エボラ出血熱の薬がなぜコロナの薬に? ほかにもある本来の適応とは異なる疾病に効く薬
糖尿病治療薬ががん治療にも効果を発揮するかも!?
副次的作用が発見された薬には、ほかにどんなものがあるのか。野見山教授らは2014年、GLP-1受容体作動薬(インクレチン関連薬)という糖尿病治療薬が副次的作用としてがんの増大を抑制する作用が認められたという論文を発表している。
「糖尿病患者の死因の第1位はがんなので、糖尿病とがんを結び付ける研究が、私のテーマのひとつです。私が福岡大学に在籍していたときにお世話になった柳瀬敏彦教授が男性ホルモンの研究をされていて、研究室に前立腺がんの細胞が多数ありました。そこで、試しに糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬を添加してみたら、驚いたことに増殖抑制作用があったのです」
その後、マウスのレベルでも抑制作用を証明し、作用のメカニズムの解明も行った。しかし、GLP-1受容体作動薬が前立腺がんの治療薬として承認されるには、治験を含めた臨床研究を行いヒトに対する安全性と有効性を証明しなければならない。現在は時間的、金銭的な問題などで臨床研究を行うには至っていないが、将来的には治療薬として承認される可能性があり期待される。
副次的作用の発見で“一粒で二度おいしい” 薬に!?
副次的作用が認められている薬はほかにもある。
「タナトリルという高血圧の治療薬は1型糖尿病による腎症に対して、サインバルタといううつ病の治療薬は糖尿病性神経障害や繊維筋痛症、慢性腰痛症に伴う疼痛(しびれのような痛み)に対しても追加承認されています。SGLT2阻害薬という2型糖尿病の治療薬は慢性心不全などに対する効果が期待され、現在は臨床試験の最終段階。まさに承認が得られようとしているところです」
SGLT2阻害薬が心臓や血管に起こる病気(慢性心不全や心筋梗塞など)に対する副次的作用が発見されるきっかけは、10年ほど前、FDA(アメリカ食品医薬品局、日本の厚生労働省にあたる)が糖尿病の治療薬を承認する際、製薬メーカーに対して心臓や血管に起こる病気を悪化させない、という臨床研究結果を求め始めた。それがきっかけで、SGLT2阻害薬には心臓や血管に起こる病気を悪化させないどころか改善することがわかり、心臓や血管に起こる病気の治療薬として世界中で認可されようとしている。
「治療薬の副次的な作用は、このようにさまざまなきっかけで発見されます。SGLT2阻害薬のように、認可されれば糖尿病と心不全の両方をもつ患者さんにとっては“一粒で二度おいしい” 薬になります。明るく夢のある話ですよね。患者さんが“ちゃんと薬を飲もう”という意欲の向上につながれば幸いです」
新型コロナウイルス治療薬・レムデシビルも既存薬の副次的作用の発見から承認にまでこぎつけた。医療関係者の知恵と努力、医学の進歩にはまったく驚くばかりだ。
□野見山崇(のみやま・たかし)1970年8月18日、福岡市生まれ。1995年、順天堂大学医学部医学科卒。2002年、順天堂大学大学院医学研究科(博士課程)内科学・代謝内分泌講座修了。ケンタッキー大学留学を経て2008年、順天堂大学医学内科・代謝内分泌内科学講座助教。2010年、福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科講師、2012年、同准教授。2020年、国際医療福祉大学医学部糖尿病・代謝・内分泌内科教授兼国際医療福祉大学市川病院糖尿病・内分泌代謝センター長就任。日本糖尿病合併症学会Young Investigator Award、日本糖尿病協会ウイリアム・カレン賞など受賞多数。著書に「チャートでわかる 糖尿病治療薬処方のトリセツ: 未来を護るベストチョイス!」(南江堂)。
□国際医療福祉大学市川病院http://ichikawa.iuhw.ac.jp/