格闘技イベント「RIZIN」の2024年最初のナンバーシリーズ「RIZIN.46」が29日、東京・有明アリーナで行われた。メインは群雄割拠のフェザー級のタイトル戦。史上最年少王者の鈴木千裕（24＝クロスポイント吉祥寺）が最年長挑戦者の金原正徳（41＝リバーサルジム立川ALPHA）に1R・TKO勝ちを収め、昨年11月に手に入れたベルトを初防衛した。MMA歴20年、青木真也の目にはどう映ったのか。（取材・文＝島田将斗）

　RIZINフェザー級頂上決戦は260秒で終わった。最後は鈴木が嵐のような打撃で金原を飲み込んだが、青木が注目したのは開始12秒のファーストクリンチだった。ここで勝敗は決したという。金原は自らタックルを仕掛けにいくが、テイクダウンできず。組みのなかで膝蹴りをお互いに出し合う展開になっていた。

「（敗因は）ファーストクリンチですぐテイクダウンできなかったことですね。四つ（お互いに両手で差し合う形）だったんですけど、あれが片足、もしくは両足タックルだったらテイクダウンは取れた。でも金ちゃんは得意じゃないんです」

　このタックルに行けなかった理由は長いキャリアでの「蓄積ダメージ」があるという。

「首が悪いからたぶん入れないんですよ。ベテランの選手にあるんですけど両足タックルに入ると首がバチンとなるからなかなかできないんですよね。僕も悪くないんだけど怖くて入れないし」

　金原自身も試合後の会見でファーストクリンチで「歯車が狂った」と振り返った。青木はこの四つで鈴木がテイクダウンディフェンスに自信を持ったのではないかと指摘した。

　スタンドではやはり鈴木に分がある。フィニッシュシーンまでの50秒間、若さで圧倒しているかのように見えたが、青木はこう続けた。

「若さでゴリ押しされたというよりも、結局オープンフィンガーの打撃戦は若い人が勝つもの。フレッシュさも反応の速さも全部若い人が勝つ。そういう意味では（金原は）組みをもっと混ぜたりしないとどうしようもなかったんだけど、組みが切られてしまったから“手詰まり”なんですよね」

　青木いわく技巧派ファイターは将棋のように先が読めてしまうと試合を投げることがあるのだと指摘した。

「金ちゃんは認めないと思うけど、もう分かってたでしょう。だからKOというよりも『倒しちゃってね』という感じだった気がしますけどね。詰みですよ。そして頑張れないのが年齢ですから。若ければ先が見えても足にしがみついて、レスリングやってとかの攻防になる可能性も全然ありましたよね」

　一方の鈴木にはどんな印象を持ったのか。MMA自体は粗削りであるが、若さと体の強さが光って見えたという。「計量してフェイスオフのときに体の大きさがもう全然違うのよ。内臓が強いのよ」と感心していた。

　フィジカルについてペルー人の父を持つ鈴木も自身のストロングポイントとして過去にこう語っていた。

「地力の差ってあるんですよ。試合前日まで同じ体重で計量に乗って、同じ時間が設けられてリカバリーする。外国人に同じ体重、同じリカバリーで腕相撲しても勝てないんですよ。でも自分（鈴木）には関係ない。外国人の力を持った日本人なので」

　それは島国日本と大陸の差であると青木は持論を展開した。

「歴史のなかでさまざまな“血”が混ざりあったのが大陸の人たちなんだよね。アメリカにしても中国本土（ユーラシア大陸）にしても地続き。シルクロードで流通、交通があるから人が交わるんですよ。シルクロードのあたり、中央アジア国の人は体が強い。文化の交流、人の流れが生まれて、さまざまな“血”が混ざる。その違いはあると思う」

　もう1つはメンタリティーだ。「信じる力、情熱の強さを感じましたよね。言い方悪いけどやっぱりバカは強いですよ」と語った。

　今回の勝利でしばらくは“鈴木政権”が続くと見ている。ノーコンテストとはなったものの昨年、クレベル・コイケと対戦した鈴木は一本を取られているが。そのときと今とでは全く違う様相になると予測していた。

　そんな鈴木を倒せる相手は日本人ではなく外国人であるという。

「新型コロナ禍に出てきた日本人選手って外国人がちょろっと入ってくるだけで淘汰されていくわけじゃないですか。コロナ明けて外国人が入ってくるとその流れは加速しまう。なので期待するのは外国人。それぐらい海外の厳しさはありますよね」

　その上で24歳の鈴木にこう提言した。

「外国人のリーグでやった方がいいと思います。RIZINでやるのとはまた違うから。本当の意味でビッグマネー、ビッグチャンスをつかむなら向こうの市場でやった方がいいと思う。若いですし、1回狙ってもいいと思う」