53歳の名バイプレイヤー・斉藤陽一郎が21年ぶり映画主演 オファーを「即答」した理由

『EUREKA』など青山真治監督の常連として知られる名バイプレイヤーの斉藤陽一郎(53)が21年ぶりに映画で単独主演した。田山花袋の名作を現代に置き換えた『蒲団』(5月11日公開、監督・山嵜晋平)で、押しかけ弟子(秋谷百音)に未練タラタラの脚本家を演じた。斉藤が本作、デビュー当時、亡き青山監督への思いを語った。

インタビューに応じた斉藤陽一郎【写真:荒川祐史】
インタビューに応じた斉藤陽一郎【写真:荒川祐史】

完成試写で不思議な気持ちに「自分ばかりが映っている」

『EUREKA』など青山真治監督の常連として知られる名バイプレイヤーの斉藤陽一郎(53)が21年ぶりに映画で単独主演した。田山花袋の名作を現代に置き換えた『蒲団』(5月11日公開、監督・山嵜晋平)で、押しかけ弟子(秋谷百音)に未練タラタラの脚本家を演じた。斉藤が本作、デビュー当時、亡き青山監督への思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

 映画、ドラマで名バイプレーヤーとして活躍している斉藤だが、単独主演は青山監督の『軒下のならずものみたいに』(03年)以来、21年ぶり。

「その間、誰も僕を思い出さなかったということですかね(笑)。多分、うだつの上がらないおじさん役はピッタリだと思ったのでしょう。釈然としない思いもありながら、『やります』と即答しましたけど……(笑)。最近は、おじさんがテーマになっているドラマがヒットしていますが、撮影は22年だったので、時代の空気感としてはフィットしていたんだと思います」

『蒲団』は日本文学史における私小説の出発点と言われている明治の名作が原作。妻子ある小説家・竹中時雄が、懇願されて弟子にした女学院の学生に恋をし、彼女に恋人ができたことで嫉妬に狂い、破門にするものの強い未練を残していく……。映画では、舞台を明治から令和に移し、設定を小説家から脚本家に変えている。時折、不適切な言動や行動があるが、憎めないかわいらしさもある。

「そう思っていただけたら、うれしいです。魔が差すというか、一歩間違ったところにある危うさも面白さ。観客には、時雄という乗り物に乗って、体験をしてもらいながら、同年代のおじさんに向けて、『オレたち気をつけようぜ』と思っていました(笑)。おじさんへの啓蒙であり、応援という側面があるのかな。明治に物議を醸し出した原作ですが、100年以上たった今、一度違う形で物議を醸すことになれば。新しい『蒲団』をお見せできればと思っていました」

 主演には気負いはなかった。

「俳優部の仕事はどんな役でも基本的にやることは一緒。今回は出演者も少なかったですし、主演だからという意識は全くなかった。ただ、試写を見た時は、自分ばかりが映っているので、何を見せられているんだろうという気分にはなりましたけど」と笑う。

 10代の頃から映画青年だった。日本公開1978年の『スター・ウォーズ』に出会い、夢中になった。映画館でチラシ集め、レコード店でサントラ盤を借りるのが日課で、映画界に強い憧れを抱いていたのだという。

「映画に携わりたいと思っていたんですが、その道がよく分からなかった。とにかく何もない状態だったんで、篠原哲雄監督の映画『YOUNG & FINE』(94年)の主演オーディションを受けて、これでダメだったら、諦めるくらいの気持ちでした。結果、選ばれたことが大きかった。青山監督も見てくださって、『教科書にないッ!』で使ってくれた。そこから映画の人たちと出会う機会が多くなったんです」

俳優生活30年、モットーは「自分で自分のご機嫌をとっていく」

 青山監督作品では浅野忠信主演の『Helpless』(96年)以降、カンヌ国際映画祭に出品された役所広司主演の『EUREKA』(2000年)、『サッド ヴァケイション』(07年)と北九州三部作で秋彦役を演じた。

「『EUREKA』の時に青山監督からオファーの電話が来て、同じ秋彦役だからと言われて、『うわ! そうなんですね!』と。主演作『軒下―』も秋彦で、同一人物。ある時、青山さんから秋彦は自分の分身だと言われました。名字は柴田ですが、イニシャルをひっくり返すと、同じになるんです」

 その青山監督も22年3月に57歳の若さで亡くなってしまった。

「公私にわたって、映画と共に遊ばせてもらいました。一緒にバンドを組んだり、『赤ずきん』(短編)をフランスで撮る時は、ピアニカを吹いてほしい、と言われ、録音したり、『東京公園』の時は、ピアニスト役だから、弾けるようにしておいてね、と言われたり。そうやって仲間を集めて音楽を奏でるように映画を作っていた。そんなことが亡くなってから、はっきり分かるようになってきた」

 俳優生活は今年30年。モットーとしてきたことは何か。

「ご機嫌で生きていければ、ということですかね。本当にロクでもない暗くなるようなニュースばかりなので、自分で自分のご機嫌をとっていく事を心がけています。あとは、今まで以上に映画館で映画を見るようにしています」

 容姿は若々しいが、私生活では中学生の娘の父でもある。

「僕は生活感がないと言われるんです。そして、一人っ子と思われがちですが実際は4人兄弟の長男なんです(笑)。娘は反抗期もなく、ギリギリ保っていますけど、ここから崩壊していくんだろうな。僕の出ている作品はあまり興味ないみたいですが、できるだけ映画を見せたいんです。僕もそうやって映画を好きになったから」

『蒲団』はどんな作品になったのか。

「『おじさんたちよ、立ち上がれ』というようなことを感じ取っていただけると、うれしいです。まだまだ斉藤陽一郎という俳優が世の中に浸透していませんので、新しい名刺になれば。最近は自分が現場で一番年上になってしまうこともあって、ある種、頼られるところもありますが、僕だって、未だに分からないことだらけです。だけど、面白いものを作りたいという目標は一緒なので、一緒にやろうよ、という気持ちでいます」。端役でもいいので映画に関わっていきたいという斉藤。今後も、10代の頃の映画青年の気持ちのままに演じていく。

□斉藤陽一郎(さいとう・よういちろう)1970年11月9日、北海道札幌市生まれ。94年篠原哲雄監督作品『YOUNG & FINE』のオーディションで主役に抜てき。青山真治監督作品『教科書にないッ!』(95)に出演以降、青山監督のほとんどの作品に出演。同監督作品『Helpless』(96)にてスクリーンデビューを果たし、『EUREKA』(2000)『サッド ヴァケイション』(07)と北九州三部作に出演。『軒下のならず者みたいに』(03)では初主演。ドラマでは、1997年テレビ朝日ドラマ『君の手がささやいている』シリーズ、2001年日本テレビ『取調室』シリーズ、11年テレビ朝日ドラマ『DOCTORS~最強の名医~』シリーズ、19年フジテレビ『監察医朝顔』シリーズなどにレギュラー出演。映画では『弟切草』(01/下山天監督)『殯の森』(07/河瀨直美監督)『ディア―ディア―』(15/菊地健雄監督)など。今年は『夜明けのすべて』(三宅唱監督)、『PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて』(古厩智之監督)が公開中。

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