ギャグ漫画で一世を風靡したのむらしんぼがオリジナル作品にこだわるワケ「漫画はビジネスじゃない」

「月刊コロコロコミック」などで1985年から95年まで連載されていた人気作『つるピカハゲ丸』の作者・のむらしんぼ先生はコロコロ草創期を支えたレジェンド漫画家だ。長年、漫画業界を見続けてきたのむら先生は雑誌ごとに異なる編集部の雰囲気があると明かす。コロコロコミックの雰囲気とはどのようなものだったのだろうか。

コロコロコミックの魅力と歴史を語ったのむらしんぼ先生【写真:ENCOUNT編集部】
コロコロコミックの魅力と歴史を語ったのむらしんぼ先生【写真:ENCOUNT編集部】

レジェンド漫画家が語り継ぐコロコロコミックの魅力と歴史「コロコロは家族なんだ」

「月刊コロコロコミック」などで1985年から95年まで連載されていた人気作『つるピカハゲ丸』の作者・のむらしんぼ先生はコロコロ草創期を支えたレジェンド漫画家だ。長年、漫画業界を見続けてきたのむら先生は雑誌ごとに異なる編集部の雰囲気があると明かす。コロコロコミックの雰囲気とはどのようなものだったのだろうか。

 79年にコロコロコミックで『ケンカばんばん』の連載をスタートさせたのむら先生。以降、『とどろけ!一番』や『つるピカハゲ丸』などの人気作を生み出した。

 のむら先生は、現在もアナログでの執筆を続けている。「こだわっているっていうよりも、できないんですよ」と笑いながらも、アナログならではの「歪みやムラ」を大切にしたいと明かす。

 漫画家として一時代を築いたが、「僕はあんまり技術を教えられないんですよ」と謙遜。「いまだにコロコロの後輩に『これどう描くの?』って頭下げて教えてもらっています。『もうけたぜ』のハゲ丸精神なんですよ」と今でも学ぶ姿勢を忘れていない。

 のむら先生は、絵をうまく描くことよりも、いかにストーリーを創造するかということに重きを置き続けている。

「漫画家志望の若い人たちにゲスト講師として講義をしたこともありました。そのとき、僕は絵の描き方を教えなかったんです。僕の持論は『そんなものは黙ってても覚える』です。絵を教えたって漫画家にはなれない。アシスタントくらいにはなれるかもしれないですけどね。嫌味を言えば、つまらない漫画を描いて1、2本の連載で終わるような新人をいっぱい見てきました。絵だけで自信を持っちゃったんですよね。

 歴代の編集者でも『さすがしんぼさん』と納得した人もいれば、絵を重視してうまいと『メディアミックスで使える』と考える人の半分に分かれます。僕はそんなんよりも、それ以上に大切なことは、漫画家としてどうやって生きていくかってことだと思うんです。

 弘兼(憲史)先生には『常識人じゃなければ、非常識は描けないんだ』と教わりました。藤本(弘=藤子・F・不二雄)先生も『作品はその人以上でも以下でもない』とおっしゃっていました。そういうことを僕らは伝えるんです。教えるなんておこがましいです。自分がどうやってピンチを乗り切ったとか、漫画への姿勢だとか、どういう思いで原稿に向かうかなどを伝えることが大事だと思っています。僕を拾ってくれた、平山(隆/のちのコロコロ3代目編集長)さんは、僕が苦しいときに『漫画はビジネスじゃない。生き方なんだ』と言っていましたね」

 のむら先生は、メディアミックスには極力手を出さずに、「オリジナル作品」で描き続けることへのこだわりを持っている。

「人気ゲームの漫画を描いたら、いきなり売れたりするんですよ。それは自分の力ではなくて、ゲームの力だったりするんです。でも、やっぱり勘違いしちゃうんですよね。もし藤本先生に憧れたりするのであれば、何回もオリジナルで勝負して、何回も屈辱を味わって、金にならなくてもオリジナルに挑戦すればいいと思うんです。

 昔コロコロの人に泣きながら言われたんです。『のむらしんぼは小学館の宝だ』って。『そんな馬鹿なことを周りの人に言ったら、蹴飛ばされますよ』って思いましたよね(笑)。でも彼がそう言ってくれたのが勇気になったんです。ゲームとのメディアミックスでもうかったとしても、『しんぼちゃんがそれをやったらコロコロはもう終わりだ』って。『1人くらい我慢して、オリジナルを頑張って描く人がいないと下がついてこない』って」

 のむら先生が半生を捧げるコロコロコミック。編集部には他雑誌とは異なるコロコロならではのアットホームな雰囲気があるという。

「この前バラエティー番組に出演したときに『キン肉マン』の嶋田(隆司)さんが『ジャンプは編集者同士もライバルだから仲が悪い』と言っていましたが、コロコロはみんな仲良しなんです。初代編集長の千葉(和治)さんが『コロコロは家族なんだ』と言っていました。週刊ジャンプで何度か連載していた漫画家がコロコロに来たとき、『コロコロはぬるま湯ですね』って(笑)。

 お互いに助け合って、1人の漫画家がピンチに追い込まれれば、後輩の漫画家であっても、編集部から『助けてやってくれない?』とお願いされるんですよ。僕も徹夜仕事でフラフラになって『さあ寝よう』と思ったときに、『しんぼちゃん、ごめん。すがや(みつる/代表作『ゲームセンターあらし』)さんの手伝いに行ってくれない?』って。それがまた勉強になるんですよね。僕が助けてもらったこともありましたね。今はもう時代が違いますけどね。ブラック企業みたいになっちゃうから」

 現在ではコロコロコミックの創刊から黎明期を振り返るノンフィクション漫画『コロコロ創刊伝説』も執筆している。のむら先生はまさに“生き字引”としてコロコロがコロコロたるゆえんを後世に伝えている。

次のページへ (2/2) 【写真】のむらしんぼ先生が大切に温めている未公開の原稿
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