57歳から俳優のダンサー田中泯、普段は山梨で農業「帰ったらお茶の枝の手入れ」

ディズニープラス「スター」のオリジナルドラマシリーズ『フクロウと呼ばれた男』(独占配信中、全10話)に出演する田中泯(79)。ダンサーだが、57歳の時に山田洋次監督に抜てきされ、『たそがれ清兵衛』(2002年)でブレークし、数多くの映画、ドラマに主演する。ダンサーならでは、の役作りとは?

インタビューに応じた田中泯【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた田中泯【写真:ENCOUNT編集部】

ディズニープラスのドラマシリーズ『フクロウと呼ばれた男』で主演

 ディズニープラス「スター」のオリジナルドラマシリーズ『フクロウと呼ばれた男』(独占配信中、全10話)に出演する田中泯(79)。ダンサーだが、57歳の時に山田洋次監督に抜てきされ、『たそがれ清兵衛』(2002年)でブレークし、数多くの映画、ドラマに主演する。ダンサーならでは、の役作りとは?(取材・文=平辻哲也)

 全身からただならぬ殺気を放っていた『たそがれ清兵衛』をはじめ、『隠し剣 鬼の爪』(04年)、『八日目の蝉』(11年)、『外事警察 その男に騙されるな』(12年)、米映画『47RONIN』『永遠の0』(13年)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)、『無限の住人』『DESTINY 鎌倉ものがたり』(17年)、韓国映画『サバハ』(19年)など作品多数の田中。本業はダンサーで、普段は山梨県内で農業を営んでいる異色の存在だ。

 第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『PERFECT DAYS』(公開中)ではホームレス、新作ドラマではフィクサーと役の振り幅も広い。俳優としてはどんなアプローチを見せているのだろうか。

「おそらく、俳優のみなさんは夢中でセリフを練習するところから始めると思うんです。僕は一度も滑舌の練習はやったことがないです。台本を読んで、この人はどんな人だろうと考えて、台本には書いていない部分を勝手に思い巡らして、どんな歩き方なのかなというところから始めますね」

 役作りは身体の動きからというのがダンサーらしい。

「僕が初めてお芝居したのは57歳の時です。10代から俳優になりたいと思って、一生懸命やってきた人たちにとんでもない遅れを取っているわけです。でも、僕はそれまで50年踊りをやってきたわけだから、それで得た体の存在を手放すわけにいかない。そこから始めるのが俺流だと思いました」

 歩き方、立ち方一つで見え方は全然違って見せられる。本作でも、田中の動きに注目すると、ドラマが一層面白く見られそうだ。

「かかとで立っている人、つま先の方に重心がある人。肩の動き方、ほんの小さなことだけど、ポジションの違いは大きい。疲れた時は足のつま先が突っかかるとか、いろんなことが起きている。体の動きにもクセはあるし、常識的に年を取ってきたら、重たい頭があるから背中も丸まってくる。そんなことを空想して、その役の人物を体の中に入れてくる。そういうことをやっていると、楽しくなっていくんです」

『フクロウと呼ばれた男』でフィクサー役に挑んだ田中泯【写真:(C) 2024 Disney】
『フクロウと呼ばれた男』でフィクサー役に挑んだ田中泯【写真:(C) 2024 Disney】

 本作はフィクサーの大神龍太郎が、親交の深かった次期総理候補の息子のナゾの死をきっかけに国家の裏側から政界に潜む巨悪の正体へと近づいていくというサスペンスだが、フィクサーと家族のホームドラマの側面もある。

「主人公はずっとフィクサーをやってきたわけですが、それまでは家族とはあまり向き合ってこなかったわけですね。自分自身も肉体的にも社会的にも衰えていって、初めて家族とも向き合っていく。家族のことは全部、女房に助けてもらっていたんですが、任せていただけではやばいと感じたんでしょうね」

 田中自身は家族をどう考えているのだろうか。

「僕は龍太郎よりひどいかもしれないなぁ(笑)。3人の子どもがいるけど、『君たちの人生より、俺は俺の人生の方が大事だから頑張ってね』と言って僕が家族から勝手に独立して生きてきましたから、いわゆる家長では確実にないです、すみません。僕は、家族っていうものが何よりも優先するとは全く思わないです。大人になれば、みんな一人の人間で、孤独。それでいいんですよ。僕とは全然違う生き方で生きているようですよ」

 仕事で東京にいる以外は山梨県内の山中で農業を営んでいる。

「だいぶ暖かくなってきましたが、標高が高い山の中なので、町に比べると、温度は低いですね。帰ったら、お茶の木の枝をそろえないといけない。これから新芽が出てくる季節なんです。畑にも野菜の種を植えていくつもりですよ」。今後も農作業で鍛えた体を使って、ダンサー、俳優として身体表現を見せていく。

□田中泯(たなか・みん)1945年3月10日、東京都生まれ。66年クラシックバレエとアメリカンモダンダンスを10年間学び、74年より独自の舞踊活動を開始。78年にパリ秋季芸術祭「間―日本の時空間」展(ルーブル装飾美術館)で海外デビューを飾る。以降、独自の踊りのあり方「場踊り」を追求しながら、「カラダの可能性」「ダンスの可能性」にまつわるさまざまな企画を実施。ダンスのキャリアを重ねる一方で、57歳のころ、『たそがれ清兵衛』でスクリーンデビューし、以降映画への出演多数。

○作品情報
『フクロウと呼ばれた男』
■配信:ディズニープラス「スター」で独占配信中

■出演:田中泯 新田真剣佑
安藤政信 長谷川京子 中田青渚 / 萬田久子
二階堂智 ハイディ・バーガー 池田良 結城貴史 柳英里紗 あこ
大坊健太 尚玄 淵上泰史 忍成修吾 土屋キュウ 久藤今日子 浦浜アリサ 大西信満
野村祐人 片山萌美 川瀬陽太 吉澤健 / 中野英雄 / 木村多江 / 長塚京三
大友康平 益岡徹 / 原田美枝子 中村雅俊

■エグゼクティブ・プロデューサー&脚本:デビッド・シン

■演出:森義隆、石井裕也、松本優作

■コピーライト:(C) 2024 Disney

ヘアメイク:横山雷志郎(Yolken)
スタイリスト:九(Yolken)

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