アミューズ、未明に声明の「覚悟」 星野源・新垣結衣「不倫投稿」全面否定と「法的措置」の行方【解説】

俳優・歌手の星野源(43)と俳優・新垣結衣(35)夫妻を巡り、270万人以上のフォロワーを持つ滝沢ガレソ氏が今月22日夜にXを更新し、「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手がNHKアナウンサーと不倫」などと記述。これに対して星野の所属事務所アミューズが翌23日未明に否定の声明を発表した。星野、新垣も次々と否定コメントを発表した。アミューズの緊急発表は一体何を意味するのか。法的措置はあるのか。元テレビ朝日法務部長で弁護士の西脇亨輔氏が解説する。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士

 俳優・歌手の星野源(43)と俳優・新垣結衣(35)夫妻を巡り、270万人以上のフォロワーを持つ滝沢ガレソ氏が今月22日夜にXを更新し、「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手がNHKアナウンサーと不倫」などと記述。これに対して星野の所属事務所アミューズが翌23日未明に否定の声明を発表した。星野、新垣も次々と否定コメントを発表した。アミューズの緊急発表は一体何を意味するのか。法的措置はあるのか。元テレビ朝日法務部長で弁護士の西脇亨輔氏が解説する。

 午前3時半。その発表時刻からは、鬼気迫る「覚悟」が伝わってきた。

 滝沢氏によるX投稿があったのは今月22日午後9時49分。おそらくその直後にアミューズ社は法務部をはじめ関係各所を招集し、会議を開いたことだろう。そして、方針を決め、声明文の発表までノンストップの作業が行われたと思われる。

 「覚悟」は声明の文面からも感じられた。まず、滝沢氏の投稿について「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手がNHKアナウンサーと不倫をしており、その男性歌手の所属事務所が10億円を払って記事をもみ消した」と内容を明記。その上で「星野源に関してそのような事実は一切ありません。 また、当社が記事をもみ消したという事実も一切ありません」と明確に否定している。

 通常の広報文だと問題の表現を取り上げることをためらい、「当社所属タレントについての不正確な報道」などと漠然とした説明しかしない場合が多い。だが、アミューズ社は敢えて生々しい投稿内容を引用することで、何を「事実ではない」として否定しているのかを正面から明確にした。

 その背景には、星野源氏・新垣結衣氏を巡ってのうわさが、このところ一部で報じられていたこともあるのだろう。ある週刊誌が「耳を疑うようなウワサが芸能界を駆け巡っている」として2人の危機のうわさを報じるなど、実体が定かでない話がポツポツと報じられていた。そうした空気の中での今回の投稿を放置すると、うわさはさらに拡散する。そこでそれを根本から否定するためにも、「強い覚悟」をみせたのではないだろうか。

 では、この後に星野氏・新垣氏、そして、アミューズ社はどう動くのか。

 アミューズ社の声明には「法的措置」という言葉が出てくるが、それを行うことは十分可能だ。問題の投稿には星野氏や新垣氏、NHKアナウンサーの実名は書かれていない。しかし、過去の裁判例では「匿名で書かれた記事でも、その人物の特徴や属性などから誰についての記事かが不特定多数の人に分かるのなら、名誉毀損が成立し得る」とされている。そして、今回の投稿に書かれた「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手」という特徴、属性からは、「多数の人」というより「ほとんどの人」が、星野氏と新垣氏のことを連想するだろう。NHKアナウンサーについても問題の投稿には、さまざまな情報が書かれていて、ある程度の「不特定多数」が誰のことか気付く内容だ。こちらも名誉毀損を訴えることができるだろう。

 ただ、「強い覚悟」を見せたアミューズ社法務部の声明も、法的措置については「検討」にとどめていて、「行う」と断言はしていない。

 ここに法務部、会社側の悩みがある。「法的措置」は滝沢氏に厳しく責任追及できる反面、星野氏、新垣氏の負担も重いのだ。

 民事の裁判となった場合、証拠としてどうしても本人の陳述が必要になる。相手方が請求したら星野氏、新垣氏の証人尋問も行われる可能性が高い。証人尋問は公開の法廷で、傍聴人や記者の前で行われ、不倫などの私生活について質問される。もちろん、身に覚えのないことは淡々と否定すれば良いだけだが、2人が裁判所に出廷するだけでも騒ぎになるだろう。心理的な負担も大きい。

 そして、裁判を起こしても、滝沢氏側から得られるものは十分ではないだろう。名誉毀損の慰謝料の金額は、以前よりは上がってきているがそれでも、10万円~300万円の金額になる判決が多く、無法な表現をした者が決定的なダメージを負うことは少ない。このことが「言ったもの勝ち」の風潮を支えているようにも感じる。

実感する「火がないのに煙が勝手に立つことがある」

 そうした中で今後どうするか。こればかりはおふたりの気持ちに委ねるしかない。ただ一点、テレビ局の法務部で働いていた者としてどうしても言いたいことがある。

 それは「本当に火がないのに煙が勝手に立つことがある」ということだ。これまでにそうした例をいくつも見てきた。面白半分なのか、深謀遠慮によるものなのか、事実など影も形もないところにゼロから作り話が創り上げられる。最初は「報じられてるほど大げさじゃなくても、何かあったんでしょ」と思って調べてみると、本当に何もなく、まるで異世界に迷い込んだような感覚に襲われたことが少なからずあった。

 だが、作り話も刺激的だと人の目に触れて拡散していく。そして、放っておくと、ウソが真実として多くの人に共有されていく。この現象はかつてデマの対象となった元南アフリカ大統領の名前から「マンデラ効果」とも呼ばれている。

 今回の件について私は何も知らないが、一つしかないはずの真実が無数のうわさ話で上書きされようとしているのなら、それほど怖いことはない。そうならないためには、真実とそれ以外を一つひとつ見分けていく「覚悟」を私たちが持たなくてはいけないと、あらためて感じた。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください