池上季実子、激動の芸能生活50年 親の離婚騒動、自身の離婚…「好きなことをやってここにいる」

松下奈緒の主演映画『風の奏(かなで)の君へ』(6月7日公開、大谷健太郎監督)で初のおばあちゃん役を演じた俳優の池上季実子(65)は今年、芸能活動50年を迎えた。撮影直前の2年前に新型コロナウイルスに感染し、死を覚悟する経験を経て、人生観も変化したという。

インタビューに応じた池上季実子【写真:Jumpei Yamada】
インタビューに応じた池上季実子【写真:Jumpei Yamada】

『笑っていいとも』で人気になった池上季実子ゲームの真実語る

 松下奈緒の主演映画『風の奏(かなで)の君へ』(6月7日公開、大谷健太郎監督)で初のおばあちゃん役を演じた俳優の池上季実子(65)は今年、芸能活動50年を迎えた。撮影直前の2年前に新型コロナウイルスに感染し、死を覚悟する経験を経て、人生観も変化したという。(取材・文=平辻哲也)

 池上は2022年2月にコロナに感染し、酸素飽和度80%となって、救急車で搬送され緊急入院。病院では直ちにICUに入り、医師からは「今日が峠です」との宣告を受けた。その時に真っ先に思ったのは「もうちょっと芝居がしたかった」との思いだった。

「弟と子どもに電話しようとも思わなかった。前から芝居は好きで、一生懸命もやっていたし、どちらかというと、好き嫌いがはっきりしている方でしたけど、それに輪をかけたかもしれないですね」と笑う。

 入院中の2か月は医師、看護婦、先生、掃除の年配女性だけが話し相手。そんな中、病室でテレビを流しっぱなしにしていた。

「ドラマもやっているし、ニュースも流れてくる。でも、自分はずっとここにいるんだよなぁと思うと、芝居をやりたい気持ちが決壊したダムのように一気に流れ出してきたんです。急に気持ちが元気になったっていうか、コロナがいい薬になったというか……」

 もう一つ気持ちの中で大きく変化したことがある。

「以前は、プライベートで口数が多くても、取材では聞かれたことしか話さなかったんです。今はしゃべっておかないと、いつ死ぬか分からないという実感があります。小さな子どものように、『もっと私のことを聞いて』『私を見て』みたいな感覚が強くなったかもしれない」

 池上は米ニューヨーク生まれ、京都育ち。小学校を卒業後、両親の別居に伴い、母、弟とともに東京に引っ越し。14歳の時にスカウトされ、1974年に芸能界デビュー。今年、芸能活動は50年を迎えた。

「私は14歳で仕事を始めたんですけど、親の関係がガタガタしていたんです。弟が大学卒業するまで離婚しなかったですけど、ずっと悩まされてきました。けんかの原因は、お金だったので、自分の力で食べていかないという気持ちが強かったんです。たまたま、スカウトされて、やってみたら面白くて、『これだ!』みたいな感じやっていたんです。かっこいい言い方すると、芝居に恋しちゃった感じ。10代の頃は夢中で走り続けてきた感じでした」と振り返る。

主演舞台で心に刺さった言葉を明かした【写真:Jumpei Yamada】
主演舞台で心に刺さった言葉を明かした【写真:Jumpei Yamada】

映画『太陽を盗んだ男』は「無茶苦茶な現場でしたよ」

 10代の頃は大林宣彦監督の商業デビュー作『HOUSE ハウス』(1977年)で初主演したのをはじめ、高倉健主演の『冬の華』(1978年)、水谷豊主演の日本テレビ系ドラマ『熱中時代』(1978~1979年)の妹・青空役、長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』(1979年)などに出演。

 日本映画ベストテンの上位に輝く『太陽を盗んだ男』は小型原爆を作った中学教師(沢田研二)と刑事(菅原文太)の対決を描くアクション。池上は主人公と行動を共にするラジオDJ・ゼロを演じた。

「『太陽を盗んだ男』の現場は無茶苦茶でしたよ。3日間、撮影所で徹夜の撮影というのもあって、その間に助監督が何人も逃げて、その一人は小道具を持っていってしまい、中断ということもありました。堤防からヘドロの東京湾に投げ込まれるそうになって、マネジャーがキレたことも。『濡れると困るので、ぶっつけ本番だ』と言われたんですけど、助監督がテストで飛び込んだら、『これは無理です』って。そんな話ばかりです。私はそんなに出番が多い方じゃなかったので、よかったけど、沢田さん、文太さんは大変だったと思います」

 20代になってからは『陽暉楼』(83年)で第7回日本アカデミー賞主演女優賞、『華の乱』(88年)では第12回日本アカデミー賞助演女優賞を受賞している。テレビでも主演を張るようになり、勝ち気なヒロイン役が印象深い。私生活では結婚、出産、離婚も経験した。『森田一義アワー 笑っていいとも』で“池上季実子ゲーム”と言われる早口言葉コーナーがあったのも80年代だ。

「“赤巻紙 青巻紙 池上季実子”って早口言葉で3回言うやつですよね。私はめちゃめちゃ忙しかったので、全然知らなかったんです。そのコーナーが終わるので、『締めとして出演してください』と言われて、出たんですけど、私は言えなくて、トチリましたよ(笑)」

 今年、主演した舞台『CHICACO 2024 Episode2』に心に刺さった言葉がある。

「私の旦那役(川端槇二)のセリフで、『好きなことで誰かを守れるって、並大抵のことじゃないよ』というのがあるんです。私も好きなことをやって、母子家庭にしちゃって、子どもを育てて、今ここにいる。コロナ禍では、芝居の世界から去っていく俳優の卵たちを何人も見ましたが、自分は好きなことを50年もやり遂げられている。これは、本当にありがたいことだし、感謝だなとすごく思います。だから、余計にもっともっと一生懸命やらなきゃ、という自分がいます」

 死にかけて、「天国のお花畑を見た」と語る池上は、女優として、人間として、さらに強くなったようだ。

□池上季実子(いけがみ・きみこ)1959年1月16日生まれ、アメリカ出身。1974年、ドラマ『まぼろしのペンフレンド』でデビュー。映画『はだしの青春』(75年)、映画『太陽を盗んだ男』(79年)、ドラマ『男女7人夏物語』(86年)、ドラマ『ラジオびんびん物語』(87年)、ドラマ『苦い蜜』(10年)、ドラマ『科捜研の女(第15期)』(15年)、映画『ミックス。』(17年)、NHK大河ドラマ『草燃える』(21年)など。『陽暉楼』(83年)で、第7回日本アカデミー賞主演女優賞、『華の乱』(88年)で第12回日本アカデミー賞助演女優賞を受賞している。

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