「○○ハラスメント」が横行する時代に…忖度しない青木真也の考え方「信念曲げて仕事やる意味はない」【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を始動。連載初回後編のテーマは「波風立てない世の中へ思う事」。
連載「青木が斬る」vol.1~後編~
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を始動。連載初回後編のテーマは「波風立てない世の中へ思う事」。(取材・文=島田将斗)
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格闘家として20年以上、国内外の名だたる団体で活躍してきた青木真也。多勢に迎合することなく自分を創ってきた。そんな青木の言葉は直球で遠慮がないゆえに、世間をざわつかせることもある。それでも青木はなぜ発信するのか。
「○○ハラスメント」という言葉が昨今、世の中にあふれている。それに伴い、本来なら始動する側がが委縮してしまった結果、現代社会では本来伝えるべきこと、注意すべきことを伝えられないという問題も起きてしまっている。
青木はそんな風潮にも全く忖度はしない。新型コロナを契機に対面でのコミュニケーションが少なくなった。「言ってくれない時代だからこそ言うことは大事」と説く。
「言ってくれる人が悪者扱いされるようになってるよね。でも、言うことは大事ですよ。何かを言って面倒くさがられて剥がれちゃう人もいる。でも案外残って引っかかってくるのもいるんです。そういうやつは水を撒くと上がってくる」
何かを言わなければ波風立たない。しかし、それは問題を先送りにしているだけ。「何も言えない流れはリスクが大きすぎる」と指摘し、“青木マインド”をこう明かす。
「人に対してだけではなくて、自分の主張を言って仕事がなくなったらそれはそれで仕方ないと思っていますからね。『あの人に嫌われたらどうしよう』『仕事来なくなったらどうしよう』ってみんな言うけど、そうなったら仕方ない。自分の信念を曲げてまで仕事をやる意味はないでしょう」
青木の信念のひとつは「社会にとって有益なものを創る」こと。これを言語化するまでに10年かかった。20代のころにあった思想のかけらが30代半ばで自らの芯になる。
「正直いろんなことがその10年間にあった。今で言う鈴木千裕みたいなもんだよね。上り調子で高ぶってる。でも、いかんせん知恵が微妙にあるから『これ違うでしょ』って乗りきれない。それで定期的にやらかす。そのなかで『こいつこういう叩き方するんだ』『こういう離れ方するんだ』っていうのを見てきた。人の流れとか人情みたいなのをいろいろ見た。それが1番大きかった」
話は戻るが、注意をする人、される人の間で分断が起きないようにするためにはどうすればいいのか。お互いの「ルール」を理解することがその第一歩だという。
「第一に自分がどういう思想・信念・主義・主張の中に生きているのか。次に大事なのが相手はどういうルールで生きているのかを考えること。格闘技も同じで一見すると共通のルールで戦ってはいるが、戦いの部分では求めるものも違うし目指すところも考え方も違う。試合のルールをいじれば内容はアグレッシブになる。ダメージの評価点が高ければお互いに打撃戦に行く。ONEもアグレッシブに行ったやつにボーナスを出すっていう分かりやすいルールじゃん。そのルールセットを理解して、自分をどう落とし込むかって作業ですよね」
「厳しい」は古いのか。青木が監督として出演したABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』では青木の弟子である21歳の中谷優我に藤田和之が強烈なビンタをして根性を叩き直そうとする一幕があった。見なくなった光景だ。
「今の若いネット世代からすると『なにこれ?』と思う。温故知新というか、昭和が一周回って新しいんだよ。だから佐山聡の『○○も技術のうち』の動画もだから今はやってるんだよ。スパルタは悪がゆえに追いやられすぎて新しい。現場でぶん殴るとかは大変なことになると思うけど、殴らないように厳しく叱咤するというのはもう新しいんだろうな」
令和の時代、人に注意されることは少なくなっている。それゆえ指摘してもらうことが「コーチング」として仕事になっている現状がある。青木は何を思って言葉をかけているのか。
「1番はそいつのことを思ってる。損得でもなく仕事でもなくそいつのことを思っていることが大事です。『この人がポジティブになるように』。なんで俺が一見すると損に思えることを言えるのか。それはそれを言って好転したときに自分にリターンがあることを実体験として知っているから。相手を思ってやったことは必ず自分に返ってくる」
今月で41歳。「僕はもう言われないのよ。誰にも言われない。そこは辛いですよね」と遠くを見つめていた。
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人に注意をするのは正直疲れる。裏を返せば叱る側はそれほど自分に労力を割いてくれているということ。パワハラはもってのほかだが、ハラスメントを逆手に取って騒ぐ若者にはなりたくない。「何も言わない」を作った「叱らない」風潮はじりじりと自分たちの首を絞めつけている気がする。
□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。