「素の自分を出すのが苦手」 お笑い界屈指の演技派芸人、ハナコ岡部が同級生記者に明かした本音

今年結成10周年の節目を迎えたお笑いトリオ「ハナコ」が、“お笑い第7世代”をけん引する存在として連日テレビに引っ張りだこの日々を送っている。ネタ作りの中核を担う秋山寛貴、朝ドラや大河など役者としても活躍の場を広げる岡部大、自然体の飾らない雰囲気が魅力の菊田竜大の3人に、岡部と高校3年間同級生だったという記者が直撃インタビュー。コント作りの哲学と現状への課題を聞いた。

今年、結成10周年の節目を迎えたハナコの3人【写真:舛元清香】
今年、結成10周年の節目を迎えたハナコの3人【写真:舛元清香】

「誰かになって舞台に立った方が、自分はやりやすいし楽しい」

 今年結成10周年の節目を迎えたお笑いトリオ「ハナコ」が、“お笑い第7世代”をけん引する存在として連日テレビに引っ張りだこの日々を送っている。ネタ作りの中核を担う秋山寛貴、朝ドラや大河など役者としても活躍の場を広げる岡部大、自然体の飾らない雰囲気が魅力の菊田竜大の3人に、岡部と高校3年間同級生だったという記者が直撃インタビュー。コント作りの哲学と現状への課題を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

――結成4年目でキングオブコント(KOC)優勝。ここまで順風満帆に見えるが、実際は。

秋山「賞レースに関しては早かったですね。結成4年で優勝ってあんまりいない」

岡部「自分たちとしても苦労してきたつもりではあるんですけど、他の芸人さんたちに比べたら早いと言われることが多い。それでも優勝するまではちゃんとみんなバイトざんまいで、ちゃんと病んできたので……(笑)」

秋山「賞レースに向けてネタの作り方を変えたというのはないけど、本数は増やしましたね。今もネタ作りは大切にしていて、YouTubeで毎週新ネタを公開している。映像だとお客さんがいないので、ウケるスベるが相方とかスタッフさんとか、身内の反応だけ。よく言えば自由に、悪く言えばダラダラとやらせてもらっています」

岡部「YouTubeって舞台と同じようなコントをやると、テンポが良くてあざとくなりすぎちゃうんですよ。舞台で見てもらうときは笑いやすいタイミングとか、フリの細かい一言を入れたりとか気にしながらやるんですけど、映像だと『ここで笑ってください!』みたいなのが強く出すぎちゃって。笑い声もついてこないし……。だからもっと自由に、自然体にやってる方が映像の笑いには合っている感じがしますね」

――岡部さんは役者としても目覚ましい活躍だが、演技への関心はいつから。

岡部「漫才よりもコントをやりたくなって前のコンビを解散したというのがあったので、何か役を演じるということはもともと好きだったのかも。漫才って素のままの人間が出ている方が面白いんですけど、漫才をやってたときも何かひとつキャラが入った状態で舞台に上がっていたので、それだったら最初から演じるコントで、誰かになって舞台に立った方が、自分はやりやすいし楽しいかなと。素の自分を出すのが苦手? そうですね(笑)」

菊田「どうですか? 同級生の記者さんから見て」

――確かに、高校時代からオンオフははっきりしていたような……。

一同「ハハハ」

岡部「今まではいただいた役は自分の延長にあるような人物が多かったので、自分とリンクする部分を取っ掛かりにグッと入り込めていたんですけど、今度の『ブルーモーメント』(フジテレビ系、4月24日水曜午後10時スタート)はあんまりやる気のない冷めたキャラで、ちょっと軽薄なところもある役どころ。シリアスな場面でもそんなにやる気がない、でも真剣っていう絶妙な塩梅をどう表現すればいいのか。悩みつつ監督さんと話し合いながら挑戦させていただいてます。松重豊さんとは今ではおいしいお店を報告しあう仲。演技で困ったらアドバイスをもらいに行こうと思ってます(笑)」

――コントとドラマの共通点や相違点、それぞれの経験が役立っているところは。

岡部「コントは不自然なところが笑いになるんですけど、ドラマの不自然さはただ浮くだけ。ドラマではいかに自然にそこになじむかということが一番の違いですね。一方で、コントでも一個目のつかみまでや、フリの部分ではグッと世界観に入り込めた方が、逆にそのあとのボケが際立つ。グッと雰囲気を作りたいときの演技なんかは、ドラマのおかげで前よりもうまくなった気はします」

秋山「単独ライブで、最初に感動路線で観客を泣かせにいって、そこから笑いに転じさせる『亡くなった父親からのビデオレター』というネタをやったんです。前半はシリアスな演技なんで、普通の芸人なら難しかったり、照れが出ちゃったりするところも、今の岡部なら余裕でしょと」

10年後の目標を明かしたハナコ【写真:舛元清香】
10年後の目標を明かしたハナコ【写真:舛元清香】

「トリオっぽいネタは作らない」 コンビで完結し頭を抱えることも

――あらためて、ネタ作りのプロセスは。

秋山「まずやりたいシーンやくだりがあって、そこからその前後を考えていくんですけど、その場面にいそうな菊田っぽい人ってどんなだろうとか、岡部をどんな感じで使おうかとか当てはめていく感じです。でも、最初から3人出すことを意識しているわけではない」

岡部「トリオっぽいネタを意識して作ったことはないですね。だからたまにコンビで完結しちゃって、頭を抱えるというのはよくあります。でも、(放送作家の)鈴木おさむさんからは『それがハナコの色でいいんじゃない? 菊田があんまり出なくても、“使わないという使い方”をしてる』って言っていただいて。逆に何も意識してない分、たまたまトリオっぽいネタができることも時々あって、そういうときは『今日の菊田しゃべってたねー!?』ってびっくりされたり(笑)」

秋山「不思議と『もっと出番よこせよ』っていう不満もなさそうなんですよね」

――菊田さんが芸人の道に進んだきっかけは。

菊田「小学校の先生から、『菊田くんは将来芸人さんになるんだよね』と言われたことですね。いわゆる爆笑王というか、クラスの人気者だったんですよ。そのまま小中高大ときて、大学生のときに普通に就職しようか迷ってたら、サークルの友達から『やっぱ菊ちゃん面白いなー』って言われて。ただ面白いんじゃないんだ、“やっぱ面白い”なんだ、そう言われたら芸人になるしかないなと。お笑いサークルの友達? いや、テニサーです」

岡部「お笑いサークルは見に行ってやめたんだよね」

菊田「法政大で唯一のお笑いサークルがあって、『学生のお笑いなんて絶対大したことないだろ!』って思って行ったら、めっちゃ面白くて大爆笑したあとに、怖くなっちゃって。『やべー、ここに入るのはやめよう。俺はプロ目指そう』って。プロ野球選手が軟式でやったら逆にフォーム崩すみたいな。それでテニサーの爆笑王に落ち着きました」

岡部「いないんじゃない? テニサーの爆笑王でテレビ出てるやつ」

秋山「このノンプロ感ですよね、菊田のすごさは。菊田からはお客さんの匂いがするんです。じゃない方芸人とか、できないキャラでもないんですよ。一生懸命やって失敗して面白いとかとも違う」

岡部「できないとかじゃなくて、やらない人なんですよね。そのくせ誰よりもお笑いが好き。こんな人いないですよ。お笑いに熱いのにやらない」

菊田「やる気はめちゃくちゃあるんですよ。でもものすごい面倒くさがりなのと、あと、ちょっと恥ずかしくないですか? いい年した大人がふざけたことやってるのって。なんで30歳過ぎて人前でボケなきゃいけないんだろって。自分から体張りにいくなんて、冷静に考えたらおかしいじゃないですか」

――菊田さんはもとより、3人からは一世代前の芸人とは違う自然体の魅力を感じる。

秋山「そう言っていただけるのはありがたいですが、それが悩みでもある。ワーと前に出なきゃいけないときでも3人が3人とも出られない性格なので」

菊田「逆に聞きたいんですけど、ハナコってネタは面白いと思うんですけど、平場のトークで面白味あります?」

岡部「いやいやいや、一番何もしてないやつが言うなよ!(笑)」

秋山「そう思うなら菊田が平場を頑張ればいいじゃない。まあ、こうやって冷静に俯瞰(ふかん)で、それでいて誰よりも熱く、ある意味お客さん目線でズバッと指摘してくれる。これが菊田の魅力ですね」

――あらためて10年後の目標は。

秋山「同じ方向を目指すコント仲間も増えてきている。そういう仲間たちと、映画だったり、ドラマだったり、CMのプロデュースだったり、前例がないようなことをやっていきたい」

岡部「やっぱりハナコの中心はコント。いずれは名だたるコント番組でトリを飾れるように。軸足はそこに置きつつ、あとはそれぞれがそれぞれの方面で活躍していければ」

菊田「僕はテレビに出続けたいですね。人気者であり続けないとネタは見てもらえない。どういった形であっても、自分からは取りにいけなくとも、呼ばれた仕事を一生懸命やる。それは変わらないですね」

□菊田竜大(きくた・たつひろ)1987年6月12日、千葉県出身。お笑いトリオ「ハナコ」の中ボケ・何もしない担当。趣味はスニーカー収集。

□秋山寛貴(あきやま・ひろき)1991年9月20日、岡山県出身。お笑いトリオ「ハナコ」のツッコミ、ネタ作り担当。趣味は絵画、キャラクターなどのデザイン、縮尺模型、食品サンプル観賞。

□岡部大(おかべ・だい)1989年5月30日、秋田県出身。お笑いトリオ「ハナコ」の大ボケ、ネタ作り担当。NHK連続テレビ小説『エール』、大河ドラマ『どうする家康』など、役者としても活躍。

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