草彅剛、高倉健さんとの秘話語る ブラックコーヒー飲みながら教えてもらった大切なこと
白石和彌監督にとって初の時代劇『碁盤斬り』(5月17日公開)に主演した草彅剛。冤罪事件によって娘と引き裂かれ、武士の誇りをかけて復讐する男・柳田格之進を演じているが、役に当たって頭に浮かべたのは、『あなたへ』(2012年)で共演した故・高倉健さんだったと語る。
時代劇『碁盤斬り』で浪人を熱演
白石和彌監督にとって初の時代劇『碁盤斬り』(5月17日公開)に主演した草彅剛。冤罪事件によって娘と引き裂かれ、武士の誇りをかけて復讐する男・柳田格之進を演じているが、役に当たって頭に浮かべたのは、『あなたへ』(2012年)で共演した故・高倉健さんだったと語る。(取材・文=平辻哲也)
『碁盤斬り』は古典落語を原作に、身に覚えのない罪をきせられた上に妻も失い、故郷の彦根藩を追われた囲碁の名手の浪人の柳田格之進(草彅)が冤罪事件の真相を知らされ、娘のお絹(清原果耶)と復讐を決意していく物語。格之進を演じるに当たって、思い浮かべたのは健さんだった。
「(健さんもよく撮影した)京都撮影所だったし、そこには健さんの専用楽屋もあったとか。一緒にいた時の雰囲気、たたずまいは、格之進の男らしさ、無骨な感じは似ているなと思ったんです。これまで見た健さんの映画の印象、イメージを自分の中に落とし込んでいったかな。それが一番の役作りになったかな」
確かに、本作は健さん主演の任侠映画にも通じるところがある。笠原和夫脚本の健さん主演作は、主人公が我慢に我慢を重ねて、最後に感情を爆発させて、敵役と正面から対峙(たいじ)する。『碁盤斬り』の主人公も、同じように耐え忍びながら、冤罪事件が謀略だったことを知ると、その張本人である浪人(斎藤工)に闘いを挑むのだ。
草彅は健さんの遺作『あなたへ』で共演している。これは亡き妻(田中裕子)の思いを知るために主人公が富山から長崎・平戸へ旅するロードムービー。草彅は車の故障で困っているところを助けられた出張販売の男を演じた。
「健さんには本当によくしていただきました。ロケ先で一緒に朝食を食べた時には、いろいろとアドバイスもくださいました。『草彅君、俳優は体が元気じゃないと、ダメだよ。体に負荷がかかる時には自分でちゃんと体調管理することは大事なんだ』って。健さんは自分のミルで挽いたブラックコーヒーを飲みながら話してくれました。それは説得力があった。だから、本当に健康に気をつけている。健さんは寡黙な印象があるけど、結構おしゃべりが好きなんですよ」
草彅は、「こだわりがないのが、こだわり」のように見えるが、実際はどんなスタンスで役に向き合っているのか。
「毎回、余裕がないんですよ。監督が言っていることを一生懸命にやっているだけです。だから、得意なこと、こだわりはないですね。あまり難しく考えるのが好きじゃないんですよ。こだわってやると、途中で煮詰まってっちゃうでしょ。テスト撮影も好きじゃない。早くカメラを回して撮ろうよ、と思っているんですよ。こだわらず、パパパとやろうよ、というのがこだわりかな。でも、カメラマンさん、共演者の方の都合もあるからね」
周囲に感謝「現場には遅刻しないように」
ただ、そのこわだりのなさで、数々の結果を出してきた。トランスジェンダーの男性を演じた『ミッドナイトスワン』(20年、内田英治監督)では第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀主演男優賞に輝いている。
「それは、周りの方が作ってくれるからだと思っている。自分一人でできることは本当数少ない。だから、迷惑かけないようにとセリフだけは一応覚えている。作品というものは、相手もいるし、準備してくれるスタッフもいる。僕が魅力的なキャラクターを演じられたのは、皆さんの仕事が僕の上に乗ってきているということだけ。だから、現場には遅刻しないようにはしているかな」
大事にしているのは、素直にいること。
「素直に反応すれば、自ずとその役になれるんじゃないかなと思っている。それは、今までたくさんの方と共演してきたり、お芝居を重ねたり、いろんな監督とお仕事をさせてもらう中で、見習ったり、自分で感じることもあるかもしれない。急にはできることではないから、現場の積み重ねですよ」
健さんのアドバイス通り、健康には気をつけているのか。
「早く寝るようにしている。夜10時くらいには眠くなる。そうなったら無理しない。昔だったら、台本を覚えていないから、遅くまで読んだりもしたけど、最近は朝早く起きてやる。それから、運動も。この映画の撮影も山の中に行って、撮影することもあったので、その場所に行けないと、撮影はできないわけ。そう考えると、筋肉が大事。もしかしたら、俳優にとって、一番大事なんじゃないかな。スクワットは1日20回はやるようにしている。それは健さんの影響でもあるし、自分が現場で長く立ってきて、思ったことでもある。一番大事なのは睡眠と筋肉じゃないか、と」
毎回、リップサービスで聞き手を楽しませてくれる草彅。最後に「『碁盤斬り』も特別な作品になりましたか?」と水を向けると、「そうだね。特別な作品だね。僕の集大成で、代表作になると思います」と笑いながら言い切った。
□草彅剛(くさなぎ・つよし)1974年7月9日生まれ。1991年CDデビュー。2017年に「新しい地図」を立ち上げ、その後自身主演の『光へ、航る』(太田光監督)を収めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18)は2週間限定公開の中、28万人以上を動員し、大ヒット。また、『アルトゥロ・ウイの興隆』(作:ベルトルト・ブレヒト/演出:白井晃/19、21~22年に再演)、『シラの恋文』(作:北村想/演出:寺十吾/23~24年)など舞台にも出演。その他出演作に、西加奈子原作の『まく子』(19/鶴岡慧子監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝いた『ミッドナイトスワン』(20/内田英治監督)、『サバカン SABAKAN』(22/金沢知樹監督)など。