「PTAは強制ではない」 それでも止まぬ「わがまま」「ズルい」の声…日本PTA会長の見解は

PTA非加入世帯の児童が不当な不利益を被る事例が相次いでいる。先月15日、埼玉県内のある公立小学校のPTAが、非加入世帯の児童を通学班に入れないことや進級・卒業の祝品を配布しないことなどを保護者宛ての文書で通達。今月13日には神奈川県内の公立小学校が、PTA非加入世帯の児童には防犯ホイッスルの配布や防災備品の用意・保管ができないと通達、いずれもネット上で「非加入児童への差別」「子どもを人質にとった脅迫では」と炎上する騒動となった。ネット上では不要論や廃止論も根強く、大きな転換期を迎えているPTAだが、今後どのように変わっていくべきなのか。日本PTA全国協議会の後藤豊郎会長にこれからのPTAのあるべき姿について聞いた。

相次ぐ炎上事例に苦言を呈した日本PTA全国協議会の後藤豊郎会長【写真:ENCOUNT編集部】
相次ぐ炎上事例に苦言を呈した日本PTA全国協議会の後藤豊郎会長【写真:ENCOUNT編集部】

PTA非加入世帯の児童が不当な不利益を被った事例が相次いで炎上

 PTA非加入世帯の児童が不当な不利益を被る事例が相次いでいる。先月15日、埼玉県内のある公立小学校のPTAが、非加入世帯の児童を通学班に入れないことや進級・卒業の祝品を配布しないことなどを保護者宛ての文書で通達。今月13日には神奈川県内の公立小学校が、PTA非加入世帯の児童には防犯ホイッスルの配布や防災備品の用意・保管ができないと通達、いずれもネット上で「非加入児童への差別」「子どもを人質にとった脅迫では」と炎上する騒動となった。ネット上では不要論や廃止論も根強く、大きな転換期を迎えているPTAだが、今後どのように変わっていくべきなのか。日本PTA全国協議会の後藤豊郎会長にこれからのPTAのあるべき姿について聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 小中学校において、任意加入の保護者と教職員が児童生徒のためにボランティアで支援活動を行うPTA。結成や加入を義務付ける法的根拠はなく、自ら加入を選択した会員が主体的に参加する任意団体とされているが、事実上参加が強制となっている学校や地域もあり、保護者の負担が大きな問題となっている。共働き世帯の増加でこれまでのような運営が難しくなっている昨今、PTA不要論や廃止論が唱えられることも少なくなく、実際に解散に踏み切った学校もあるのが実情だ。

 今回問題となった一連の事例について、後藤会長は「加入・非加入にかかわらず、子どもたちが不利益を被ってはならないというのが大前提。通学班に入れなかったり防災備品を保管しないといった対応はあってはなりません。そもそも防災備品をPTA会費でまかなうこと自体がおかしいというご意見ももっともでしょう」と苦言。

 その上で、「祝品などの配布といったモノの提供や、団体割引で加入できる保険などは、会員が費用を負担している以上、法律の観点からは区別することが妥当とされる場合もあります。ただ、間接的な形であるにせよそれが児童の不利益につながってはならない。非加入世帯にも平等に配布したり、あるいは公平にその都度実費精算としたり、対応は学校や地域ごとに判断が分かれるところです。それぞれうまく機能しているものに、一律で統一の基準を設ける必要もない。いずれにせよ、児童が不利益を被ることがないよう、話し合いで解決することが望ましいでしょう」と見解を語る。

 そもそも、PTAとはどういった目的で結成される組織なのか。後藤会長は「家庭と学校と社会で子どもの教育の責任を分かち合うもの」とその理念を語る。

「PTAというと、通学路の見回りや運動会などイベントの運営補助、必要経費の寄付など、学校運営における雑務やお手伝いといったイメージがあるかもしれませんが、本体は保護者と先生が対等な関係で課題を出し合い、解決に向けて活動していくもの。子育ての過程での悩みを共有したり、保護者同士が交流を図ったり、保護者の子ども時代とは大きく変わった教育現場の常識をアップデートしていくなど、親にとっての学びの場でもあります」

「入会の意思を確認」「すべての児童・生徒に平等な対応を」…PTA活動のガイドライン【写真:日本PTA全国協議会提供】
「入会の意思を確認」「すべての児童・生徒に平等な対応を」…PTA活動のガイドライン【写真:日本PTA全国協議会提供】

「参加しないのはわがまま」「ズルい」といった同調圧力と取れる声も

 一連の炎上ではPTAの在り方を疑問視する声が多く上がった一方で、「一人だけ参加しないのはわがまま」「親としての責務を果たさず利益だけ得ようとするのはズルい」といった声も寄せられた。任意加入でありながらも、平等負担を是とする同調圧力が加入者と非加入者の間に軋轢(あつれき)を生む構造になっているとの見方もある。

「PTAは義務ではないので、義務感を持って参加する必要はありません。ただ、一人ひとりが当事者意識を持つことは必要。やれることをやれる範囲でやる、忙しければ会費を払うだけでもいいですが、何もやらずに恩恵だけ受け取るというのも違う。もしも活動が保護者同士の負担になり、押し付け合いとなっているのなら、活動本来の意味を問い直し、やめてしまうのも選択肢のひとつです」と後藤会長。一方で、完全な形での廃止論については「PTAによって社会教育が支えられている一面もある。何より、保護者同士や教員との交流の場がなくなれば、個々の親の学びにかなりの差が出てくることが予想されます。社会の成り立ちそのものにも大きな影響があるのでは」と否定的な受け止めを示す。

「『子どもたちのために』という理念こそ変えるべきではないですが、活動の在り方は時代に合わせてもっと柔軟に改善していってもいい。何よりPTAによって困ったり、苦しんだりする人が出る現状は本末転倒。我々としても、『PTAは強制ではない』というメッセージはあらためて発信していくつもりです」

 全国的には形式上自動加入となっている地域がほとんどだが、名古屋市では3年前からPTA加入そのものを立候補によるエントリー制に変更。PTAの役割や目的について、事前に詳細な説明会を行ったところ、結果的に100%近い加入率になったという成功事例もある。子どもたちのために、当事者意識を持った保護者が主体性を持って参加する――。PTAがその理念のもと、本来の在り方を取り戻す日は来るか。

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