ネットで晒される警察官…職務質問の様子を撮影→拡散で賛否 OBの本音「やりづらい」

SNS上での“晒し行為”が止まらない。対人トラブルや交通マナー、炎上事案などをあおる内容が多いが、警察官による職務質問の様子を録画した映像を垂れ流すケースも目立つ。中には、「職質対処法」として喧伝(けんでん)し、物議を醸す内容も。職務質問は、街頭犯罪や薬物事件、振り込め詐欺の受け子の検挙だけでなく、隠れた重大犯罪を見つける端緒にもなり得る、重要な捜査手法でもある。一方で、顔のモザイク加工なしにSNSに無断でアップされてしまうことは職務の萎縮につながらないのだろうか。「正直、やりづらくはなっています」「ある意味、警察サイドが試されているとも言えます」……。“職質のプロ”として活躍した元警察官たちに、複雑な思いが交錯する本音を聞いた。

警察官の職務質問をSNSで晒す行為が物議を呼んでいる(写真はイメージ)【写真:写真AC】
警察官の職務質問をSNSで晒す行為が物議を呼んでいる(写真はイメージ)【写真:写真AC】

“職質のプロ”特殊部隊経験者が鋭く指摘 3人の元警察官が実名で取材に応じた

 SNS上での“晒し行為”が止まらない。対人トラブルや交通マナー、炎上事案などをあおる内容が多いが、警察官による職務質問の様子を録画した映像を垂れ流すケースも目立つ。中には、「職質対処法」として喧伝(けんでん)し、物議を醸す内容も。職務質問は、街頭犯罪や薬物事件、振り込め詐欺の受け子の検挙だけでなく、隠れた重大犯罪を見つける端緒にもなり得る、重要な捜査手法でもある。一方で、顔のモザイク加工なしにSNSに無断でアップされてしまうことは職務の萎縮につながらないのだろうか。「正直、やりづらくはなっています」「ある意味、警察サイドが試されているとも言えます」……。“職質のプロ”として活躍した元警察官たちに、複雑な思いが交錯する本音を聞いた。

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「職務質問の様子を撮影されたことは実際にあります。経験をした警察官は結構多いのではないでしょうか。SNSでからかわれるようにアップされますが、これのどこが面白いのか分かりません。それに、“回避法”なるものを面白がるネットの心理も理解できません」

 埼玉県警の元警察官で、日本とベトナムに拠点を置いてソフトウェア開発などを手がけるIT企業・LandBridge株式会社の三森一輝社長は、嘆かわしい思いを明かす。

 三森社長は、外国人が多く住む地域の交番勤務時代に、不法滞在の外国人の摘発を数多く手がけた。時には駅前に10時間以上立ち、最前線の任務をこなした。少し近付いただけでちょっと挙動がおかしくなる――。そんな些細(ささい)な相手の変化を見逃さない、職質の名人として職務にまい進した。特殊部隊(銃器対策部隊)の任務にあたった経験も持っている。

 職務質問はあくまで任意。強制ではなく、呼び止められても断ることができる。「ただ、こちらも何かがおかしいと思って声をかけています。応じていただけないとなると、『やっぱり怪しい』『やましいことがあるのでは』と、疑いが深まります」と三森社長は話す。

 埼玉県警で巡査部長を拝命し、機動隊・特殊部隊など7年間の勤務歴を持つ田母神昂佑さんは現在、同社の営業責任者を務めている。田母神さんは「警察官には治安と秩序を維持する責務があります。断られたから、それではさようなら、と言うわけにはいかないのです。前提として、不審な点があるから声をかけていることを忘れないでいただきたいです」と説明する。

 一方で、「私も撮影された経験は何度もありますが、昨今は強く出にくいという感覚はありました」。その背景にはこんな内部事情も関わっているというのだ。

 田母神さんによると、もし職務質問を受けた人から苦情を受けた場合、警察内で都度、必要な調査が行われる。警察官本人が報告書をまとめ、問題がなかったかどうか、正しい職務対応であったかどうかを上司がチェック。場合によっては警察署の署長、警察本部まで話が上がることもあり、緊張感を持った内部対応が進められるという。「報告書を書くだけでも半日ぐらいの時間がかかります。正直、苦情を受けてしまったら結構大変な事後対応になってしまうのです。もちろん問題のないように日々取り組んでいますが、動画も撮られてとなると、やりづらくなっている部分はあります」と苦い表情を浮かべる。

 同じく元埼玉県警警察官で、交番・パトロール・少年係の職務経験を持つ、同社営業担当の中嶋樹さんは「不良少年たちにTikTokに動画を流された同僚がいました。SNS投稿のネタのようになっている側面もあると思います」と打ち明ける。

「警察官だからサンドバッグにしてもいいということではない」

 世の中に出回っている“職質晒し動画”は、波紋を呼んでおり、ネット上では「警察も大変だわ」「免許証の確認ぐらい強制でできるようにしたほうがいいんじゃないでしょうか?」「こんなのばっかじゃ 大変だ」「普通に協力して所持品出せばすぐ終わるやん……逆に抵抗するのが分からない」「人の顔を勝手にSNSで流して良いのでしょうか?」など、困惑や疑問の声が続々上がっている。

 3人の元警官は、ここで冷静な見解を示す。警察サイドが職務質問の質を高めなければならないという点だ。突っぱねる人の中には、“論破”するために論戦を挑んでくる人もいるといい、「警察官自身がよりしっかり勉強して、法的根拠について合理的に説明できるようにならないといけません」と三森社長。「もちろん、警察官は正義のために悪人を捕まえる必要があります」と、警察官の存在意義についても強調する。

 解決策はあるのか。3人はこれについても口をそろえる。懇切丁寧に対応することだ。

 三森社長は「もちろん、切り取りや悪意のある編集の問題もありますが、警察官がちょっと上から目線になっているなど、何かあるから拡散されて炎上してしまうのかもしれません。今の時代、警察官が試されているようになってきていると言えます」と鋭く指摘する。

 田母神さんはこのままではSNS炎上リスクを懸念して警察官を志望する人が減る要因の1つになるかもしれないとの危機感を抱いている。そのうえで、「警察官が堂々と職務を全うすることが大事だと思います。適正にきちんと職務質問を行っていれば、勝手に動画をアップされても炎上することはないのかなと思います。警察力を高めるための1つのきっかけにつながるかもしれません。警察官は執行力の強化・向上を図っていくことが求められていますし、一般の皆さんにはSNSとの適切な付き合い方を覚えていただきたいなと思います。警察官だからサンドバッグにしてもいいということではないんだよ。このことは私たちOBとしてもしっかり伝えていきたいです」と話している。

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