、東京都出身。2017年、『心が叫びたがってるんだ。』で映画初主演。『菊とギロチン』(18)ではキネマ旬報ベスト・テン新人男優賞など多数受賞する。22年には出演作『ホテルアイリス』『月の満ち欠け』が公開されたほか、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演。さらに、23年には初舞台『カスパー』で主演を務めた。主な出演作は『チワワちゃん』(19)、『一度も撃ってません』(20)、『劇場』(20)、『泣く子はいねぇが』(20)、『AWAKE』(20)、『せかいのおきく』(23)。今後も『ナミビアの砂漠』(9月6日)、主演『シサム』(9月13日)、『グランメゾン・パリ』(冬)が控える。

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