SMILE-UP.は勝てるのか…「東山の発言を意図的にゆがめて」と抗議も、英BBCが残していたキーワード
SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)が25日、英BBCに抗議文書を送付したと発表した。抗議の対象は3月30日放送のドキュメンタリー番組『捕食者の影 ジャニーズ解体のその後』。東山紀之社長がネット上で続く誹謗中傷について「言論の自由」などと述べたという放送内容について、訂正と謝罪を求めた。この先、SMILE-UP.対BBCの闘いはどうなるのか。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説した。
元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説
SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)が25日、英BBCに抗議文書を送付したと発表した。抗議の対象は3月30日放送のドキュメンタリー番組『捕食者の影 ジャニーズ解体のその後』。東山紀之社長がネット上で続く誹謗中傷について「言論の自由」などと述べたという放送内容について、訂正と謝罪を求めた。この先、SMILE-UP.対BBCの闘いはどうなるのか。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説した。
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放送から約1か月。SMILE-UP.による突然の抗議だった。
抗議内容は、旧ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏による性加害問題で被害を訴える人への誹謗中傷について考えを聞かれた東山社長が「『言論の自由』もあると思うんですね」「多分、その人にとってはそれが正義の意見なんだろうなと思う時もあります」などと答えた部分だ。
SMILE-UP.側は「この発言後に東山社長は『なるべくなら、誹謗中傷は無くしていきたいと僕自身も思っています』と述べていたのにBBCはこれをカットし、『東山の発言を意図的にゆがめて放送した』」などと指摘している。
私もテレビ局の法務部で働いていた時、こうしたトラブルを数多く目の当たりにしてきた。テレビ番組には放送時間の限りがあるため、収録したインタビューを「編集」し、ポイントが分かりやすいように短縮する必要がある。しかし、発言の切り貼りのやり方次第では、発言者の意図と真逆に聞こえるようにもなる。それだけに細心の注意が必要だ。
では、今回のBBCによる「編集」は、東山社長発言を「ゆがめた」のだろうか。
SMILE-UP.は東山社長の「誹謗中傷は無くしていきたい」という内容の発言がカットされたとしている。しかし、BBCは「『言論の自由』もあると思うんですね」という発言の直後に、東山社長のこうした言葉を放送していた。
「僕は別に誹謗中傷を推奨しているわけでもなく」
「誹謗中傷に肯定的ではない」という東山社長の考えは、ここで紹介されているのだ。
一方で、SMILE-UP.が問題にした「カット部分」は、東山社長が「誹謗中傷を無くす」と高らかに宣言したものではなかった。「誹謗中傷を無くしたい」という発言の前には、次の6文字の言葉が付されている。
「なるべくなら」
カットされた発言は「誹謗中傷のライン引きは大変難しい」などと述べた後に、「なるべくなら、誹謗中傷を無くしたい」という思いを語ったものだった。文脈からすると、これは「誹謗中傷の対応は難しいんですよ」という主題を述べた後に「なるべくなら、誹謗中傷は無くしたいですけどね」という思いを付け足したものに聞こえる。「誹謗中傷は絶対根絶!」という強い意思を宣言した言葉ではない。
考えられるBBC「編集」の意図
とすると、「別に誹謗中傷を推奨しているわけではない」という発言は紹介しているので、さらに「なるべくなら、誹謗中傷はなくしていきたいと僕自身も思っています」という発言まで放送しなくても、視聴者に誤解は与えないだろう。また、この部分をカットしても、BBC記者から「被害を公表した1人はインターネット上で嫌がらせを受けました。そして、自分の命を絶ちました。被害者をうそつきだと批判する人々にあなたから伝えたいことはありますか?」と聞かれ、「『言論の自由』もあると思うんですね」と答えた東山社長発言の意味合いが変わることもない。BBCはそう考えて「編集」したのではないだろうか。
こうして考えると、BBCの「編集」は東山社長の発言を「ゆがめた」ものには当たらないように思える。果たしてSMILE-UP.による抗議にBBCはどのように回答するのだろうか。そして、この闘いはこれからどのような展開を見せるのだろうか。
ただ、SMILE-UP.については「この闘いより大事な使命があるのではないか」とも感じる。現在、支払率が約30%の被害補償を誠意を持って進めること、SNS上の誹謗中傷を先頭に立って根絶していくこと。こうした地道な取り組みの先にしか、ジャニー氏性加害問題を解決する入り口はない。そのことは、決して忘れてはいけないと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。