『虎に翼』で話題のハ・ヨンスが驚いた朝ドラ撮影現場「韓国では寝られないことが普通」

伝統あるNHKの連続テレビ小説で日本ドラマデビューを飾った韓国人俳優がいる。『虎に翼』に崔香淑(さい・こうしゅく/チェ・ヒャンスク)として出演中のハ・ヨンスだ。主演の伊藤沙莉演じる猪爪寅子(いのつめ・ともこ/通称・トラコ)の同級生として存在感を放っている。

朝ドラで存在感を放つハ・ヨンス【写真:矢口亨】
朝ドラで存在感を放つハ・ヨンス【写真:矢口亨】

韓国で成功も日本での挑戦を決意「運命みたいでした」

 伝統あるNHKの連続テレビ小説で日本ドラマデビューを飾った韓国人俳優がいる。『虎に翼』に崔香淑(さい・こうしゅく/チェ・ヒャンスク)として出演中のハ・ヨンスだ。主演の伊藤沙莉演じる猪爪寅子(いのつめ・ともこ/通称・トラコ)の同級生として存在感を放っている。(取材・文=中村彰洋)

 今作は、日本初の女性弁護士である三淵嘉子(みぶち・よしこ)さんをモデルに描くリーガルエンターテインメント。ヨンスは寅子が通う日本初の女性専門法律学校に朝鮮半島から留学生としてやってきた崔香淑を流暢(りゅうちょう)に日本語を扱いながら、好演している。

 ヨンスは、韓国で2013年から俳優としてのキャリアをスタートさせ、数々の作品に出演。18年には、日本の人気ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(12年/フジテレビ系)の韓国版リメイク『リッチマン』で、石原さとみが演じたヒロインを務め、日本でも注目を集めた。

 幼少期から日本のアニメや漫画、文化に興味を持っていたヨンスは、韓国で活躍していた当時から日本での活動を夢に見ていた。そして22年に「今、挑戦しないと永遠にチャンスはない」との思いから、来日を決断した。

 1人として知り合いもいない中、ネットで芸能事務所を探し、現事務所・ツインプラネットに自らを売り込んだことで所属が決まった。しかし、すぐに大きな仕事が決まるわけでもなく、「ホントに私なんかが日本で仕事できるの?」と思い悩んでいた。そんなタイミングで『虎に翼』への出演が決まった。

「最初はオーディションだと思って、緊張しながら約束の場所へ向かったのですが、実際は顔合わせのような場でした。そのときに出演が決まったわけではなかったのですが、すぐに決定の連絡がきました。私がどれぐらい日本語を話せるかなどを見たかったんだろうなと思います」

 ヨンスが演じるのは朝鮮半島から留学生の崔香淑。まさに今の自分と共通点の多いぴったりの役どころだった。

「なぜ私を選んでもらえたかは分からないですが、日本語ができる韓国人で、演技経験があって、日本に住んでいるなど、いろいろとタイミングが良かったんだろうなと思います。運命みたいでした」

『虎に翼』は朝ドラ第110作目。日本では歴史あるドラマシリーズとして知られているが、事の大きさに気付いたのは、少し時間がたってからのことだった。

「のんさんが好きだったので『あまちゃん』は知っていました。『ワルイコあつまれ』(NHK)で草彅剛さんとも共演していたので、『ブギウギ』も観ていましたが、朝ドラというものがどれぐらい話題になる作品なのかは正直分かっていませんでした。でも、周りの人たちが『本当にすごいよ』とびっくりしてくれて、そのとき『すごい作品に出られるんだな』と実感しました」

日韓での撮影現場について語ったハ・ヨンス【写真:矢口亨】
日韓での撮影現場について語ったハ・ヨンス【写真:矢口亨】

今後の仕事は「タイミングを自然に待つしかない」

 撮影がスタートしてから約半年。韓国と日本の撮影現場の違いに驚くことがあるという。

「日本は和気あいあいとした雰囲気です。韓国の撮影現場も良い雰囲気ではあるんですけど、1話60分以上の全部を良いクオリティーで撮るために、俳優もスタッフもほぼ寝られないことが普通なんです。今回は、決めた時間内に終わらせられるように皆さんが頑張っています。スケジュールから大幅に遅れて終わることもあまりないのはとても救われています」

 ハングルは横書きだが、日本ドラマの台本は縦書き。慣れない日本語には日々、苦戦している。

「最初は全部1人で読んでいて、私が出ない場面も理解しなくてはいけないので、とても時間がかかりました。知らないことは検索したり、メモしたり……。1人では難しいかもとなったとき、演出の安藤大佑さんに助けていただきました。留学経験もあって、韓国語を話せる方だったので、一緒に本読みをしていただいたり、いろんなアドバイスもいただきました」

 韓国ドラマの需要は世界的に高まっているが、日本のドラマの良い部分も改めて実感したという。

「日本だからこそのふんわりとした空気感を持った作品を韓国で作ることは無理だと思います。韓国はストレートで激しい国民性なので、激しい作品が多くなっているんだと思います。作品が違うというよりも文化が違うんです。だから、どちらがすごいと比べるのは難しいですね」

『虎に翼』という日本での代表作を手にしたが、今後については「全部タイミング」と考えている。

「まだ日本語がネイティブじゃないですし、私の今の日本語レベルに合わせてくださる作品があればうれしいですが、そういったものに巡り会えないかもしれないという不安もあります。私の将来がどうなっているかなんて私でも分かりません。

 10代の頃はずっと絵を描き続けていると思っていたのに、今は日本で演技をしています。だからこれからの人生もどうやって変化していくんだろうと思っています。でも、私の意思は強いし、日本でまだ始まったばっかり。まずは今のページをちゃんと完結させて、この後は全部タイミングです。そういうものを自然に待つしかありません。いつチャンスがくるかなんて誰も分かりません」

□ハ・ヨンス 1990年10月10日、韓国・釜山生まれ。2013年にスカウトを機に俳優デビュー。さまざまな人気作に出演し、18年には日本の人気ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(12年/フジテレビ系)の韓国版リメイク『リッチマン』でヒロイン役を務める。22年からは日本での活動をスタート。23年NHK連続テレビ小説『虎に翼』で日本ドラマデビューを飾った。趣味は油絵、フィルム写真など。日本の漫画『デトロイト・メタル・シティ』『聖☆おにいさん』などが好きという“サブカル”な一面を持つ。癒やしはペットのうさぎ「マヨ」。

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