人気コメンテーター野村修也氏が語る「法律学の真髄」 ネット上の極端な意見は「法的思考がないから」

テレビ朝日系『サンデーLIVE!!』や日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』など多くの番組でコメンテーターとして活躍する中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏。テレビでは幅広い分野で見識を示し、豊富な知識を感じさせる。仕事柄、高い信頼を感じる一方で固い印象を持つ人もいるかもしれない。実際はどうなのか。野村氏の素顔に迫ってみた。

中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏
中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏

『サンデーLIVE!!』や『情報ライブ ミヤネ屋』などで活躍

 テレビ朝日系『サンデーLIVE!!』や日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』など多くの番組でコメンテーターとして活躍する中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏。テレビでは幅広い分野で見識を示し、豊富な知識を感じさせる。仕事柄、高い信頼を感じる一方で固い印象を持つ人もいるかもしれない。実際はどうなのか。野村氏の素顔に迫ってみた。(取材・文=中野由喜)

 まず、ふるさと北海道で過ごした少年時代を聞いた。やはり当時からまとめ役を担うことが多かったようだ。

「小学校では器楽クラブに所属してトランペットを吹いていました。運動会などでファンファーレや行進曲を演奏したのを思い出します。中学ではバスケットボール部に所属し、夜遅くまで毎日練習。高校でもバスケットを続け、へたでしたが3年生の時はキャプテンでした。小学校・中学校では生徒会長もさせてもらいました。要するに、目立ちたがりの嫌な奴って感じですね」

 生徒会では校則を見直す機会があり、身近なルールから世の中のルールへと関心が向き、中央大学法学部に入学。入学直後、大きな転換期と話す出来事があった。

「不思議な空間に遭遇しました。一刻も早く司法試験に合格して弁護士になる道を描いて入学し、寮のような大学斡旋のアパートに入りました。そこにはいろんな学部の先輩がいて歓迎会を開いてくれましたが、そこでいきなり『君はカントをどう評価している?』と問われたんです。十分に答えられず少し勉強した方がいいという雰囲気をかもし出されました。そこで本を買いカントについて勉強し、次に備えました。ただ次はサルトルでした。その後も哲学だけでなく各自が得意分野のお題を出してみんなで議論する不思議な時間が続き、僕は本を大量に買って読みあさり、猛勉強。何を聞かれても答えられる準備をするので精いっぱいでした」

 不思議な空間は博識な野村氏のルーツなのかも。一方、この空間はその後の進路にも影響を与えた。

「周りの人たちとは明らかに勉強の内容が違っていましたので、司法試験ではなく大学院を受験しようと考え始めました。その当時、私の頭の中にあったのは、人はなぜ人を裁けるのかとか、契約はなぜ守らなければいけないのか、経済と法律はどんな関係にあるのかといった問題意識でした。どの法律にも本質的な問題があり、それを突き詰めるような勉強をしていたわけです。そのほかにも、学んだ判例を深く理解するために、友人らと一緒に当事者の方を尋ねてお話を聞く活動もしていました。三菱樹脂事件の原告であった高野達男さんに恐る恐る電話をかけたところ、快く応じてくださり、新宿の喫茶店で深夜までお話を伺った時のことは今でもはっきり覚えています」

 ゼミの先生に法曹ではなく研究者の道に進みたいと、その胸の内を相談したのが大学3年生の夏のこと。大学で職を得るのは難しいと反対されたが何度も足を運び弟子入りを志願した。最終的に先生は根負けして野村氏を全力で応援するようになる。

「大学院の受験準備をしていた4年生の夏、先生に呼ばれて研究室に行くと机が置いてあり、『ここで勉強しなさい。研究室の本を全部使っていい』と言ってくださったんです。高価な書籍の数々は私には宝の山に見えました。先生には、本当に感謝しています。あと、大学入学時にあの先輩たちに出会わなければ、研究の道には進まなかったと思います。本をたくさん読むことを習慣化され、疑問がわいたら深く考え抜くことを教え込まれたので研究者の道が開けたのだと思います」

 研究心の持続にはエネルギーが必要。聞くと研究者独特の世界があった。

「学問をやっていると、ある時、一瞬にして今まで分からなかったことが全部分かる瞬間があるんです。考え続けても分からなかったことが分かる学問的な快感。学者はみな経験していると思いますが、次にそれが訪れるのを待っています。大学院生のころ、深夜のファミレスで本を読んでいたら、ずっと分からなかったことが、ある時、一瞬にして分かったことがありました。テーブルにあった紙ナプキンを並べて、朝までわーっと書きとめました。それを元に論文を書いたら学会で賞をもらいました。そんな経験をすると、もう学問からは逃れられなくなるんです。普段あまり研究者の顔は見せないようにしていますが、実は本に埋もれて暮らしているため、片付けるようにと妻にいつも叱られています」

 仕事以外の顔も尋ねてみた。

「なるべく家事をしています。朝ごはんを作ったり、お風呂を掃除したり、洗濯したり。妻は生け花の講師として家元に仕えているため、かなり多忙。だから、お互いにできるところを分担しないと家が回らないんです。今となっては、朝の家事は試合前のルーティンのようなもの。やらないと調子が出ないんですよね」

 健康づくりも気になる。すると「泳いでいます。ゆっくり1キロ」。始めた理由に人柄が伺えた。

「実は40歳まで金槌でした。克服しようと思った理由は娘が通っていた水泳教室の父親参観日です。お父さんも一緒にと言われないかと不安な気持ちで着替えていた時のこと。ロッカールームで目に入ったのが『泳げないお父さんのための特別講座』という張り紙。一般の入り口は閉まっている早朝の時間帯なので『誰にも見られず学べます』とありました。この殺し文句にひかれて教室に通ったのですが、最初は悪戦苦闘。若い女性インストラクターに『溺れたかと思いました』と言われながら何とかクロールをおぼえました」

 優しいパパ。生きる上で心掛けていることも気になる。

「実は段取りが悪く、しかも飽きっぽい性格。だから、仕事をこなすには、いろいろと工夫を加え、面倒な仕事を楽しい作業に変える必要があるんです。今、チャレンジしているのは家の中で用事をこなすときに、1階と2階を無駄に何度も行き来せずに済ませることです。しかし、年のせいか、2階に上がった瞬間に何のために来たのかを思い出せないこともしばしば。あっという間にゲームオーバーというのが実態です」

 最近、『説得力を高めたい人のための法的思考入門』(PHP研究所)という著書を発売した。本に込めた思いを尋ねた。

「司法試験を受けようという学生は法律とは何かという本質的な問いを回避し、試験に出る知識を暗記する勉強に陥りがちです。他方で法曹を目指さない学生の中には、何のために法律を学んでいるのかを見失ってしまい、真面目に法律と向き合おうとしない者も少なくありません。そこで、こうした両極端な学生たちにも法律の面白さや奥深さに目を向けてもらいたいと思い、比較的簡単に法律学の真髄を学べる本を書きました。学生だけでなく、法学部を卒業した人にも、この本を通じて自分が大学で身につけたスキルを再確認していただきたいと思っています。そうすれば、自分の能力に対する自信を強め、仕事にも良い効果が生まれるのではないでしょうか。

 今、SNS上では、正しい形で法的思考を身につけていないために極端な意見を言う人がいます。たとえば民事裁判では、当事者が事実を争わない限り、仮にそれが真実でなかったとしても、その事実を前提に裁判が進められます。しかし、おそらくこの仕組みは一般の人には分かりにくいのでしょう。そのため、真実との違いに激怒し、ネット上に真実をさらそうとする人が出てきますが、これは当事者にとって迷惑以外の何物でもありません。また、法律論が立体的であることを知らない人は、たとえば暴力的なデモを見てデモ一般を否定してしまいがちです。しかし、法的思考を身につけた人であれば、デモは基本的人権として保障されているという前提を踏まえた上で、暴力を批判することができることになります」

 最後に日本で初めて法曹界に飛び込んだ女性を描く朝ドラ『虎に翼』にも触れてもらった。

「視聴者に法律の本質を知ってもらおうという意欲を感じます。まさに私の本に通じるところがあります。穂高先生(小林薫)が劇中『法廷に正解は無い』と言った場面がありましたが、これこそが法の神髄。紛争解決は法的思考というスキルを駆使して、最も合理的な解決策を導く作業であって、最初から答えがあるわけではありません。それが独善的な解釈にならないように、立法趣旨や判例・学説などを十分に踏まえながら知恵を絞るのが法律家の役割。そのことを、あの一言は見事に表現していると思います。また、主人公の父親が無罪となったシーンで裁判官が述べた“水中にある月影を掬(きく)するが如し”という言葉は、実在する名判決のフレーズです。『はて?』これは何を意味するのか。ぜひご自身で考えてみてください」

□野村修也(のむら・しゅうや)1962年4月12日、北海道函館市生まれ。函館ラサール高校卒業後、中央大学法学部入学。西南学院大法学部助教授をへて98年に中大法学部教授、2004年に中大法科大学院教授に。同年、森・濱田松本法律事務所の客員弁護士となる。98年には金融監督庁(現・金融庁)参事に就任し、その後、総務省顧問、郵政民営化委員、東京都参与、司法試験考査委員、年金記録問題検証委員、国会の原発事故調査委員、厚労省顧問などを歴任。現在は、金融庁参与、休眠預金活用審議会委員、社会保障審議会専門委員、内閣府本府参与などを務めている。メディアでも活躍し、読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』『かんさい情報ネットten』、中京テレビ『キャッチ!』、テレビ朝日『サンデーLIVE!!』でコメンテーターとして活躍。中大では陸上競技部部長を務めている。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください